第33話2-12訪れる影
そのあり得ない声に僕たちは驚きふり返る。
そしてそこにいる人物を見て驚く。
「そ、そんな! なんでここに!?」
僕は思わず声に出す。
「誰なのですか、あなたは!?」
「人間の子供が勝手にこの村に入れるはずが無いのに!?」
「ファイナス長老下がってください、この波動、何と言う禍々しさ」
「に、兄さん!」
みんなその娘を見て驚く。
それは勿論の事だった。
栗色の髪の毛で猫っ毛の様になっているショートヘア。
可愛らしさから奇麗になりつつあるその顔は村から出て行った時より少し大人びて精悍になっていた。
やたらと露出の高いおへそんなんか丸出しの黒っぽい皮の様な衣装。
無理して穿いているのかの様なヒールでマントを羽織った姿。
「ミーニャ、あなたなんでこんな所にいるのよ!?」
姉さんは僕の前に出てなぎなたソードを構える。
ミーニャはゆっくりと姉さんに振り向く。
「フェンリルさん、あたし言いましたよね? ソウマ君は私のお嫁さん、ソウマ君の初めてはあたしのモノだって! そのために世界各国にあるありとあらゆるその手の本をかき集めさせ熟読して来たるその時に備えていたというのに!! まさかお手つきして無いでしょうね!?」
びしっぃ!!
ミーニャは姉さんに向けてびしっと指を差し向ける。
「フェンリルさん、実の弟なんですよ!?」
びびしっぃ!!!!
「ううぅっ! そ、それはぁ‥‥‥」
いやいやい姉さんそんな事よりミーニャが目の前にいるんだよ!?
僕は慌ててミーニャに言う。
「ミーニャ! 魔王なんてやめて一緒に帰ろうよ!!」
僕は姉さんを押しのけ前に出てミーニャを説得に入る。
するとミーニャは、ぱあっと明るい表情になって僕を見る。
「ソウマ君! なんか少したくましくなった? ああ、可愛らしいソウマ君も良いけどこっちのソウマ君もいいぃっ!」
胸の前で手を組んで嬉しそうに前かがみになってお尻をフリフリしている。
この半年近くでミーニャもなんか少しお姉さんぽくなっている?
「ミーニャ! ねえ、一緒に村に帰ろうよ!!」
「ごめんねソウマ君、そうもいかないの‥‥‥ だって初めての時はすごく痛いっていうからそれを和らげるために‥‥‥ その、世界のどこかにあるという『ハーピーの雫』って言うアイテムが欲しいの‥‥‥ それが有れば初めてでもスムーズに出来るってものの本に書いてあったし、これってオーガとホビットでも出来るくらい凄いアイテムなんだって!」
なぜか顔を赤らませて瞳をハート型にしてはぁはぁ言いながらちょっとよだれも垂れて力説するミーニャ。
何それ?
ハーピーの何?
そんなの最近村にも出来たシーナ商会の通信販売ってので見つけられるんじゃ無いの?
「くっ! そ、その手があったかぁっ!! ソウマ、お姉ちゃんもそれ欲しい!!」
「なるほど、噂のアイテムですね? ほとんど神話級のレアアイテムと聞きます」
あれ?
なんか姉さんもソルミナさんも乗り出してきた?
「それにやっぱりソウマ君が他の人にいじめられるのは許せない。だからソウマ君とあたしの輝かしいイチャラブの世界の為に『ハーピーの雫』を手に入れ、そして世界を征服して二人の輝かしいバージンロードを歩くのよ!!」
ぐっ!
ミーニャは拳を握りしめ夢見るような瞳でどこか遠くを見る。
「だからと言ってこの村をどうこうされるのは困るんじゃがな?」
「ようもここへ入り込めたもんじゃ」
「だが『魔王』一人で来るとはうかつで無いかえ?」
「『魔王』! 久しいと言うべきかの? 儂らエルフ族に何用じゃ? もし我らに仇成すとするならばこのメル、容赦せんぞ!!」
何時の間にやら長老さんたちがミーニャを取り囲んでいた。
「あの子がミーニャって子ね、ソウマ?」
「あ、はい。そうです!」
いつの間にかシェルさんは僕の隣にまで来ていた。
「全く、イオマ‥‥‥じゃ無かった、『魔王』はいっつも厄介よね!」
「セキ、サポートしますわ!」
セキさんもエマ―ジェリアさんもミーニャを取り囲む輪に入って来た!
「ちょ、ちょっと、皆さん穏便に! ミーニャ、いくら強くなったからってこんなのダメだよ!」
「うふっ、ソウマ君が私を気遣ってくれる‥‥‥ うれしい! ソウマ君強くなったんだね、何時もあたしの後ろで泣いていたのが嘘みたい。でも、邪魔するなら容赦しないわよ!!」
ドンっ!!
なにこれ!?
ミーニャの魔力!?
なんてすごいんだ!
僕でさえわかるほどにその力があふれ出している。
「こ、これは! イオ‥‥‥じゃ無かった、ミーニャ! あなた世界の壁と!?」
「あら? そうそう、思い出したシェルさんでしたね。久しぶりと言うべきかしら? 転生するたびに私の魂を『魂の封印』で押さえてくれましたねぇ? その胸、お姉さまにだいぶかわいがられているんですね? あんなに貧乳だったのに。 でも今のあたしはお姉さまの事はいいんです。今私が欲しいのはそこにいるソウマ君只一人! 絶対に世界征服して『ハーピーの雫』を手に入れソウマ君とこの人生を幸せに暮らすんですから!!」
「させぬわ!! 精霊王よ!!」
そう言うミーニャにメル長老さんたちはいっせいに精霊魔法を使う。
それはシェルさんにも引けを取らない程強力なモノ。
僕にだって見えるほど精霊が実体化してミーニャを襲う。
「無駄無駄無駄無駄ぁ!」
ミーニャは嬉しそうにそれらの攻撃を目の前に開いた空間の裂け目に吸い込んでいく。
「このっ! 大人しくしなさい!!」
セキさんが飛び込んでミーニャの胸ぐらを捕まえようとする。
しかしセキさんとミーニャの間に空間の裂け目が出来てセキさんはその中に入ってしまった!
ポン!
「うにゃぁっですわっ!」
セキさんは今度はいきなりエマ―ジェリアさんの前に現れてガシッとエマ―ジェリアさんの胸ぐらを掴む。
「あ、あれっ!?」
「セキ何をするのですわ! 相手は向こうですわ!!」
「ふん、よくよく見ればお姉さまにそっくりな子ね? 誰?」
ミーニャはエマ―ジェリアさんに向き直ってすうっと目を細める。
「わ、私はエマ―ジェリア=ルド・シーナ・ハミルトン! あ、あなたが『魔王』なのですわね!?」
エマージェリアさんは虚勢を張っているけどなんか足がガタガタ震えている?
そんなエマージェリアさんをかばうようにセキさんはその間に立ちはだかる。
「エマ、下がってなさい。駄目だこいつ完全に覚醒している。私の本気でも太刀打ちできるかどうか‥‥‥」
「ええぇーっですわ! セキが本気でもかなわないのですの!?」
どう言う事だろう?
セキさんが敵わないなんて!?
セキさんって「爆竜のセキ」と言われるくらい凄い人なのに。
「それでも! ミーニャ!! 村へ帰るわよっ!!」
ちゃきっ!
姉さんはミーニャになぎなたソードを向けるのだった。
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