第5話 夢で恋する
「夢? どんな夢を見たんだ?」
「私が、学校の花壇のお花に水やりをしていると、グランドからサッカーボールが飛んできて、『きゃー』って思わず固まっていたら、たける君が助けてくれたんですぅ。それも、壁ドンスタイルで私を守ってくれたの♡ 思い出しても恥ずかしい。胸キュンですぅ。でね、代わりにたける君の背中にサッカーボールが当たってしまって。たける君、自分の背中が痛いのに、私のことを気遣ってくれて『大丈夫か?』って……」
頬を赤らめ、ベラベラと勢いよく話しだすみかんに圧倒される二人。
「あっ、たける君ってね、普段はクールで近寄りがたい感じだったんだけどぉ……」
体をくねらせながら、しゃべる続けるみかん。
固まるレモンとアスパラ。
「わかった! もう、わかったから! 夢の話は、もういいぞ」
話を遮られ、ぷんっと頬を膨らますみかん。
「で、夢の中の男の子に恋をしたと?」
「はい、レモンお姉さま。しかも恋人同士になっちゃいました。てへ♡」
アホな幸せオーラ全開のみかんに押され気味の二人。これ以上話を聞く気にもなれず、みかんから離れた。
「レモン様、他の方からもどんな夢を見たのか聞いた方が良いかもしれませんね」
「あぁ、まさかと思うが、みんなの恋するオーラが気になる……」
二人は、さりげなく聞き取り調査を開始した。それは、廊下ですれ違う教師にも行われた。
「みなさん、昨夜は恋の夢を見ておられましたね。先生方は誤魔化していましたけれど、私たちの質問に動揺してましたので、恋の夢を見ているのは間違いありません。レモン様は昨日どんな夢を見られましたか?」
「私か? 私は好みのけつをした馬を見つけてな。今日のレースは、この馬が優勝すると見込んで、大枚をはたいて全部する夢を見た。お前は?」
「……私は、ヨーロッパ巡礼の夢を見ました」
「——巡礼。なぜだ! なぜ、私とアスパラの夢には、イケメン男が現れないいんだぁ!!!」
憤慨するレモン。頭を掻きむしって、地団駄を踏んでいる。イケメンが夢に現れなかったのが悔しかったのか、競馬ですってしまったのが悔しかったのか詳しくは聞くまいと心に決めたアスパラであった。
「レモン様。私たち以外のみなさんが、全員恋の夢を見るなんて、そんなことがありえるのでしょうか?」
「普通はないな! つまり、普通じゃないってことだ!! この学園になにかが起きている」
「でも、怪しい気配は感じられません」
「そうなんだよなぁ。先生方が気づかないなんてこともあるわけない。だが……」
「なんでしょ?」
レモンは急に声のトーンを落とした。
「もし、これが裏試験の一つだとしたら?」
「あぁ、以前ありましたね。生徒に内緒でわざと弱い悪鬼を放って、祓えるかどうかテストしたり」
「これも、そんなテストの一つなんじゃないのか? 夢が人間に与える影響を調べるとか……」
「なるほど―― テスト内容がバレないように先生方も恋するふりをしているとして、どうして私たち二人だけ仲間外れなのでしょう? 」
「さぁ? 恋する夢魔法が効かなかったんじゃないか? 私の夢は酒池肉林パラダイスなのにぃぃぃぃぃ~~~」
(だから、恋する夢魔法が効かないんですよ)という言葉を飲み込み、アスパラは愛想笑いをした。二人は相談の結果、このまま様子をみることにする。
こうして、コスプレをしないみかんの不思議な一日は終わった。
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