第88話4-19サボの港町


 ティナの国を出て北に僕たちは向かっていた。



 「今の季節はいいけど冬になるとここは雪が酷いのよね」


 「ああ、そう言えばここってそうだったっけ? 雪が五メートルくらいは積もるんだったわよね?」



 シェルさんやセキさんはそんな事を言いながら先を歩いている。


 ここから僕たちのジルの村は比較的近いけどティナの国あたりから冬場は豪雪地帯になるって先生も言ったいたっけ?

 雪が五メートルも積もるのって想像もつかない。



 「とは言え、この森を抜ければ寒さは厳しいけど雪はそれ程じゃなくなるのよね?」


 姉さんは誰となくぽつりとそう言う。

 そんな姉さんを思わず僕たちは見てしまう。


 「フェンリル、よく知っているわね?」


 「ティアナ姫の記憶で知りました。ティナの国で冬場は身動きできなくなるんでしたよね?」


 そう言いながら姉さんは僕を見る。


 「ソウマもあの頃は大変だったもんね。今は本当に私の弟になっちゃったけど」


 「姉さん?」


 そこまで言って姉さんは頷いてまた歩き出す。



 なんだろう?



 「フェンリルもソウマがジルだった事を知ったのね? ソウマはその昔この辺に住む狩人の男の子だったのよ。私たちにしてみれば弟分だったから結構私も弓や狩りの仕方を教えたものなのよ?」


 「シェルさんが僕に?」


 歩きながらシェルさんにそう言われて驚く僕。

 勿論そんな記憶は僕には無い。


 「まあずっと昔の話だもんね。ソウマだってフェンリルと同じく何度も転生しているのよ?」


 セキさんが横から口をはさんできた。

 それを聞き僕はまたまた驚く。



 僕も姉さんと同じく何度も転生していただなんて!



 「話には聞いていましたがジルの村って本当に女神様に関係する人が何度も転生しているのですわね?」


 「そう言う風にしているのよ。ティアナを世界中から見つけ出すのも大変でしょ? 勿論『魔王』の魂を持つ者だって同じよ。だからあの村は人里離れた所に在って外界とほとんど交易も無い場所なのよ。その代わり私たちが時たま様子を見に行くのだけどね」


 シェルさんはそう言って僕を見る。

 でも僕はシェルさんを村で見た事が無い。



 「シェルさんってジルの村に来ていたのですか?」



 「あ~、最近はあまり行ってなかったかな? 二十年ぶりに行ったら魔王が覚醒していたとかシャレにならなかったけどね~」


 「シェルは母さんといちゃいちゃしすぎなのよ! あたしの所にもエマもの事が有るまであまり来なかったじゃない!」


 シェルさんはセキさんにそう言われ乾いた笑いをしながら「ごめん、ごめん」とか言っている。


 長寿種の人たちにとって二十年って最近あつかいなんだ。



 「と、見えてきたわね」


 シェルさんはそう言うと僕たちは森を抜けた。

 すると険しい山々が見えて来た。



 「あれを抜けるとウェージム大陸の最北端、サボの港町のある所よ」


 シェルさんにそう言われ僕もその山を見る。

 確かに険しそうな山だった。



 「こっちでしたよね、シェルさん?」



 しかし姉さんはいきなり山に対して脇道を歩き始める。

 シェルさんは山を越えた向こうにそのサボの港町があるって言っているのに?


 「フェンリル、記憶で見たのね?」


 「はい、最初に封印した祠の方を回って渓谷を行った方が近道でしたよね? 道は変わっていないのでしょう?」


 シェルさんは頷きその先を見る。

 その先には渓谷らしきものが見えて来た。


 「あそこは山を少し迂回するけどそちらの方が山越えより楽なのよ。結果こちらの方が近道になるのよね」


 そう言って姉さんと一緒にそちらへ歩いて行く。

 ティアナ姫の記憶で姉さんは色々と知った様だ。

 便利の様で良いのだけど何故か姉さんはあの後ちょっとよそよそしい。




 「シェルさん、後で相談があるのですけど‥‥‥」



 姉さんは時折僕をちらちらと見てシェルさんと何か話している。


 「うん? なに? いいけど」


 「あ~、その、後で二人きりでお願いします////」


 なぜか赤くなってる姉さん。

 どうしたんだろうね?



 僕たちは渓谷の方に向かって歩いて行くのだった。 


 

 * * * * *



 それから数日僕たちは渓谷の道を進んでいた。



 「ソウマ君、最近フェンリルさんの様子がおかしいですわ。何か有ったのですの?」


 「はい? とくには‥‥‥」



 そう言いながら僕はこの数日間を思い出す。


 あの後シェルさんと何やら話し込んでいた姉さんは時折「のっひょぉーっ!」とか「うわぁー、うわぁーっ!!」とか「だ、だめぇっ!!」とか騒いでいたけど何だったのだろう?

 それに思い起こせばなんか僕のパンツを洗う時もやたらと顔を赤くしてはぁはぁ言ってるし。


 確かに思い起こせば変だった。



 「うーん、やっぱりティアナ姫の記憶のせいかな?」


 「今朝もしきりに【浄化魔法】をかけてくれ、ソウマ君に変な臭いしていると思われるのが嫌だからだなんて、一日に二回も【浄化魔法】をかけるなんてちょっと異常ですわよ?」


 確かにそれは変だ。


 姉さんはいつも良い匂いをさせているんだから一日に二回もお風呂に入るように【浄化魔法】を使ってもらうなんて。

 今までなんか面倒だからって二日にいっぺんくらいだったのに。



 「ま、まあ女性ですもの清潔にしたいという気持ちは分からなくはありませんわ//// と、特にあの時なんてですわ‥‥‥」


 エマ―ジェリアさんのそのぼやきに僕は首をかしげる。


 「そうなんですか? うーん姉さんってそんなに潔癖症だったかな??」


 まあエマ―ジェリアさんがそう言うのだから間違いないのだろう。

 と、休憩中でセキさんが近くで狩って来た鳥の丸焼きを作っているむこうの木の陰から姉さんが僕たちを覗いている。



 ‥‥‥うん、やっぱりなんか変だ。


 

 僕は仕方なく木の陰に隠れてこっちを見ている姉さんの所へ行く。



 「どうしたのさ、姉さん? そんな所で」


 「うっ! ソ、ソウマ。な、何でも無いのよ。あ、そうだ私ちょっと用事があったんだった!」



 そう言って逃げるかのようにあっちに行ってしまう。

 僕は首をかしげる。



 なんなんだろうね一体?



 そんなこんなでそのままさらに数日僕たちは旅を続ける。



 ◇ ◇ ◇



 「どうやら見えてきたわね。あそこがサボの港町よ」


 先頭を歩いていたシェルさんが立ち止まり向こうの方を見る。

 この丘を降りた先に海が見え始めた。


 幸いなことにここまで魔王軍とは接触していない。

 途中小さな村とかが有ってその辺を聞いてみたけど魔王軍は現在この近くにはいないそうだ。



 「シェ、シェルさん、早く町まで行きましょう!」

 

 「フェンリル‥‥‥ まあいいわ。でも焦っちゃだめよ?」


 「わ、分かってます!!」



 何やら姉さんはやたらと興奮している。

 全く最近の姉さんは本当におかしい。




 僕は姉さんのその様子を見ながら首をかしげるのだった。 


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