第157話7-12女神信仰
ノヘルの港町は女神信仰の盛んな場所だった。
「凄いですわね、町のあちらこちらに教会が有るなんてですわ」
「本当ですね、でもこれってあのエルハイミねーちゃんを信仰している訳なんだ‥‥‥」
記憶にあるエルハイミねーちゃんって何処か抜けているようなお気楽な感じだったはずだけど、確か女神様をやる事になってから忙しくなって‥‥‥
ジルと言う人の記憶が完全に戻ったわけではないので僕は首をかしげる。
ただ、あの人は凄い人で僕にとっても姉のような人だった。
いや、実際にはシェルさんもうちの姉さん事ティアナ姫も同じく僕の姉のような存在だった。
それだけはしっかりと思い出している。
「とりあえず安宿を取って、それから馬車と馬の調達だな。それとこのイージム大陸なんだが‥‥‥」
リュードさんは港町の郊外を見る。
そこには立派な城壁が有った。
「このイージム大陸は人が住むには過酷な場所だ。町の外には魔獣や妖魔がうようよいるからな。野宿するにも命がけになる。まあ、うちにはアイミがいるんで夜間はだいぶ助かるがな」
ぴこっ!
アイミは嬉しそうに胸を張る。
そう言えばアイミって寝ないで済むから何時も野宿の時は見張りをやってくれる。
おかげで夜はちゃんと眠れるのは助かる。
「おやおや、そこのお嬢さん、あんた女神様を信仰する方かな? どちらの宗派かのぉ?」
僕たちは宿屋を探して町中を歩いていると一人のお婆さんがエマ―ジェリアさんに近寄って来た。
エマ―ジェリアさんはにっこりと笑ってそのお婆さんに挨拶をする。
「こんにちわですわ。私は女神様を崇める聖女をさせていただいておりますわ」
「聖女ですと? するとユーベルトの? おおっ! 赤竜を従え女神様に仇成す者を排除すると言われるあの聖女様ですか!? おおぉっ! 何と言う事じゃ、これは一大事じゃ! 聖女様、早速我が教会へいらして下さらぬか?」
「ちょっとまったぁ! 貴様『育乳信仰派』だな!? ユーベルト聖女様と言えば直々に女神様の使いとご関係を持つと言われているお方! 聖女様、その様な所へ行かずとも是非にも我が『無慈悲信仰派』へお越しください! 世の悪を滅する為には赤竜様のお力を是非にも我々に!!」
「いやいやいや! 女神様の本当のお姿は慈悲深き子宝を授ける愛のお力! 女性同士だって子供を作れると言うその奇跡は正しく女神様の愛!! どうか聖女様、我々『子宝信仰派』にお越しください!!」
「何を言っている! 女神様の操る雷こそまさしく天界を統べる象徴! この混沌とせしイージム大陸に一条の光と共に裁きの雷で魔物たちを一掃していただけるお力はまさに女神様オブ女神様! 『雷龍信仰派』こそ女神様の真骨頂! さあ、聖女様是非我が『雷龍信仰派』へ!」
やいのやいの。
いきなりエマージェリアさんの回りに数人の人たちが集まり、みんな自分の教会に来てくれと言い出す。
既にエマージェリアさんはもみくちゃにされ助けを呼んでいる様だけど、周りの人たちはますますヒートアップしている。
「なぁにが『育乳』だ! いくら祈ったって大きくなんかならないじゃないか!? 祈りだけでは無慈悲な女神様は動いてなどくださらぬ! 感情を殺し、目的の為には無慈悲に徹する事こそ女神様の本当の教えよ!!」
「何を言っておる! 女神様式豊胸マッサージの伝統は世界各国の銭湯で実績を積んでおるのじゃぞ!? 貧乳娘たちの希望を叶えるのが女神様のご意思と何故分からん!?」
「胸など子供を授かれば自然と大きくなります! めくるめく愛の世界に不可能だった同性同士の子作り! これこそが女神様がお与えになった愛! 愛こそすべてなのよ!!」
「ふん、豊胸も子作りも人類が平和な環境にあってこそできる事、女神様のお力で空から不浄な魔物どもを一掃する事こそ先決! 人が、人類が歩んできた営みを守り抜くには女神様のお力が必要なのだ!! おお女神様、そのお力で天界から裁きの雷を!!」
ええとぉ‥‥‥
エルハイミねーちゃんって一体僕の知らない所で何してきたんだ?
このイージム大陸で女神様であるエルハイミねーちゃんが信仰されるのはいいけど、どうも偏った教えが広がってない?
「ちょ、ちょっと皆様、落ち着いてですわ! 女神様は全てをお許しになり、慈愛に満ちたお方ですわ!」
もみくちゃにされながらもエマ―ジェリアさんは声を上げる。
しかし皆さんの興奮は収まらない。
「しかしその中でも女神様の真意を理解する事こそが重要ですぞ!! 無慈悲に真なる目的を達成する為に!!」
「そうですじゃ、女神様の愛で豊胸になればこの婆のように若い頃はモテモテですじゃぞ!」
「否っ! 同性同士でさえ子孫を残せる御業こそ女神様の御慈悲、愛です!」
「ふん、何を言っても分からぬか? 人が生きる為にはまずはその生きる場所を守らねばならない! 貴様らその事が分からんのか? 町の外に跋扈する魔物どもを女神様の雷で撃退せんでどうすると言うのだ!?」
まったくと言って良いほど人の話は聞いてない様だ。
女神様の信仰ってそんなに凄いのだろうか?
「とにかく、我が教会へ是非来てくだされ!!」
「何を言う、聖女様には我が教会へ無慈悲に来ていただくぞ!」
「それはさせません! こんな可愛らしい聖女様をあなたたちの様なむさくるしい教会へ? 私たちの女性の為の女性による女性の愛を追及する教会に来ていただく事こそ女神様を語るにふさわしい!」
「聖女様には是非にも来ていただき赤竜様共々この町の守りについて是非にもお話をしていただきたい!」
ずずずぃっとエマ―ジェリアさんに詰め寄る皆さん。
流石にエマ―ジェリアさんだって困ってしまう。
僕は仕方なくエマージェリアさんを助けに行こうとすると僕の肩をセキさんが手をつきとめる。
「まったく、こいつらエルハイミ母さんの何が分かっているってのよ? 少し落ち着かせるわ」
「え? セ、セキさん流石に暴力は良くないですよ!?」
「大丈夫、任せて。すぅうぅ~ぅ‥‥‥」
セキさんはまだエマージェリアさんをもみくちゃにしている人たちに向かって大きく息を吸い込む。
そして次の瞬間人では無い咆哮を上げる。
「がぁぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉんッ!!!!」
それは竜の咆哮。
聞く者を委縮させ、心を砕く作用が有る警告の鳴き声。
流石にいきなりセキさんの鳴き声を浴びせられエマ―ジェリアさんを取り囲む人たちは驚き腰を抜かす。
「セ、セキぃ! いきなり咆哮を上げるのではありませんわ!!」
「まあいいじゃない。これでこいつらも大人しくなったし。さて、エルハイミ母さんに付いてなんだって? 言いたい事が有るなら娘でもあるこのあたしが聞いてやろうじゃ無いの?」
そう言ってセキさんはにんまりと笑うのだった。
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