第64話3-23ハーピーの住処へ


 ハーピーが住んでいると言うその岩山はライカさんたちの居た山とはまた違った感じがしていた。

 正直こちらの方が山肌とかが険しい。



 「ぜぇーぜぇー、や、やっと着きましたわ‥‥‥」


 「大丈夫ですか、エマ―ジェリアさん?」



 山岳の中腹分でそこそこ広い所に僕たちは降り立ち一休みする。

 この山って険しすぎて他のとろなんて切り立った剣山みたいな場所ばかりで登り降りだって容易じゃない。


 

 よくも昔はこんな所から男の人たちはライカさんたちのエデルの村に戻れたもんだよなぁ。



 僕は上を見たり切り立った崖の下を見たりしている。

 すると少し遅れてシェルさんやセキさん、そしてリリスさんが到着した。



 「流石にアイミは早いわねぇ~。結構本気で精霊王を使って来たけど全然追いつかなかったわ」


 「ちょっと悔しいな。でもまあ人の姿でこれだったもんね。竜の姿なら負けないのに!」


 『いやいや、あんたらが異常よ。サキュバスだって空飛ぶのそんなに遅く無いのにあんたら一体何なのよ!?』


 ぴこぴこ~


 アイミが何となく嬉しがっている様だ。

 耳をピコピコしてガッツポーズをとっている。



 「それでハーピーたちは何処にいるのかしら?」


 姉さんは周りをぐるっと見渡すけどそれらしいのは見当たらない。

 

 「とりあえずここを拠点に周囲を探してみましょう。エマとソウマ、アイミはここで待機してもらってフェンリルと私とセキ、リリスで付近を探して見ましょう」


 「シェルさん、ソウマをここにおいて大丈夫なんですか?」


 シェルさんがそう言うと姉さんはすぐにそう聞き返した。

 確か男の人が狙われるって言ってたから僕が勝手に動き回るのはまずいのだろうけど姉さんは僕がここに残る事も心配している様だ。


 「アイミがいるから大丈夫でしょ?」


 「そ、それはそうですが‥‥‥」


 「早い所片付けて『ハーピーの雫』も手に入れれば今回の目的は達成よ?」


 『そうよね! 【ハーピーの雫】さえ手に入ればあたしもお役目御免。やっと帰れるわぁ~』


 シェルさんたちはそんな事を言いながら姉さんを引っ張っていく。



 「ああっ! ソウマ、お姉ちゃんが戻ってくるまでちゃんとここで待っていてね! 他の女の人とかには付いて行っちゃだめだからね!!」


 「はいはい、行ってらっしゃい、姉さん」



 シェルさんに首根っこ掴まれて姉さんは岩山の上に連れられて行く。

 まあ確かに僕やエマ―ジェリアさんが動くより他の人が動いた方が早いだろうしね。



 「じゃあ、アイミよろしくね!」


 ぴこっ!



 僕はアイミを見上げながらお願いすると「まかせて!」と言わんばかりに耳をぴこっとしながら手を上げる。


 僕はみんなが戻ってきた時の事を考えて姉さんから預かっている魔法のポーチから道具を出し温かい食べ物の準備をする。



 「ソウマ君、私も手伝いますわ」


 「もう大丈夫なんですか、エマ―ジェリアさん?」


 さっきまでげんなりしていたエマ―ジェリアさんは僕のそばまでやって来て食事の準備を手伝ってくれると言う。



 「ええ、もう大丈夫ですわ。シェル様たちが戻ってきたら私たちも乗り込んでハーピー退治と、そ、その『ハーピーの雫』を手に入れなければなりませんわ」


 「そう言えば『ハーピーの雫』って何なんです? 大人じゃ無きゃ知ってはいけないとか言われましたけど、やっぱり気になりますよ」



 僕はエマ―ジェリアさんに聞いてみると彼女はいきなり真赤になって頭から「ぼんっ!」と湯気を出して大慌てになる。



 「ソ、ソウマ君にはまだ早いですわぁ! そ、それは恋人同士で使うとっても大切なお薬ですのぉっ! は、初めての時に使うとても貴重なものなのですのぉ!! 私もシェル様に使っていただきたいですわぁっ!!」



 バタバタと手を振り明後日の方向を向きながらエマ―ジェリアさんは僕から顔を背けそう言う。



 うーん、恋人同士で使うお薬?

 そうなんだ。


 特にピンとこないけど女の人ってそう言った物が欲しいんだ。

 あ、だからミーニャも欲しがっていたんだ。

 でも恋人同士って‥‥‥


 恋人とかじゃないけど、僕はミーニャのこと好きなんだけどなぁ。

 ミーニャってそんな変なお薬が必要なんだ?



 エマ―ジェリアさんはまだバタバタと手を振っている。

 まるで大きな翼でもあるかのようにバサバサと音も聞こえるほどに。



 「エマ―ジェリアさん、分かりましたから落ち着いてくださいよ。エマ―ジェリアさんが手を振っているとまるで翼でも振ってるかのような音がしますよ」


 ははははと軽く笑いながらそう言う僕にエマ―ジェリアさんは僕を見て固まる。


 

 あれ?

 エマ―ジェリアさんが手を振るのやめているのにまだバサバサと音が‥‥‥



 「ソウマ君! 【絶対防壁】!!」


 エマ―ジェリアさんは僕に向かって魔法を展開する!?



 何がっ!?



 そう思った瞬間肩を誰かに掴まれ僕の体がふわっと宙に浮く。


 「あ、あれっ!?」


 掴まれた肩を見ると鳥のような足がしっかりと僕の両肩にある。

 慌てて上を見ると裸の女性で両手両足が鷲の翼や足になった人が嬉しそうに僕を見ている!?



 「しまったですわっ! 間に合わなかったですわ!! アイミっ! ってぇ、アイミぃっですわぁッっ!!」



 エマ―ジェリアさんは空中に連れ去られる僕からアイミに視線を移すと僕以上にたくさんのハーピーたちがアイミを襲っている。

 あまりにも群がり過ぎているのでアイミが見えなくなっちゃうくらい。




 「ぴぃぃいいいぃぃぃっ!」


 僕を掴んだハーピーは甲高い鳴き声を放ち僕を更に空高くに連れ去る。



 「ソウマ君っ――――!!」



 

 最後に僕が聞いたのはエマ―ジェリアさんの叫び声だったのだ。

 

 

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