第158話7-13派閥
セキさんの咆哮で落ち着きを取り戻した信者の皆さん、つかつかとエマ―ジェリアさんに近づくセキさんにみんな注目する。
「さてと、わたしは『爆竜のセキ』。そこのエマ―ジェリアと言う聖女と運命を共にしていた赤竜よ。女神様である私の母の一人、エルハイミ母さんを信仰するのはうれしいけど、ちょっとやり過ぎじゃない?」
セキさんにそう言われ驚き腰を抜かしていた信者の皆さんは恐る恐る聞く。
「あなたが赤竜様ですか?」
「若い女性にしか見えませんがな‥‥‥」
「ステキなお姉さまですよね?」
「赤竜と言えば古き女神様を焼き殺したと言われる古のドラゴン‥‥‥」
口々にそう言いながらみんなセキさんに注目する。
するとセキさんはエマ―ジェリアさんを引き上げ立たせてあげる。
「エマ大丈夫? さてと、なんでみんなエマを教会に呼びたがるのよ?」
セキさんがその疑問を口にした途端信者の皆さんは目を背ける。
なんか様子が変だな‥‥‥
「それは私が説明しましょう」
声のした方を見るとびしっとした服を着こなしたおじさんが居た。
年の頃は三十台半ばかな?
紳士と言ういで立ちのその人はこちらに向かって軽く頭を下げて挨拶をして来た。
「私の名はカルス。この町の町長をしています。たまたま通りかかり『聖女様』と言う言葉が耳に入りまして様子を見ていました。しかしそちらの女性のあの鳴き声、確かに竜のそれでした」
そう言ってエマ―ジェリアさんに向かって深々と頭を下げる。
「まさか聖女様がこちらに来られていたとはつゆ知らず、失礼を致しました。そして赤竜様までお越しいただくとは光栄の限りです」
「ご丁寧にありがとうございますわ。私はエマ―ジェリア=ルド・シーナ・ハミルトン。女神教ユーベルトの地で聖女をしている者ですわ」
「んーと、あたしはセキ、『爆竜のセキ』ね。よろしく。で、何なのこの信者の人たち?」
エマ―ジェリアさんが挨拶を返すとそのカルスと言う町長さんはにっこりと笑ってこう言う。
「こんな所で立ち話も何です、私の屋敷はすぐ近くなのでそちらにいたしてください。お連れの方もご一緒に。それと皆さん丁度良い。皆さんの教会から司祭様を呼んで来ていただけますか、私の屋敷に」
カルスさんがそう言うと信者の皆さんはびくっとなり首を縦に振ってからすぐさま蜘蛛の子を散らすかのように消えていった。
「良いのですの?」
「ええ、丁度聖女様がおられる。この町の抱える問題を解決するにはちょうど良いのですよ」
そう言ってカルスさんは僕たちの屋敷に案内するのだった。
* * * * *
「へぇ~、あんたイルスの子孫だったんだ!」
「はい、そう聞き呼んでおります」
セキさんは出されたお菓子を口の放り込みながらカルスさんと話している。
カルスさんの屋敷に連れられて行った僕たちは応接間でお茶をいただきながら色々と話を聞いていた。
カルスさんのご先祖様はこの港町で最初に女神信仰を始める中心人物だったらしい。
当時ここでいろいろとあってエルハイミねーちゃんに助けられ、そしてエルハイミねーちゃんが女神であることをいち早く認識し、ユーベルトで女神教が発足する前からエルハイミねーちゃんを信仰していたらしい。
言わばここはそう言う意味では一番最初の女神教の発祥の地でもあるわけだ。
しかしエルハイミねーちゃんの生家であるユーベルトの方が有名になり、事実女神様であるエルハイミねーちゃんが降臨した場所でもある事からそちらの方が有名となり、女神教発祥の地とされた。
さらにセキさんがエルハイミねーちゃんの僕となり神殿を守っていると言う事になったから今はあの地が聖域と扱われている。
「そうでしたの、女神様をいち早く認識し、そして信仰していたのはこちらのノヘルの方が早かったのですわね?」
「ええ、信仰自体は早かったようですが、降臨されたのはそちらユーベルトでした。ですのでこの長い間に女神様の信仰する方向が多様化して、大魔導士であられた時代の呼び名も加わりそれが派閥を産んだのです」
カルスさんはそう言いながらお茶を飲む。
そんなカルスさんを見ながらミーニャは面白く無さそうにつぶやく。
「お姉さまの魔女だった頃の呼び名がそのままじゃない‥‥‥」
ミーニャのその言葉を受けてセキさんはうんうんと首を縦に振っている。
「まあ、エルハイミ母さんは色々とやらかしているからねぇ~。それで、なんでみんなエマを各教会に呼び寄せようとしたのよ?」
「それですが、実はこの町も財政難でして町から支給する教会への支援金も見直しを余儀なくされているのですよ。もともと女神様に対する信仰はこの町の住民であればだれでも持っていて、昔からそれは家訓になる程でした。しかし派閥が出来てしまいその各派閥に対して町の住民も信仰をする対象に好みが分かれましてね」
言いながらカルスさんは大きくため息を吐く。
「もともと同じ女神様を信仰するのですから、一つにまとめて崇めて欲しかったのです。ですが派閥が出来た事によりその支援金争奪にも拍車がかかりいがみ合うようになってしまったのです。そんな時にユーベルトの聖女様が現れた、これは自分たちの派閥が正当であると宣伝するにはうってつけですからね」
なるほど、女神教の正当性をアピールして他の派閥を押さえるつもりだったんだ。
僕はその事に気付きエマ―ジェリアさんを見る。
するとエマ―ジェリアさんはふるふると小さく震えていた。
「め、女神様は、あのお方は、どれか一つをお教えに等なっていませんわ‥‥‥ 私だって神殿で女神様の教えを受けましたがそれはどれもこれも慈愛に満ちたもの。皆さんの仰ることはどれも女神様のお言葉ですわ!」
言いながらエマ―ジェリアさんはばっと顔を上げ、カルスさんを見る。
カルスさんはそんなエマージェリアさんの顔をじっと見てからふと小さく笑って頷く。
「まさしくそうです。女神様の教えは慈愛に満ちたものです。ですから聖女様にはこの派閥争いを止めたもらいたいのです、そのお姿を使っていただいて」
「へっ、ですわ?」
カルスさんはそう言ってつかつかと応接間に有る一枚の絵画を指さす。
「これは我が祖先イルスが描かせたと言う女神様降臨の絵です。似ていると思いませんか?」
そこには天使の羽根を背に輝かしい一人の少女の姿が人々の救いを求め差し出す手の中に降り立つシーンであった。
そしてそこに描かれているその少女はエマ―ジェリアさんによく似ている。
そう、エルハイミねーちゃんその人だった。
「『聖女様』であり、赤竜様もご一緒となればそのお言葉は我ら女神信仰者にとって女神様のお言葉も同然。『聖女様』には女神様のお言葉を皆に伝えていただき派閥争いをやめさせていただきたいのです!」
カルスさんにそう言われ驚きに目を見開くエマ―ジェリアさんだったのだ。
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