第12話楓子と雪ちゃん

 「やっと終わったーっ」

そう言いながらエリカが教室に入ってきた。

掃除も終わり放課後を迎え、その喜びの声がエリカにとって如何にテストが嫌だったかを物語っている。

「テストも終わったし、ぱーっと駅前に繰り出そうかな」

「ふふ、宜しいのではありませんか」

「えっ、伊澄ちゃんも行こうよ」

「いえ・・・私は。お忘れではありませんか?」

流石に女装しているからって女の子の買い物や遊びには付き合えない。

「えっ・・・あっ・・・そ、そうだったわね」

・・・もしかして、私が男だってことすっかり忘れてる?

「ごめん・・・すっかり忘れてた、伊澄ちゃんが・・・だってこと」

「・・・・・・」

本気で忘れてたよ、この人!

「ま、まぁそういうわけですから私は結構です」

「うっ、なんか怒ってる・・・?」

「いいえ、怒ってなんて、怒ってなんて、イマセンヨ・・・?」

「うわぁ、嘘だ!絶対に怒ってるぅ・・・じゃ、じゃああたし千早さまと愛花を誘ってみるよ、あは、あはは・・・」

エリカはそう言いながらそそくさと教室を出て行った。

「はあ・・・」

どうしてだろう。

ものすごく打ちひしがれた気分になるのは。

喜ばしいことかもしれない。それだけ、男と見破られる可能性が低いってことなんだから。

「だけど、何やら得心がいかないよ・・」

ううっ、もやもやするなぁ。

「失礼いたします。2年A組の財前と申しますが、宮村伊澄様にお取り次ぎ願えますでしょうか?」

「はい、伊澄さんね。少々お待ちくださいね」

呼ばれたと思い、振り返るとちょうど常磐さんがこちらに歩いてくるところだった。

「御前が来ていますよ、伊澄さん」

え、楓子がわざわざ私に会いに?なんだろう。

「ありがとうございます、常磐さん」

とりあえず要件を聞こうと、廊下に出ようとした時だった。

「お姉さまっ!」

「っ・・・!?」

一瞬、何が起こったのかと思ったけど、気がついたら楓子に飛びつかれていた。

「ど、どうしたの?」

「お姉さまが雪ちゃんに伝言板なさってくださったんですよ。試験が終わったら部室に遊びに来てくださると・・・わたくし、待ちきれなくて迎えに来てしまいました」

ゆきちゃん・・・?あぁ、雪乃さんのことか。

「それはまたずいぶんと気が早いのね、楓子は。今日はまだ試験当日だから私は華道部はお休みだと思っていたのだけど」

「それなら迎えに来て正解でした・・・あ、それとも今日は他にご用事がおありでしたか?」

これだけ舞い上がっていても、こういうところに気が配れるあたり、楓子はとても出来た子なのだろう。

「いいえ。今日はこのまま帰るつもりでしたから。わざわざ迎えに来てくれたのだし、寄らせて頂くわね」

「はい、ありがとうございます」

すると教室内から声が聞こえた。

「伊澄さん、御前とあんなに仲がおよろしいのね」

「本当に。わたくし、御前があんなに楽しそうにしているお姿は初めて見ました」

・・・うわ、なんか話題になっちゃってる!

