第78話4-9王女
シェルさんにくっついて来てそのままティナの国のお城、しかも王女様への謁見の間にまで来てしまった。
大きな扉が開くと絨毯のひかれた大広間が見えた。
シェルさんはそこをずかずかと歩いて行く。
僕たちも慌ててシェルさんに付いて行くけどその正面の王座に座っていた女性が立ち上がる。
「シェル様、よくぞおいで下さいました」
何とその女性はシェルさんの姿を見ると跪いてしまった。
頭に略式の王冠らしくものをしているからこの人が王女様のはず。
「アナス、皆の前よ。やめなさい。それより魔王軍の状況は?」
「はい、何とか前線が持ちこたえているのですが魔人クラスの先兵が大量に攻め入って来ています」
シェルさんは王女様の手を取って立たせる。
そしてそれを聞くと唇をかみしめていた。
「想定以上って事ね? 全くあのミーニャって子は思い切りが良いわね? イオマの時とはやはり違うか」
「しかしシェル様とセキ様が来られました。これで我らにも勝機が見えてきました」
「油断は禁物ね。そうそう紹介するわ。彼女はエマ―ジェリア、聖女よ。そしてあの赤髪がフェンリル、その弟のソウマよ」
そう言ってシェルさんは僕たちを紹介する。
途端にエマ―ジェリアさんは跪きアナスと呼ばれた王女様に頭を下げる。
「お初にお目にかかりますわ。私はエマ―ジェリア=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ。女神教の聖女を務めさせていただいておりますわ」
エマ―ジェリアさんがそう自己紹介したので僕たちも慌てて跪いて挨拶をする。
「フェンリルと申します」
「ソ、ソウマです」
すると王女様はすぐに僕たちに立ち上がるよう言う。
「あなたがハミルトン令嬢ですか。噂はかねがね聞いております。そしてこちらのフェンリルさんとソウマさんはもしや‥‥‥」
「ええ、ティアナ姫の魂を持つ者とその縁者よ」
シェルさんがそう言うと王女様は、ぱぁっと明るい笑顔になりすぐに姉さんの手を取る。
「あなたがティアナ姫の生まれ変わりなのですね! 我が国の始祖母にして女神様の伴侶。ああ、まさかこんな形でお会いできるとは!」
「あ、あのぉ~。すみません私ってそのティアナ姫の転生者らしいんですが全くと言って良いほど昔を思い出せないのですよ‥‥‥ そ、それとちょっと近いかな~って‥‥‥」
姉さんは頬に一筋の汗を流しながら引きつった笑いで取られた手を何とか振りほどこうとしている。
うん、いきなり王女様に手なんか取られたら驚くし、恐れ多いもんね。
「残念ながらフェンリルの言う通り昔を思い出していないわ。全く、前回から三百年近く経っているのにね」
「三百年前にも姉さんって転生していたんですか?」
シェルさんのその言葉に僕は思わず聞いてしまった。
「そうね、前回はそれで私とコクとあの人、ティアナ姫の転生者でひと悶着あったけど結果みんなが同意して私もあの人正式な妻になれたのよ」
凄く嬉しそうなシェルさん。
うーん、女神様とシェルさんかぁ。
神殿で見たあの女神様とシェルさんが仲良くしているのか。
しかも夫婦で。
うん、やっぱりよく理解できない。
女の人同士何てね。
「しかしシェル様、それでもフェンリルさんをここへ連れて来たと言う事は‥‥‥」
「ええ、彼女にも魔王を取り押さえる為に手伝ってもらうわ! それにここティナの国は私にとっても第二の故郷。そう易々と勝手を許すつもりはないわ!」
シェルさんはそう言ってぐっとこぶしを握る。
「んで、シェルどうすんの? あたしは何時でも良いわよ?」
しびれを切らせたセキさんが割って入る。
それを見たアナス王女様はセキさんに頭を下げる。
「セキ様ですね? 大変ご無沙汰しております」
「ん~っと、何処かで会ったっけ?」
セキさんは眉間にしわを寄せ王女様をまじまじと見る。
「お忘れですか? もっとも、お会いしたのは二十年前の神殿でしたので私も歳をとりました」
「セキ、アナスは昔神殿に来た事が有るけど思い出さない?」
「ん~、ん? ああ、もしかしてティナの国から来たって言うあのおちびさん!?」
「はい、その節は遊んでいただきありがとうございました」
途端にセキさんは王女様の両肩をぱんぱんと叩き顔を近づけてまじまじと見る。
そして目元が昔のままだとか、大きく成っただとかはしゃいでいる。
「うーん、シェルさんやセキさんって年取らないから僕たちが大人になると分からなくなっちゃう事が有るんだね」
「そ、それでもシェル様は時々会いに来てくださいましたわ! だから私が大人になっても間違われる事はありませんわ!」
「それは良いんだけど、早い所ミーニャの件片付けないとどんどんティアナ姫の関係者に出会い取り返しがつかない方向に行くような気になって来たわ‥‥‥」
僕たちはしばしセキさんと王女様が話を終えるのを待つことになるのだった。
* * *
「さて、それじゃアナスの為にも頑張っちゃおうかしら!」
「セキ、羽目を外し過ぎないでくださいですわ」
「ん、まあそう言う事でいきなりだけど前線に連れてってもらおうかしら? とりあえずちゃっちゃっと片付けるわよ?」
「えーと、アイミを使うんですよね?」
「僕はアイミを使っている間の姉さんのサポートですね?」
ひとしきり昔話をしたセキさんを待って僕たちはティナの国に攻め入っている魔王軍討伐の為準備をする。
ぴこっ!
