第8話 ゴブリンのペット

 城の地下へと降りていく二人。倉庫の管理をしているゴブリンは、激しい音楽に合わせてダンスをしていた。激しい音楽といっても、ギィーギィーした耳障りな音で、レモンとアスパラには雑音にしか聞こえない。

「ゴブリン。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

 ゴブリンには、レモンの声が届かない。

「ゴ~ブ~リ~ン!!」

 もう一度、大きな声で叫んでみる。しかし、ゴブリンは気づかない。どうしようかと思っていると、『ガッシャーン!!』という大きな音が倉庫中に響き渡った。

 アスパラがどこから持ってきたのか、大きなシンバルを鳴らしたのだった。ようやくゴブリンが、来客の二人に気づく。

「すっ、すみません! オラ、全く気ぃつかなくて……」

 大きな体を小さくして、平謝りのゴブリン。アスパラが優しく声をかける。

「こちらこそ、ダンスを止めちゃって御免なさいね。実はゴブリンさんに聞きたいことがあるんですけれど――。 少しお時間頂いて宜しいですか?」

「もちろんだす」

 汗を拭きながら答える。

「一昨日のことなんだが、荷物の中に何か変わった物はなかったか?」

 レモンが早口で尋ねた。ゴブリンは上を見上げて考えていたが

「いんやぁ。特に変わった物は無かったと思いやす」

と、答えた。

「差出人不明の荷物が届いたとか、いつも荷物の届かない人間に珍しく配達があったとか……。 そんなことはなかったか?」

「う~ん、ちょっと待ってくんろ」

 そう言うとゴブリンは、一昨日の配達便をチェックし始めた。

「んだなぁ。食料が届いただけで、特に変わったことはねぇだな」

「そうか……」

 何か手がかりが掴めると思っていたレモンは、肩を落とした。

「ゴブリンさん。そのポケットの中に何が入っているのですか? 先ほどから何か動いているようですけれど」

「あいやー。アスパラさんに気づかれちゃいましたかぁ。おらの可愛いペットでさぁ」

「ペット? 見せて頂けますか」

「ほい」

 そう言ってゴブリンが手のひらに載せたのは、茶色の大きなガマガエルであった。

「うっ、〇☆△×~¥:#~~~!!!」

 レモンが、この世のものとは思えない叫び声をあげて、部屋の隅に逃げた。

「レモン様、もしかしてカエルが苦手なのですか?」

 アスパラが驚いて尋ねる。

「この世で一番苦手としている生物だ……」

 レモンの額から、あぶら汗が流れる。

「おらの可愛いアリスちゃんなのに……」

 悲しそうな顔のゴブリン。

「す、すまん。体が勝手に反応した」

 反省するレモンだが、体は硬直したままだ。

「ゴブリンさん、この可愛いアリスちゃんですが、以前から飼われていましたか?」

「いんや、おととい屋敷の前でぐったりしてたから、おらが介抱してやっただよ。それから仲良くなって、一緒にいるだ。ちゃんと、校長先生の許可はもらったぞ」

「ア、アスパラ! アリスちゃんは今回の事件と無関係じゃないかな? 早く、部屋に戻るぞ。ゴブリン、迷惑かけてすまなかったな」

 逃げるように倉庫から出ていくレモン。アスパラは、ゴブリンとアリスに丁寧に挨拶をした。

「アリスちゃん、優しいゴブリンに出会えて良かったですね。ゴブリンさん、お話を聞かせて頂いてありがとうございました。では、また」




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