第7話 色々されると、困るんですけど



 彼の世の月はとても大きい、昼間の太陽より大きく見える。

目がれてきたらそれだけで、不自由の無いくらいの明るさだ。

どこを中心に座るわけでもなく、オーナーを話の中心にして

今後についての作戦会議の様な座談会ミーティングを始めた。


 輪転の腕輪での通話? は彼の世の夜しか使えないらしく

彼の世の日没以降にちぼつ いこうを、定時ていじ連絡にするとオーナーが決めた。

日が落ちたら俺たちが、連絡するといった手筈てはずだ。


 目下の目標はコンタクトの取れる、彼の世人かのよびとと接触すること。

基軸きじくとなる場所を探して食料と水の確保かくほ優先ゆうせんすること。

植物や彼の世の生き物をってしのぐことは出来るけど、

自分たちが狩られる側になりかねない、それじゃ常に危険が付きまとうから

安全な彼の世人の生活圏せいかつけんをベースにして、そこを今後の活動かつどう拠点きょてんとする事

ぶっちゃけ"聖者を彼の世人に守らせる"というのが目的だと言い直した。

この条件をクリア出来ないと、えて一巻の終わりよと怖い事を言う。


 輪転の腕輪で出来ることも、くわしく教わった。

なんでも作ったのはセバスチャンの祖先で、斯の地で作ったらしい。

腕輪の装着者そうちゃくしゃ同士の入れ替わりを、"リプレイス"と言い。

目視もくしで相手を確認できれば、入れ替わりつまり"リプレイス"出来るのだと。

使うにあたっては使用者の魔力にるところが多くて、

今はミシンさんを主体しゅたいとする"リプレイス"しか出来ないとの事。


 腕輪での通話は相手が見えなくても話せるから、

俺とミシンさんの間でも通話できるらしい。

使い方は腕輪をでて"コール・ミシン"ととなえるとミシンさんに発信する。

受けるのは単純で、ただ腕輪に触れれば良いとの事。

今みたいに複数で通話する時は"オープン・コール"と唱えると

全ての腕輪に発信される、と言っても輪転の腕輪は、

この世に三本しか無いとの事、つまり今の状態。

なんでも一本作るのに大量の触媒しょくばいが必要なんだと。


 それから彼の世の言葉が通じるよう、翻訳機能ほんやくきのうそなわっているらしい。

ただ技術が800年以上前の物で、多少言語が変化してると思うから

翻訳された言葉をよく理解して、腕輪にたより過ぎず話すようにと注意された。

800年前はまだ鎌倉時代なんだし、のう狂言きょうげんみたいな言い回しなのかと、

想像してみたが古文こぶんは俺の不得手ふえてである。

途中ボソッとミシンさんが"コンニャク"と言ったのは聞き逃さなかった。


 いまできる事として時計がズレて、時間の感覚が分からないと話をしたら、

渡った場所と日本との時差じさはほぼ無いからと、日本時間を教えてくれた。

さすがに秒まで合わせることは出来ないが、やっと時間を気にすることが出来る。


…でも時差がないのになんで、時計ズレたんスかね?…


…おそらくオドのせいね、彼の世はオドで支えられてるから…


…、オド? って何ですか? さっき言ってた魔力の事ですか?…


…魔力とは違うのよね、斯の地にも少なからず魔力があるし、

 輪転の腕輪は魔力で作られてるけど、腕輪にオドは無いってセバスが言ってたわ

 オドは彼の世にしか存在しない力の性質というか、、

 、んう~ん~彼の世の磁場じばみたいな、あたしも経験してないから

 そのあたりの説明うまく出来ないんだけど、、…


…例えば、そうだな~ 輪転の腕輪使った?…


…使った? っていうか、ミシンさんが使ったみたいですけど、

 あの瞬間的に体入れ替える、"リプレイス"ってヤツですよね?…


 チラッとミシンさんを見たが、反応は無い。


…ワァーオ!? 凄い! 使えたんだ? どんな感じだった?…


…どんな感じって、、空? を落ちてたのに、いきなり地面にいただけで

 使ったって感覚はなかったですよ、、…


…"リプレイス"は魔力で発動してるけど、過程にはオドの力が働いてる、

 ん~体験しないと、ちゃんと説明できないわ、でも見れるはずなんだよな~

 、やっぱ彼の世そっちじゃ質が違う? というか発現はつげんが違うと言うか、、、…


 そう言うとオーナーはしばらだまってしまった。

オド、、オドメーターだと、バイクとか車の距離はかるアレだよな?

スピードメーターに付いてる、何キロ走ったみたいな。


…、まっいっか! いま考える事じゃないわ…


簡潔かんけつ完結かんけつしてますよ、ナンなんスかソレ?…


エキ〇チック不思議マ〇ューバパワー!! まぁ斯の地こっちじゃ

 疑似科学ぎじかがくとか言われてるけど、、…


 胡散臭うさんくさい事この上ない、そんなの信じる奴はいないよな。

オーナーも説明が面倒なのか、完全にふざけた言い方してるし。

まぁ俺が今体験してる事を斯の地あっちの誰かに話しても、

うそっぽく聞こえるだろうし、そういうものなのか?

