第103話5-4指名手配


 いきなり部屋に入ってきた人はギグナスさんに何処となく似ていて、年の頃も五十くらいの人だった。



 「兄者! ティアナ姫の転生者が見つかったとは本当か!? だとしたら我ら一族の悲願がやっと達成できる!!」



 と、その人は僕たちを見る。


 僕たちを見る。

 僕たちを‥‥‥



 「騒がしいぞギガン。主様に対して失礼になるぞ?」


 「なあ、兄者よ。この屋敷には他に赤い竜や大きなマシンドールも来ていないか?」


 ギガンと呼ばれたその人は僕たちを見まわしてからそう聞いてくる。

 ギグナスさんは首を横に振り「こちらにおられれる方だけだが?」と言う。



 「お騒がせして申し訳ありませぬ、主様。この者は我が弟のギガンと申します」


 ギグナスさんは姉さんに頭を下げながらそう言う。


 「これは失礼しました。あまりの事に我を忘れてしまいまして。ギガン=ホリゾンにございます」


 そう言ってギガンさんも姉さんに頭を下げる。


 「え、えっとぉ、フェンリルです‥‥‥」


 姉さんもあまりの事に少し気圧されたけど挨拶を返す。

 そしてギグナスさんは僕たちも紹介する。


 「こちらは『女神の伴侶シェル』殿に『爆竜のセキ』殿、そして『聖女エマ―ジェリア』殿、ティアナ姫の弟君のソウマ殿だ」


 「ギガン=ホリゾンと申します」


 そう言ってギガンさんも僕たちに胸に手を当て軽くお辞儀する。

 と、何かを思い出したようで懐から一枚の紙を取り出す。


 「ところで兄者、これを見て欲しいのだが‥‥‥ 魔王軍が無言で配っている紙でな、王城でも大臣や王族の方に押し付けるかのように渡されたらしいのだが‥‥‥」


 ギグナスさんはそれを受け取り眉間にしわを寄せる。

 そして僕たちとその紙を見比べる。

   

 「なんの紙よ?」


 シェルさんがそう聞くとギグナスさんは無言でその紙をシェルさんに渡す。

 そしてシェルさんは眉間にしわを寄せる。


 「誰これ?」


 「いえ、それは主様たちではありませぬか?」


 「この似顔絵全然いていないわよ?」


 そう言ってシェルさんたちはその紙を僕たちにも見せる。



 「あっ!」


 「これってエダーの港町に貼ってあったお尋ね者のやつ!」



 思わず声を上げる僕にシェルさんがこちらに向けて掲げるその紙を指さし姉さんは言う。

 そこにはやたらと瞳のキラキラした美少年、胸が大きく描かれた赤髪の女、胸だけやたらとでかいエルフ、どう考えてもこめかみから角の生えた少女、赤い色の竜、見上げるほど大きなマシンドールが描かれていた。

 少年以外は悪魔かと思うような怖そうな顔ばかり


 「って、もしかしてこれって‥‥‥」


 「私たちですの!?」


 アイミは今姉さんのポーチの中だし、セキさんも普通は人型だ。

 だからエダーの港町で見た時は僕たちじゃないと思っていた。



 「やはりそうですか。兄者よ、城はこれで右往左往しているぞ? 何せこの者たちを捕らえ引き渡せば褒賞が与えられるらしい。魔王軍がここを占拠して初めての動きだ。王族の方も大臣たちもこの者たちを捕らえようと躍起になっているぞ」


 「とは言えこの似顔絵では主たちとはわかるまい?」


 腕組みしながらそう言うギグナスさんだったけどギガンさんは首を振りながら言う。


 「しかし王族も大臣たちもとにかく似たような者たちを捕らえるように言っているらしいぞ。魔王軍が何を考えているかは分からない。だがこの異変はチャンスやもしれない、魔王軍に対してのな!」


 ぐっとこぶしを握り力説するギガンさん。



 「叔父貴よ、だとしても主たちを差し出すわけにはいかんぞ? それに主たちはこれから魔王城を目指すんだぞ?」


 「魔王城?」


 「そうよ。私たちは魔王城に行かなければならないの」


 リュードさんがギガンさんにそう言うとシェルさんも僕たちの目的を告げる。


 「私たちは魔王城に行って魔王を取り押さえなきゃならないのです。いち早く」


 姉さんもそう言うとギガンさんは大いに感動した様で思わずその場に跪く。


 「流石伝説のティアナ姫だ! 我ら一族に伝えられていた通りのお方。しかしまずいですぞ。魔王軍の意向に沿って間も無くこのエリモアの全ての門を閉め手配書の者たち、主様たちを探す事になっています」



 「何? 門を閉めるとな!?」


 「なんだと!? やべぇな、だとするとこのエリモアから出れなくなっちまう!」



 ギグナスさんもリュードさんも舌打ちをする。

 門が閉められるって言ったって、又開けてもらえばいいんじゃないだろうか?


 しかしリュードさんは僕たちを見てから首を振る。



 「エリモアが門を閉めるとなれば当面は出入りを禁じたようなモノだ。近隣にもまもなく伝令が伝わるだろう。だとすると主たちを捕らえるまでエリモアは籠城状態になっちまう。備蓄は十分にあるだろうから下手すれば一年以上閉じこもったままになるぞ」




 リュードさんのその言葉に思わず僕たちは顔を見合わせるのだった。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る