「・・・ま、参りましょうか」

「はい」

そして、私達はそのまま修身室にやってきた。

「さ、どうぞお姉さま」

「ええ、お邪魔するわね。あら・・・雪乃さん?」

「あ、お姉さま!?かえちゃ・・・じゃなかった。御前、わざわざ迎えに行ったの?」

「ふふ、だって待ちきれなかったんですもの」

「どうして・・・」

雪乃さんは楓子の行動にすごく驚いていた。

つまり普段はそういう行動は全くしないというわけで。

「お姉さまは、この学園で唯一わたくしを甘やかしてくれるお方ですから」

「へ・・・甘や・・かす?」

ぽかーん、とした顔で雪乃さんは楓子を見つめ返す。

・・・まあ、そうだろうな。

「い、いつの間にか、ずいぶんと重大な問題に発展していたのね」

何なんだ、その『この学園で唯一』って。

「ちょっと、御前。どうしちゃったのよ、いつもの威厳はどこに置いてきちゃったのよ」

「威厳と言われましても・・・特にわたくしが持とうと思ってそうなってるわけでもないでしょう」

「それはまぁ、そうなんだけど・・・なんかすごく違和感があるって云うか」

・・・以前部活勧誘の日に会った時とは確かに違っていた。

私は何も考えずに楓子を妹扱いしてしまったが、彼女にとっては実はとても重大な問題だったのかも。

「あ・・・お姉さまはそんな顔をなさらなくてよいのです」

私の表情が曇っているのに気付いたのか、楓子は苦笑混じりに微笑んだ。

「わたくしは、自分の行動の責任を・・・他人様に押し付けるような真似は決していたしません」

浮かれているように見えて、その実とてもしっかりしている・・・今度は逆に、それでちゃんと甘えていると言えるのかと心配になる。

「・・・そう。貴女、面白い子ね」

多分それが彼女なりの精一杯の甘え方なんだろうとそう思った。

「さ、どうぞお上がりになってください。今お茶をお淹れしますから」

「ええ、ありがとう」

私を座敷に案内すると、楓子は嬉々として奥の流し台へと消えた。

「あの・・・お姉さま?」

「なんでしょうか雪乃さん」

「一体お姉さまは御前に何をなさったんですか?」

「・・・む、難しい質問ですね」

何を、と云われたら別に何かをしたわけじゃない。

うーん・・・。

「本当、何をしたのでしょうね・・・?」

考えてみると、本当に何もしてないんだよなぁ。

「お、お姉さまがご存知ないなら私が知ってるわけないじゃないですか・・・」

まぁ、それはそうだ。

「雪乃さんとしては、楓子にどうあってほしいのですか?」

「どうっていうか・・・まあ、いつも通りでいてほしいと思ってます」

いつも通り、か・・・まぁ確かにそうなんだろうけど。

「けれど楓子に、甘えたい、迷惑かけないと云われたら、私はそれをとがめたりはできないわね・・・あの子、みんなに尊敬されて『2年生のご意見番』と呼ばれているのでしょう?」

それって、楓子が望んでそうなってるわけじゃないんだよね、きっと。

「そうです。それなのに、急にあんな風に・・・」

「そうね。けれど、みんなが頼っている楓子には・・・そんな風に威厳のあるあの子は・・・誰かに頼ったり甘えたりしてはいけないのかしら?」

「えっ・・・そ、それは」

「そう考えたら、例え私が楓子より頼りなかったとしても・・・楓子のことを分かってあげられていなかったとしても、あの子に『甘えるな』なんて云えないもの。そう思わないかしら?」

