栄枯盛衰

莉子

いつかはきっと……


 二度寝をすると、必ずと言っていいほど夢の内容を覚えている。

 いいものでも、悪いものでも。

 ごく断片的だんぺんてきと言えど、そのつかのものに心臓が嫌な音を立てるのだ。

 口の中に後味あとあじが残るように私の脳内や内界ないかいにその余韻よいんただよって。


 「……何でこんな夢を……縁起でもない……」


 目元めもとを押さえかぶりを振った。

 そして私はもう一度、泡沫うたかたの世界に落ちればこのわだかまるものも上書きしてくれるに違いないと、再度まぶたを閉じた。

 だがそんなあさはかな願いもむなしく、不快で不明瞭ふめいりょうなものだけが意識内をめるようにしばらくの間、私の頭に住み着いていたのだった。


  

 同じ屋根の下で暮らす祖母が亡くなった。

 故人こじんの周囲をぐるりと囲むように見知った顔がれをなした。

 そして次の瞬間には祖母の自室で遺品いひんの整理をしているのだ。

 そうだ、ここだ。

 胸がどうしようもなく締め付けられたのは。

 まっさらな鏡台きょうだい

 私有物しゆうぶつ一つとしてえ置かれていないだけでなく、室内も整然せいぜんとしているのだ。

 喪失感そうしつかんが胸をけ巡る。

 同時に私はなにもかもが受け入れる事ができなかったようだ。

 ……これは幸い、恵まれているということなのだろうか……。

 私は物心ものごころついてからは、『故人を送る』と言う経験が一度くらいしかないのだ。

 意識もままならない本当に小さい頃は幾度いくどかあったようだが。

 それか、自分がまだまだ未熟者みじゅくものということであろうか……。

 たぶん、その両方だと自分的には思うのだ。

 起床後きしょうごとうの本人を目にし、声を聴くといくばくか不思議な気持ちになるものだった。

 自分がどれだけ馬鹿ばかげたものをていたのか、あざけりたくもなるものだ。

 それと、それ以前の自身の精神状態がかんばしくなかったのか、はたまた疲労のせいだったのか……。

 なににいてもそうだが、原因は複数あるように思う。

 それゆえに今回もこの二択にたく安易あんいに受け入れられた。



 その後ふと気にな、『夢占い』というものを検索してみたのだ。

 人が死ぬ 夢 のようなかたちで。

 意味合てきには、幸運は、能力を最大限に発揮はっきできたり、苦しい状況から救われるとか、さらにはその人物との関係性でもまた違ってくるらしく、私の場合は祖母なので……あなたが保護される存在ではなくなった(成長した証)という内容だった。

 それから過去の価値観や因縁等いんねんとうと決別する暗示、となっていた。

 総じて、吉夢きちむらしい。

 これはいいことなのかもしれないが、人が死ぬ夢とは二度と見たくないものである。

 といっても、いつの日かまたその場所にいざなわれるのであろう。

 まぁ、そのときはそのときである。

 ともかく、正夢まさゆめとならないよう願いたい。

 もしくはもっと先の話であって欲しい。

 そして、最高の大団円だいだんえんむかえてもらいたいものだ。





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栄枯盛衰 莉子 @riko1018

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