第153話7-8東の港町


 「本当に助かりました! 何とお礼を言ったらいいのやら!!」



 ビックフットから助け出した商隊の隊長さん、ベンリーさんが僕たちにお礼を言っている。


 「いや、本当にすごいよ君たち! あのビックフットの群れをああも簡単に撃退できるなんて! 本当にありがとう!!」


 護衛で冒険者のロムさんもそう言ってお礼を言ってくれている。

 聞けばモルンの町からのキャラバンだったらしい。

 この辺は昔からビックフットが多くて稀にああやって襲われる事もあるそうだ。


 ビックフットはその外見に見合わず意外と賢くて人間を襲うのも少ないはずだけど、一旦襲われるとああいう風に徹底的にこちらを攻撃してくるらしい。



 「さてと、それじゃあ大切なお話をするか? あんたがキャラバンの隊長さんだよ?」

 

 「はい、そうですが?」


 「まあ、そちらも被害が有るしあんまり望まねえ、護衛のこいつが役に立たなかったんだ、そんくらいで手を打とうか?」


 なんかリュードさんが生き生きとしている。

 ベンリーさんは少し困ったような顔をしながらリュードさんに答える。


 「勿論お礼はします。しかし今は荷物の運搬中、この先の港町で荷物を納入できればちゃんとお礼をしますよ」


 「ん~、じゃあ一緒に行くか? もうじきだもんな。万が一また襲ってきたら俺たちが何とかしてやるよ。で、だな、その間飯とかも喰わせてもらえるか?」


 リュードさんはそう言ってベンリーさんにぐっと近寄る。


 「わ、分かりました。勿論お出ししますよ!」


 ベンリーさんがそう言うとリュードさんはにんまりと笑って手を差し出す。


 「んじゃ、交渉成立と言う事で! よろしくな、俺はリュード。こっちはソウマとあの胸のでかい赤髪がセキ、こっちの嬢ちゃんがエマ―ジェリア、それとあのがきんちょがミーニャにリリス、むこうの姉ちゃんがソーシャ。そしてこいつがマシンドールのアイミだ!」


 リュードさんがそう言ってこちらを向いてニカっと笑う。



 「こう言った事はあの人に任せるのが良いみたいですわね‥‥‥」


 「あたしはお肉食べられれば何でもいいけど?」


 「まあ、面倒な事はおっさんに任せるわ」


 ぴこっ!

 しゅたっ!



 エマ―ジェリアさんもセキさんもミーニャも特に異論はないみたいだ。

 アイミはベンリーさんに、しゅたっ! と手を上げて挨拶している。



 「リュード? その黒い鎧、もしかしてあんたあの『黒の牙』リュードか!?」


 ロムさんはリュードさんを知っているみたいだった。

 リュードさんの前に来てこぶしを握り目を輝かせ見ている。


 

 「なにっ!? 『黒の牙』だって!?」


 「本当か!?」


 「マジかよ!?」



 他の冒険者の人もロムさん同様リュードさんを囲んで同じように目を輝かす。



 「よせやい、照れるじゃねーか。しかし、『黒の牙』なんて呼ばれるのも久しぶりだな」


 「ああ、あんたのうわさは聞いているよ! ソロの冒険者で数々のクエストこなしていて、その剣技は剣聖にも匹敵するって!」



 なんかリュードさんて有名人だったのかな?

 僕はロムさんたちに聞いてみる。



 「あの、皆さんリュードさんをご存じなのですか?」


 「ああ、勿論だ! このノージム大陸で『黒の牙』リュードを知らねぇ冒険者はいないってくらいだからな!! と、そうすると君が今は彼の恋人か!?」



 「はいぃっ!?」



 いきなり僕がリュードさんの恋人とか、僕は男なんだけど?



 「ちょっと、あんたなに言ってるのよ! ソウマ君は私の嫁よ!!」


 「あなたこそ何を言っているのですの? ソウマ君には責任を取ってもらって私の面倒を見る義務が有るのですわ! ねえソウマ君、そうですわよね!!!?」


 僕がロムさんになんて答えようかと思っていたらミーニャとエマ―ジェリアさんが割って入って来る。

 


 「なに? そうするとこの少年は『黒の牙』の恋人じゃないのか? てっきり噂だとあたりかまわず少年が餌食になっていると聞いたから‥‥‥」


 「お、俺もそう思った」


 「あ、でも不味く無いか? 噂では欲求不満になると男なら手あたり次第襲うって噂も‥‥‥」



 他の冒険者がそう言った途端、ロムさんも隊長さんのベンリーさんも何故かお尻を押さえてリュードさんから離れる。



 「ちっ! 何言っていやがる、俺は無理矢理はしねえし、美少年専門だ! 誰が相手かまわずだよ!!」


 「だからってソウマに手を出したらあたしが許さないからね?」


 いつの間にかリュードさんの後ろに来て赤い爪を伸ばしてそれを喉に押し付けているセキさん。



 「し、しねぇって言ってるだろ!! 俺は同意がなきゃやらねぇ主義なんだよ!!」



 うーん、一体何の話なんだろう?

 どうも理解できない。


 ただ、相変わらず訳も分からずエマ―ジェリアさんが真っ赤になって「きゃーきゃー」騒いでいる。


 

 「ふう、まあソウマ君にはこのあたしがいる気切り絶対に手を出させないけどね? 手を出すのはこのあたしだもん!」


 『あのぉ~ミーニャ様、出来ればあたしにもおすそ分けを‥‥‥』


 「な、何を言っているのですのぉっ!? 駄目ですわ! 破廉恥ですわ! いけないのですわ!! そ、ソウマ君は私と言う者が有るのですわ!! 責任取らなければいけないのですわぁ!!」


 そしてこちらも何故かミーニャとエマ―ジェリアさん、手もみをしてミーニャの側にいるリリスさんともめている。



 『モテモテですねソウマ君。はぁぁぁ、私もミーニャ様にご奉仕したいのにぃ』


 ソーシャさんはそう言って僕の隣まで来てミーニャをうっとりと眺めている。



 「なんでも良いけど、早いところ港町に向かった方が良いんじゃないですか? なんか向こうの山間にうごめくモノがいますけど‥‥‥」



 僕が指さすその向こうの山間にうごめくモノがいる。

 それを見たキャラバンの人たちは慌てて僕らに言う。



 「まだ群れがいたのか? い、急いでここを離れましょう!!」


 「うーん、まあ面倒事は少ないに限る。ソウマ、急いで俺たちもここを離れるぞ!」



 僕たちはキャラバンの人たちと慌ててこの場を離れるのだった。



 * * * * *


 

 東の港町には程無く着いた。

 それほど大きな港町では無いものの、町を行きかう人々は多かった。


 「それでは商業ギルドに荷を納めて来ます。処理が終わりましたらお礼を差し上げますのでロムたちと近くの酒場でお待ちください」


 ベンリーさんは町に着くとそう言って荷馬車を商業ギルドに持って行く。

 ロムさんは僕たちに声をかけてくれて行きつけの酒場に案内してくれる。



 「とりあえずこれで少しは旅費の足しになるな。それで、ここはお前らのおごりなんだろうな?」


 「ああ、勿論だ。ビックフットから助けてもらったお礼もあるしな!」


 ロムさんはそう言って元気に酒場の扉を開く。



 リュードさんとミーニャが目を光らせるけど、ロムさん大丈夫だろうか?

 僕は何となくロムさんのお財布事情を心配するのだった。    


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