「これが伝説のマシンドール、ティアナ姫にしか使えないと言うアイミですね! ああ、おとぎ話が今私の目の前に! シェル様、そうするとフェンリルさんは『赤の騎士』にも成れるのですね?」
「う”っ!」
「あ”~っ、アナス、それはねぇ‥‥‥」
出発前にアイミもポーチから引き出し馬車に乗り込もうとしていたらアナス王女様が見送りしながらそんな事を言ってくる。
「『赤の騎士』って何ですか? そう言えば前にも『赤い悪魔』とかなんとかあったような‥‥‥」
姉さんがそう言うとシェルさんはガシッと姉さんの方を掴む。
「良い事フェンリル、昔を思い出していないなら決してその力は使わない事。でないと貴女の命にかかわるわ!」
「はいっ!?」
シェルさんにそう言われ思わず目をぱちくりしてしまう姉さん。
命にかかわるって言われれば誰だって驚くよね?
「まあ、すぐには影響ないけど『赤の騎士』は力が強すぎて体に負担がかかり過ぎるのよ。今の人生を終わりにしたくなければ本当に最後の切り札よ。だから使わない方が良いわよ?」
セキさんはアイミを見ながらそう言う。
ぴこぴこぉ~。
なんかアイミも耳が垂れているから相当やばい物なのだろう。
「シェル様、『赤の騎士』とはそれほどまでのモノだったのですか?」
王女様は思わずシェルさんに聞くと姉さんも僕もエマ―ジェリアさんもシェルさんに注目する。
「う~、まあアイミの中にある四大精霊たちの力を使って女神にも匹敵する力を手に入れられるわ。アイミの中に入ってその力を受け取り全身を赤い鎧に覆われた騎士の姿になるのだけど、その力を使うとどんどんと体を蝕まれ最後には命を落とすわ。だからフェンリル、出来ればその力は使わないでほしいの」
シェルさんはため息をつきながら説明をしてくれる。
ぴこ~。
なんかアイミも申し訳なさそうに頭を下げている。
「でも、その力を使わないで魔王軍を退治すれば良いんですよね? 大丈夫、私とアイミの同調できっと上手く行きますよ!」
空気が重くなる前に姉さんは努めて明るくそう言う。
するとセキさんもシェルさんも頷く。
「勿論フェンリルだけに全てを任せる訳じゃないから安心して! あたしだって思い切り暴れてやるからね!」
「そうね、なにも思い出していないフェンリルに『赤の騎士』は荷が重いわ。私もいるし今回は少し本気を出させてもらおうかしら?」
あ~。
なんかやばそうな二人がやる気になっている。
「流石シェル様! もう、ずっと付いて行きますわ!!」
うん、エマ―ジェリアさんもいつも通りだ。
僕は姉さんを見るとにっこりと笑って親指を立てる。
「任せてソウマ! お姉ちゃんがとっとと魔王軍やっつけてミーニャを取り押さえてソウマの初めてをもらっちゃうから!」
「姉さん、前から気になっているんだけどその初めてって何!? それにミーニャを取り押さえたら早い所村に戻らなきゃだめでしょうに?」
「もう、せっかく盛り上がっているのに! ソウマのいけずぅっ!!」
何故かぷんぷん怒っている姉さんを他所に僕たちは最前線へと向かうのだった。
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