18話 デート④
遊園地を後にした俺達は電車に乗って最寄り駅まで戻り、地元の帰路を歩いていた。
朱色の空を照らしている夕陽は時期に沈んでしまうだろう。
住宅街は閑散としているが、通りすがった公園では子供が元気に遊んでいた。
相変わらず活力に溢れているな……と感心したが、俺も今日は七宮と色々な所に回ったので人の事は言えない。お陰で慣れないことをした故に、身体はクタクタである。
「ハル君大丈夫? 顔が死んでるよ」
「気にするな、俺はいつもこんな感じだ」
「確かに、学校でもいつも目が死んでるし」
「放っとけよ」
大体学校とか俺にとって睡眠場所でしかない。普段深夜までイラストを描いているせいで慢性的な睡眠不良なのである。学業が本分なのは重々承知の上だがこちらとて仕事でやってるしな……。この先もイラストで食べていくとなると、学校を中退する選択肢も視野に入れなければならない。いや、待てよ。そもそも何で俺は辛い思いしてまで学校に行ってるんだ? これもう中退した方がいいんじゃあ……。そんな余計な事を俺が考えていると、七宮が俺の思考を遮ってきた。
「それにしてもジェットコースターに乗った時のハル君のビビり具合は凄く面白かったし! 思い出しただけで……ふふっ」
「あの事を蒸し返すのは止めろ。大体お前だって絶叫してたじゃねぇーか。本当お化け屋敷といい、わざわざ苦手な物にチャレンジする理由が分からんな」
「その方が面白いじゃん。それにハル君の珍しい顔を見れて良かったと思ってるよ」
「喧嘩売ってんのかよ……」
「えー、そんなつもりで言ったんじゃないしー」
七宮は飄々とした表情でそう告げる。どうやら本当に楽しかったという意味で口にしたらしい。これじゃあ本当にただ俺達が休日に遊びに行っただけということになる。そもそも何でこいつが俺を誘ったのか謎である。出掛けるなら最近仲良さげなリア充集団に声を掛ければよかったのに……なんて俺が余計なことを考えていると、七宮の家に到着した。
「じゃあお前を家に送り届けるという使命を果たした訳だし、俺は帰る。また学校でな」
「ま、待ってハル君、少しだけここに居てくれない?」
踵返してその場を後にしようとすると、何故か七宮が俺を引き止めてきた。
「は? まぁいいけど……」
「うん、じゃあすぐ戻るからここで待ってて」
俺がそう答えると、七宮は直ぐに家の方に向かって消えていった。
一体どういうつもりなのだろうか?
彼女が消えてから俺はただひたすらその場で立ち尽くす。普通に暇である。
陰キャラが一人……陰キャラが二人……なんて数えながら俺は脳内で退屈しのぎをする事にした。
それから待つこと数分、玄関に続く家の扉が開かれてそこから彼女が再び姿を現した。
「ごめんハル君、待たせちゃったし」
「別に気にすんなよ。それでどうしたんだ?」
「うん……実はメイドさんにハル君の分も料理を作って欲しいって頼んだんだ。だから今から一緒にウチでご飯食べない?」
ご飯を食べる……七宮の家で……。ハードル高くない?
小学生の頃はそういう機会もあった気がするけど、あれから何年経ったと思ってんだよ。
有り難い誘いだが今日のところは断るか……。
「今日は止めとく、つーか俺、今日は料理当番だから家に帰らないといけないし」
一応嘘は言ってない。今日は土曜日だから俺が料理を作らなければならない。俺が七宮の誘いを受けてしまうと、藤原先輩の夕食が抜きになってしまう。
「むぅー、千春先輩はカップラーメンでも食べさせておけばいいし!」
「お前酷いな……普通に見損なったぞ」
「ハル君だって人の事言えないし……事あるごとに千春先輩、千春先輩ばっかなんだもん」
「そりゃあ俺の姉だからな、義理だけど」
「だったら妥協案、まだ夕方だし千春先輩に今日は夕食買って食べて下さいって連絡して欲しい! それなら誰も困らないし!」
まぁ確かに七宮の言う通り、今連絡を入れるならギリギリ許してくれるだろう。
だが問題なのはそこではない。俺が彼女の家で夕食を済ませるということが一番の難点。
せめて会話の間を保ってくれそうな人が他に一人ぐらい居れば……。
それならば丁度いい案があるな。
「藤原先輩も誘うっていうのはどうだ?」
「却下だし!」
「本当頑固だな……。どうしてそこまで俺に拘るんだよ」
俺には七宮の行動原理がどうしても理解できなかった。だから不意に尋ねてしまった。
すると彼女が一瞬黙り込んだ。まぁそんな事を聞かれても困るわなぁ……。そう感じた俺が今のやりとりを取り消そうと思った瞬間、彼女がふと口を開いた。
「だってハル君、折角数年ぶりに再会したのにずっとよそよそしいんだもん……だから偶には幼馴染の我儘に付き合って欲しいって思っただけだし……」
「意味わかんねぇな……じゃあ藤原先輩が来ちゃダメな理由は何だよ」
「ハル君は今日、あたしの貸し切りだから……なーんてね」
若干顔を染めながら七宮がそんな事を口にした。……幾ら何でもその表情は反則だろ。つーか貸し切りって何だよ。レンタル彼氏じゃねーんだからさ。そもそも賃金貰ってないしこれ実質タダ働きじゃねーか。いやそんな事今はどうでもいい。つーかいよいよこいつに対する言い訳も思い浮かばないし、誠に遺憾ながら降参するしかないな。
「ったく分ーかったよ、俺の負けだ」
これ以上俺が七宮を拒否する必要も無くなった。
そういう訳で俺は数年ぶりに彼女の家に足を踏み入れる事にした。
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