「お姉さま・・・」

雪乃さんの、否定と理解をない交ぜにした、ちょっとムスッとした可愛らしい表情に・・・私も困惑と微笑みを返す。

「私は、楓子に出会ったばかりだからそんなことが云えるのかもしれないわね」

「雪ちゃん、雪ちゃんもお菓子食べますか?」

そんな時、奥の流し台から楓子の声だけが響く。

「あるの!?もっちろん食べますとも!」

「ふふ、はいはい」

「・・・っ!?」

瞬発的に明るく反応してから私に見られているのに気づいたのだろう・・・すぐにまた頬をふくらませた。

「・・・ご、御前が楽しそうにしているので、取り敢えず何も云わないでおきますけど」

「ふふ・・・はい」

きっと楓子って女の子は、そんな風に自然と周囲から尊敬されて、羨望を受けてしまう・・・そんな存在なのだろう。

そんな魔法が私に効かないのは、私が男だからだろう。

「お待たせいたしました」

お盆を下げて戻ってきた。

今日は抹茶ではなく、普通に煎茶と和菓子を用意してくれた。

「あはっ、水ようかん!テストの終了日にお菓子にありつけるなんて、ラッキーかも」

皿の上には、和菓子屋で市販されている缶に入った水ようかんが置かれている。

「風情がないと云う人もいますけど、わたくしはこの缶を開ける瞬間が大好きなのです」

「うんうん、その気持ちなんとなくわかる」

三人それぞれ、黒文字で丸い水羊羹を思い々々の形に切り取って口に運ぶ。

「ん・・・美味しい。やはり疲れた頭には甘い物が格別です」

楓子が笑顔でつぶやいた。

「・・・もしかして、今日は華道部はお休みですか?」

「ええ、だからお姉さまと御前が入ってきたのはちょっとびっくりしたというか」

まぁ確かに、顔を出すときは華道部がやっている時じゃないといけないというわけではないけど。

「では、雪乃さんはどうしてここに?」

「あー、雪って呼び捨てでいいですよ。その、御前が呼び捨てなのに私だけさん付けじゃ落ち着かないと云うか・・・」

「雪ちゃん、大胆で積極的。でも、お姉さまはわたくしのお姉さまですからとったらいやですよ?」

「別に張り合おうとか、そういう意図はないんだけど・・・」

「ふふ、じゃあ私も雪ちゃんって、そう呼ばせていただくわね」

呼び捨てよりもその方が合っている気がした。

「え、いえ、ちゃん付けは・・・まあいっか。えっと、何の話してたんでしたっけ?」

「・・・雪ちゃんはどうしてここにいたのか」

「ああ。えっと、明日からまた部活だからちょっと花を活けようかと思って」

「そう・・・熱心なのね。部活のない日まで練習なんて」

「うん・・・いや、まあ・・・そうなのかな」

肯定しているのか否定しているのか、なんとも微妙な返答が返ってきた。

「そういえば、お姉さまもおやりになるのでしたよね、お花」

楓子が尋ねる。 

「ええ・・・まあ、私のは真似事のようなものですけど」

「宜しければ、腕前を見せていただいても?」

楓子の目が期待に満ちている。

何となく云われるんじゃないかと思っていたけど。

「構いませんよ。もっとも、楓子には遠く及ばないでしょうけど」

「では、雪ちゃんも一緒に、ね?」

「あ、うん・・・」

それにしても生け花か・・・。ここのところやってなかったな。

流石にお嬢様学校の華道部と云うべきか。結構な種類の夏の草花が揃っていた。

私は真っ直ぐに伸びた夏はぜの枝をとって、斜めに鋏を入れる。

けれど、このまま花器にさしてしまうとその後のバランスが取りづらくなってしまう。

枝を両手で弱く握ると、少しずつ力を入れて曲げていく。

『ため』と呼ばれる基本的な技法の一つだ。

慌てず時間をかけて、真っ直ぐな枝を弓のようにしなった形に変えていく。

これで、この枝をデザインの中心に据えられる。

「・・・楓子は、人が活けているのを見てて楽しいのかしら?」

さっきから彼女は、私と雪ちゃんが活けているのを見ながら、楽しそうに目を細めている。

「ええ。その方がどんなことを考えながら活けているのかがよく分かりますから、見ているととても興味深いですね」

「そう・・・」

楓子はそう云って笑うけれど、なかなかそう考えられる人はいないんじゃないかな?

