第4話エルダー・シスター

 そして放課後。

「エリカさん!」

私はエリカを見つけて呼び止めた。

「あら、伊澄さん。どうかなさいまして?」

「いえ、聞きたいことがあるんですけどよろしいかしら?」

私はさっきの瑞希さんとのやり取りを話してエリカが何を企んでいるか問いただした。

「よしよし、作戦はうまくいっているようね」

ちょっと、ちょっと。

「ねぇ、エリカは一体何をしているの?」

「何って・・・ちょっとクラスの2、3人に伊澄ちゃんの素敵なエピソードを教えてあげただけよ?」

「だけって・・・」

それだけで、どこに行っても物珍しい視線を浴びるはずがない。

「うふふ、女の子っていうのはね噂話が大好きな生き物なのよ。覚えておきなさい?噂には既に大きな尾ひれがついて、伊澄ちゃんが如何に人格的美点に溢れた才女であるか・・・という宇宙的スケールな話にまでなっているわけよ」

エリカは楽しそうにニヤニヤ笑った。

「そんな莫迦な・・・」

『人の口に戸は立てられない』

身をもって感じた瞬間だった。

 

 翌日、私はエリカと千早さんと一緒に屋上にいた。

「そういえば、エルダーっていうのはいったい・・・」

「そっか、伊澄ちゃんは転入生だから知らなかったんだっけ。『エルダーシスター』の略称ね。一番上のお姉様っていうこと」

「エルダーシスター?」

「そう。毎年5月に全校生徒の投票で学園の象徴の一番優れた子を決めるのよ。総数の85%の票を取った子が選ばれるの」

「85%!?それじゃあ決まらなかったらどうするの?」

「毎年だいたい票の譲り合いが行われるのよ。だから決まらないということはないわ」

「でも、それじゃあせっかく票を入れてくれた人に悪いんじゃ・・・」

「自分が推薦した人がさらに推薦した人なのだから不満が出ることはないわ」

「なるほど・・・だったら私は千早さんを推薦しますね!千早さん、いいかしら?」

「あ、伊澄ちゃんっ。千早さまは・・・」

すると、千早さんは暗い表情で口を開いた。

「申し訳ありません。わたくしには・・・その資格はないのです・・・」

「えっ?」

「伊澄ちゃん。千早さまは昨年度のエルダーだったの」

「えっ、昨年の?」

それっていったい・・・。

「わたくし、留年してるんです。昨年は病気で入退院を繰り返してまして、エルダーとしての務めを果たすことができなかったんです」

「あっ・・・そうだったんですね・・・」

だからみんな千早さんのことを『千早さま』って呼んでいたのか。

「わたくしは、伊澄さんこそエルダーに相応しいと思ってます」

「いえ・・・そんなことは・・・」

「まぁ、きっと伊澄ちゃんが選ばれるから当日を楽しみにしててちょうだい」

エリカは何だか楽しそうだ。

私がエルダー・・・・。

そんなことは絶対ないだろうと私は思い込むのだった。


 翌日、私はエリカと一緒に学園に向かった。

すると、道行く女生徒みんなが私を見ている。

「伊澄さん、エルダー選挙頑張ってください!わたくし伊澄さんに投票いたしますわ」

「わたくしもぜひ伊澄さんに1票入れさせてください」

すれ違う人みんながそんなことを言ってくる。

「あ、ありがとうございます・・・」

私は皆さんにお礼を返す。

「伊澄ちゃん、すごい人気だね〜」

「もう・・・エリカのせいじゃないか・・・」

そんな学園への登校風景なのだった。

 

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