横座よこすわりだったミシンさんは、姿勢を体育座りにし口を開いた。


「オドはある、無かったらキン死んでた」


 ミシンさんへ視点してんを合わせると、さっきと様子が変わった。

肩をすくめて、両膝を強く抱えていた。


…ミシンちゃんは、どんな感じだった?…


…体が吸われる感覚、物の交差する点が見えて、そこを通る感じ

 輪転の腕輪は時間の無い空間に、入り込む感じがした…


…なんとも抽象的ちゅうしょうてきな表現ね、で、オドは? 体験できた?…


 あごを少し引き、すくめた肩は今一度上がった。


…多分、がそうとは言い切れないですが、、

 、赤くせまい、ぬるいお湯の中の様な、すごく気持ちが悪かった、…


 なんだか二人の会話が重い、俺だけ蚊帳かやそとだな。


…、んっ分かった、、、いいわ、それも徐々に慣れていくでしょ

 それまでは大変かも知れないけど、お願いね、…


…、、はい、、…


 ミシンさんはチラッと俺を見た。


…って事で千代田君はミシンちゃんを、せいいっぱい甘やかしなさい!

 ミシンちゃんには体力的に、かなわないかも知れないけど

 ヘンテコ知識と懐具合ふところぐあいは、ミシンちゃんより上なんだから

 優しさが一番の武器になるって事も、あるんだからね?…


 ミシンさんが膝を抱えたまま、おーって左手を挙げてる。

甘やかすって現状が過酷かこくすぎて、甘える事しかできてない。

具体的になんだ?とか聞いちゃダメなんだろうな。


…、、出来る限りで、としか、…


…うん! それでいい、急ぐことはないわ出来ることでね…


 時計は22時40分を指している。


…さっ、二人とも疲れたでしょ? 今日は休んで明日に備えなさい

 水の調達も大事だけど、明日には食料も見つけないとね…


…分かりました、それじゃまた明日の日没後、、…


…ん、それじゃあね、、…


 コッンッと音が鳴り、会話が途切とぎれた。

二人きりの空間に不安が押し寄せる。

気付かなかったが、昼間の暑さはなく肌寒く感じてきた。

俺は頭に巻いていたシャツを羽織はおり、ボタンをめた、

、そっか、、ゴメン膝抱えてたのは、、、

ミシンさんにそうっと近づき腰に下げていた

ジャケットを渡そうとするが、ミシンさんは首を横に振った。


「大丈夫、平気、キンが着たらいい」


 そう言うよな。


「、俺も平気」


 ミシンさんのすくんだ狭い肩に、色気のないジャケットを掛けた。

背中に砂が付いててはらおうと思ったが、

ミシンさんごとたたいてしまうような気がして

そのままにした。


「ちょっと、くさい、、、ありがと」


「、なんか、悪い、、、ありがとな」


 俺はミシンさんとの距離を少し取り。

砂に顔を付けないよう自分の腕を枕にして、

体をくの字にし横になった。


それは何とも言えない、遠いやり取りだった。



-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


 、、、だよな~ハハハッ! お前そういうとこが悪いんだよ!」


「そもそもさ~興味なかったら、不審者ふしんしゃじゃん?」


「んなもん、わかんねーじゃねえか?

 虎穴こけつらずんばナンとかって言うだろ?

 人は何かを知るために生きてる、

 人の興味ってのは無限のつながりだぞ?

 興味ってのは生きるちからになる

 見も知らぬ不審者が、もしかしたら面白い奴かも知れないだろ?」


「それ俺の事?、そうなのか~、、、でも、、


-ッパチッ、、パチッ、ピシッッ―


 炎に揺れる影が木々に当たって、なにかの儀式ぎしきみたいだ。

誰だ? 悪い人じゃないだろうけど、なにか不快ふかいな感じがする。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-



「キン、そろそろ起きて、、」


 、、? もうそんな時間か? いや辺りは真っ暗だ。

ミシンさんに渡したはずの、ジャケットは俺の腰辺りに掛けられている。

時計のバックライトですら、まぶしくて目を細めてしまう。

"2時48分"横になってから4時間は経っていない。


「まだ早いよ、もう少しして、、か、ら、、」


 ミシンさんは俺の腰の辺りをすりながら


「夜起こすって言った、早く起きて」


 んんん~そんな事言ったっけ? この下で夜を越すっ、、、飛び起きた!


「ミシンさん"夜を越す"んじゃなくて"夜起こす"なの?

 なんでこの時間? って言うか寝てないんですか?」


 飛び起き、ドォっと話し始める俺にビックリしたのか、

ペタンとアヒル座りになった。

月明りが横顔にして、まん丸になった瞳を透過とうかしている。


「少し寝た、すずしいウチに移動した方が良いかと思って」


 なるほど、、ん~正しいか? 残りのカヨウの量も気になる、

夜の方が水分補給も少なくて、済みそうだし。

日が高くなったら日陰を見つけて、休息きゅうそくって手もあるし。

それに腹は減ってるが、目標もない月明りでの移動は不安がある。


「たぶん十数キロ先に集落しゅうらくの様な、生き物の生活を感じる

 生き物のオ、、魔力でそれを感じる、

 キンのペースで歩いても、七時間くらいで着くと思う」


 いま不思議パワーオドって言うのめたな、、

オドってのが何だか分らないが、ただミシンさんの自信は本物かな。


「早いうちに、この世界の住人に辿たどり着くのが大事って事か、

 うん、行こう、案内はまかせていい?」


 一つコクンとうなづくと、立ち上がって行く先を見つめる。

俺も立ち上がるが、寝起きでフラっとした。

ミシンさんが、俺をチラッと見たのが分かる。


、だらしないな、今日は始まったばかりなのに。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る