楓子はそれだけの腕前があるということだろう。

涼しそうな青い鉄線の花があったので、それを取り合わせる。

もともと華道というものは、床の間に花を飾る技術が推移して出来上がったものだ。

だから神道に於ける陰陽や、自然を抽象化した概念が多く存在している。

例えばこの部屋は、床の間に対して右から陽が差している。

だから、それに呼応して完成した作品は陽射しに従うように、右側にバランスが寄っていく。

真から右にある花は、光を浴びて斜め上方へと伸びるように配置される。

逆に、左にある花は当たる光が弱いと仮定され斜め下方へ低く横へ伸びるようにと配置される。

さっき夏はぜの枝を曲げたのも、デザイン的な方法論だけでなく、『光の方向へ伸びていく』という植物の性質を含んだ意味合いも含んでいる。

花のイメージの強弱によって比例の差はあるものの基本的な原則は崩れない。

それは、華道が『神様への捧げ物』として成立したという過程があるからだ。

「・・・こんな感じでどうでしょうね」

手前に配置した鉄線の花が上手く決まらなかったので、少し後ろに白のかすみ草を足してバランスを見た。

「まあ、お姉さま・・・素敵ではありませんか」

「えっ?お姉さま、もう出来たんですか!?」

隣で一緒に活けていた雪ちゃんが目を丸くする。

「『あなたはあまり凝ったことをしないわね』と、私が師事している先生によく云われるんです」

『貴方はもっと迷ったほうがいいかもね』ともよく云われたっけ・・・。

「いいえ、わたくしはお姉さまの作風、とても好きです。本当に迷いがありませんね」

珍しいものでも見たように、楓子は私の作品を見つめる。

「いかにも初夏の薫りを感じさせる、この涼しげな取り合わせ・・・それが最小限のバランスで組み合わさっていて、とても清々しい」

楓子は、私の花を見てそう評価してくれた。

「ふふ、お世辞でもそんな風にお褒めいただけると何だか恥ずかしくなってしまうわね」

「本当にそう思うから、正直に申し上げているのです・・・お世辞ではありません。今からでも華道部においで頂きたいくらいです」

「確かに、すごくシンプルなのに・・・とても整っていますね」

「・・・ありがとう」

「な、なんだかプレッシャーです・・・」

「あら雪ちゃん、雪ちゃんは雪ちゃんらしく、いつも通りにすればよいのです」

「う、うん」

自分の花器に目を向け直す雪ちゃんを、私は楓子と見守ることにした。

「ど・・・どう、かな」

雪ちゃんが選んだのは、私と同じ夏はぜの枝。それと紫君子蘭、孔雀草の取り合わせだ。

「いいと思いますよ」

紫君子蘭はヒガンバナのように茎が太く、恐らくはそれに合わせたのだろう。

夏はぜの枝が、私の作品より多めに使われている。

その足元を、薄紫の花をつけた孔雀草が飾っているけれど、紫君子蘭に対して、こちらは花が可愛らしい印象を受ける。

「全体のバランスは良く整っています・・・欲を言えば、孔雀草が紫君子蘭に負けてしまっているから、もう少し気を配ってもいいかもしれません」

私がぼんやり気になったことを、楓子は明確に指摘した。流石は部長と云うところだろうか。

「でも、そうすると全体的にうるさくなり過ぎちゃうかなって・・・」

「それは夏はぜを使いすぎているからでしょう」

「え・・・あ、そうか」

なるほど、紫君子蘭とのバランスを夏はぜだけで取ろうとしていたからなのか。

「全体のバランスは、取り合わせたすべての花を使って考えられるようになるといいわね」

「わ、わかりました。ありがとうございます」

楓子の講評に対して、雪ちゃんは丁寧に感謝の言葉を返した。

それは多分、楓子の審美眼に対する尊敬の表れなのだろう。

「ふふ、雪ちゃんは本当に真面目ね」

「出来ることなら追いつきたいんです・・・御前に」

「そういうものかしら」

雪ちゃんの向けた真剣な言葉に、けれど楓子の返事は雲をつかむようなものだった。

「これだもん・・・御前のそういうマイペースなところ・・・喰らいつきがないと云うか、なんと云うか」

雪ちゃんががっくりと肩を落としたその時、奥で何かが震える音がした。

「・・・わたくしの電話でしょうか」

部屋の奥に置かれた自分の鞄に歩み寄ると、楓子は中から携帯電話を取り出した。

「はい、財前でございます・・・お母さま。何でしょうか?・・・はい・・・はい。承知致しました、急いで帰ります」

「何かご用ですか?」

「ええ、急にお母さまが家に返ってくるようにとのことで・・・お二人とも申し訳ありません」

「ん、じゃあここは私が片付けとくから御前は先に帰ってよ」

「でも、それでは悪いわ」

「いいんですって。部活休みなのに教えてもらっちゃったし」

「それなら私も片付けるのを手伝うわ。楓子は帰りなさい。電話の様子だとかなり急ぎの用事なのでしょう」

「いえ、そんな・・・それこそお姉さまに片付けを押し付けるなんて」

