第104話5-5首都脱出


 「だとしても私たちは魔王の元へ行かなきゃならないのよ!」



 姉さんがそう言い僕たちも頷く。


 「しかし一旦門を閉じられてしまえばそうそう簡単には開ける事は出来ませぬぞ? このエリモアは籠城する事を前提に作られた都市。長きにわたる戦乱に街での備蓄も十分にあり最大でも二、三年は籠城が出来るようになっております」


 ギグナスさんがそう説明をしてくれる。



 「確かにここは昔から堅牢に出来ていたものね。でもそれなのに魔王軍にこうもあっさり落とされたって言うのはどう言う事よ?」


 「あ奴等はいきなり現れたのです、まるで霧が如くいつの間にやら‥‥‥」



 「‥‥‥空間移転ね」



 これだけ頑丈に出来ていた城壁なのになんでそう簡単に突破されたか聞いてみるとギグナスさんは悔しそうにそう言う。

 そして思い当たる節があるのかシェルさんも悔しそうにそうつぶやく。



 「エルフの村でも魔王は容易に結界に入り込んでいた。本気を出されたらどんな場所にいても安全とは言えないわね。全く、以前の魔王なんかよりよっぽど厄介よそのミーニャって子は!」


 シェルさんが苛立ちながら親指の爪をかじる。



 「だからあたしたちで何とかしなきゃなんだろ?」


 「そうですわシェル様! 私たちならばきっとですわ!!」


 「シェル、行こう。ミーニャ捕まえてお仕置きよ!」



 みんなもシェルさんを見る。

 そして僕も。



 「これ以上ミーニャが皆さんにご迷惑をかけるのはやめさせないといけません。シェルさん!」



 言われてシェルさんは僕たちを見渡す。

 そしてにこりと笑って頷く。



 「勿論こんな所に何時までもいるつもりは無いわ。準備を整え門を打ち破ってでも魔王城に向かうわよ!」



 シェルさんのその決定に僕たちは返事をしてギグナスさんたちは頬に汗を流しながら「噂は本当なのか‥‥‥」とか言っている。


 うん、前から気になっていたけどシェルさんやセキさんたちって一体全体どんな噂が有るのだろう?

 シェルさんたちの顔を見ながら僕はそう思うのだった。



 * * * * *


 

 「主様よ、本気でやるのかよ?」



 翌日僕たちはエリモアの一番大きな門の前にいた。

 リュードさんは首をこきこき鳴らしながら準備運動をしている。


 本当はギグナスさんたちも応援に来るととか言っていたけど姉さんに止められた。

 もしギグナスさんたちとばれればホリゾン一族もただでは済まない。

 なのでせめてリュードさんだけでも加勢させてくれと言い出して仕方なしに了承した。


 確かにリュードさんの実力なら姉さんにも付いて行けるだろう。

 それにホリゾン一族で「同調」出来るのはリュードさん只一人らしく、一族の中でも最強らしい。



 「ちまちましていても仕方ないでしょ? シェルの言う通りここは一気に通らせてもらうわよ! さあ、アイミも出てきて手伝ってね!」



 姉さんはそう言うとポーチからアイミを引っ張り出す。



 ぴこっ!



 やっと出してもらったアイミはしゅたっと手を上げみんなに挨拶する。

 僕も手を上げ挨拶を返すと姉さんがアイミに言う。



 「アイミ、この門を強行突破するわ。手伝ってもらうわよ!」


 ぴこぴこ。



 アイミは頷いている。



 「門には悪魔たち以外にも人間もいるかぁ、じゃあ威嚇しておいてやるか! すぅうぅぅ~」


 セキさんは大きく息を吸ってただでさえ大きな胸を更に大きく膨らませ一気に咆哮を上げる。



 『バァおぉおぉぉおおおおおおぉぉぉぉっ!!』



 ビリビリと空気を震わせ竜の雄叫びは門を、いや、街中に響き渡り震わせる。


 

 「なんだ!?」


 『ぐろろろろろぉ?』



 門を守っていた悪魔や衛兵らしき人はセキさんの雄叫びに驚き中から出てきた。



 「さぁ、そこの門開けてもらうわよ! 私は『女神の伴侶シェル』! そして『爆竜のセキ』よ! 死にたくなければそこを開いてもらうわよ!!」



 シェルさんはそう言いながらいきなり精霊魔法を発動させる。

 途端に地面が隆起して岩のゴーレムが十数体出来上がる。

 セキさんも背に羽を生やし上空に向かって業火の炎を吐きだす。



 「開けないと全部燃やしちゃうわよ!!」



 いきなりのその威嚇に悪魔も衛兵さんも思わずしりごむ。



 あ~、なんとなくシェルさんたちの噂が分かって来た。

 うん、この人たちに逆らうと多分普通の人じゃとてもじゃないけど敵わない。

 そしていきなりのこの威嚇だけど多分やられた方は涙目だろうね。


 だって「鋼鉄の鎧騎士」並みのロックゴーレムがいきなり十数体、天空を覆うのではないかというほどの竜の炎が空を真っ赤に焼いている。


 まるで魔王軍が襲って来たのではないかと思うようなこの有様。



 「あー、アイミ。ちょっと待っていてね。なんか私たちの出番無いかもしれないから」


 ぴこぉ~?


 姉さんも二人の威嚇に思わず先ほどの勢いをそがれる。

 リュードさんは僕の横に着てしみじみ言う。


 「ソウマよ、おまえ本当にこんな連中と今まで一緒でよく大丈夫だったな?」


 「僕も改めてそう思いますよ」


 三人して事の成り行きを見ているとエマ―ジェリアさんが声を上げる。



 「危ないですわ!! 【絶対防壁】!」



 エマ―ジェリアさんはそう言いながらいきなり魔法を発動させる!?



 ばんっ!

 ぼぉおおおぉぉぉん!!!!



 横から飛んで来た火球がエマ―ジェリアさんの【絶対防壁】に当たって炸裂して炎を上げる。


 いきなり攻撃を受けた?

 僕たちは横を見るとひとりの悪魔が歩いて来ていた。


 

 『まさかと思うが、貴様らが指名手配の連中か?』

 

 「だとしたらどうすると言うの?」


 ちゃきっ!


 姉さんは隙無くなぎなたソードを構える。

 リュードさんも剣を抜きエマ―ジェリアさんも身構える。

 僕はすぐにエマ―ジェリアさんの前にフォローに入りショートソードを引き抜く。



 『まさか扉を閉めてすぐに指名手配の者が出て来るとはな? 大人しくつかまれ。そうすれば命は取らぬ。魔王様はそこの少年をご所望だ』


 「だったら大人しくは出来ないわね。ソウマは私のモノよ!」



 姉さんはそう言ってその悪魔に切り掛かる。

 それを見ていた悪魔は嬉しそうに剣を引き抜く。



 『そう来なくてはな! 退屈していた。俺は白虎! 相手になってやる!!』




 姉さんの刃と白虎と名乗った悪魔の刃が交差するのだった。

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