とは云え、片付けを手伝っていたら用事に遅れてしまうだろうし・・・どう伝えたらいいだろう。

「・・・そういう甘え方もあるでしょう?さあ、楓子」

私がそう云って鞄を手渡すと、楓子は頬をほんのり赤らめた。

「お、お姉さま・・・はい。では、お言葉に甘えまして・・・お先に失礼します」

深く頭を下げると、楓子は早足で修身室を出て行った。

「あの御前が顔を真っ赤にして・・・まるで別の人を見てるみたい」

「雪ちゃん・・・」

「本当、意外としか言いようがないんですよね」

「もしかしたら・・・本当は楓子は雪ちゃんに甘えたかったのかもしれないわね」

「え、私ですか?そんなことはないと思うんだけどなぁ・・・」

「今日、ここに入ってきた時楓子のことを『かえちゃん』って言いかけたでしょう?」

「あ・・・き、聞こえてたんですか」

そう、雪ちゃんは「かえちゃん」と言いかけて、御前と言い直したのだ。

「あれはもしかして、楓子にそうお願いされたのではないかと思いまして」

「・・・ご炯眼、恐れ入りますね」

「だって、楓子をあんなに尊敬していた雪ちゃんが自分から愛称で呼ぼうなんて思わないでしょう?」

「まあ・・・御前にはそう呼んで欲しいって云われてはいるんですけどね、一応二人だけの時だけ」

・・・楓子には、みんなの前では「御前」でいてほしいと、きっとそんな思いが強いんだろうな、雪ちゃんには。

「今度からは、私と一緒の時にも『かえちゃん』って呼んであげてはどうかしら」

きっと雪ちゃんも、楓子にとって逃げ道の一つなのだろうから。

「そうですね・・・考えておきます。そのかわり」

「なんでしょう」

「時々でいいんです・・・私と一緒にお花を活けてもらえませんか?」

「・・・・私が?」

「はい、お願いします!」

その雪ちゃんの目には、真剣な想いが宿っているようだった。

「・・・お姉さまのお花は、とても評価されていらっしゃいました」

「雪ちゃん、でもそれは楓子のひいき目かもしれないわ」

「いいえ。こと活け花に関して云うなら、かえちゃんは感情で評価を曲げるようなことはないと思います。それに私も、お姉さまのお花はとてもすっきりしていて綺麗に見えました」

真剣な口調で雪ちゃんはそう断言する。

この子がそう云うならそれは間違いないのだろう。

「・・・雪ちゃんがそこまで言うならむげには断れないかしら」

特に断る理由もない私としてはそこまで言われちゃうとね・・・。

「あ・・・その、すみません。いきなりこんなお願いをしてしまって」

ふと我に返ったのか、急に雪ちゃんは、深く頭を下げる。

それだけ熱意があるということか。

「ふふっ、そんなにしおらしくしなくても喰って掛かるくらいが、雪ちゃんは丁度いいわ」

「し、失礼ですねお姉さま・・・私、別に喰って掛かったりなんか」

「そう?『御前に何したんですか』ってとても怒っているように見えたけど」 

「うっ・・・だ、だって・・・」

「ふふっ・・・さ、片付けてしまいましょう。せっかく中間考査が終わったのですし・・・学園でお茶もいいですけど、帰って羽を伸ばしたいものね」 

「お姉さま・・・もしかして性格悪いって言われません?」

「あら雪ちゃん・・・ふふ、思っていても本人に云ってはダメですよ」

私が会話を投げ出したのが悔しいのか、雪ちゃんは軽く頬を膨らませる。

なんとも分かりやすい子だ。

「もう・・・なんでかえちゃんはこんな人がいいのかしら」

ちょっとからかったのがいけなかったのか、雪ちゃんはその後ずっと不機嫌そうだった。

「何故なのかしらね」

雪ちゃんの相手をしていると、ついからかいたくなっちゃうんだよね。

すごく表情にメリハリがあって分かりやすいというか。

「・・・きっと、今は楓子も直感でそう思ってるだけだと思うわ」

「直感って・・・そんないい加減なもので『甘える相手』を決めますか普通・・・」

「それは楓子にしか分からないわね。けれど実際、あの子が私と会った回数はそれほど多くないし・・・他に理由を探すのは難しいわね」

「まあ、かえちゃんは普段からミステリアスだから分からないといえばそれは確かにそうなんですけど」

雪ちゃんは私の推測を認めはしたものの、相変わらず不服そうだ。

ミステリアス、か。楓子は普段から周りに自分の感情を見せないようにしているのかもしれない。

「お姉さまは確か寮でしたよね。私はここで失します」

「ええ、ごきげんよう・・・雪ちゃん」

ぺこりと頭を下げ、割と大股で歩き去っていく。

多分、私のことが気に入らなくて見栄を張っているのかもしれない。

「ふふっ・・・」

きっと、それだけ楓子のことを尊敬しているんだろうけど・・・無理している感がすごくあって逆に可愛いというか。つい微笑ましくなる。


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