第3話祈ちゃんとの出会い
そしてお昼休みになり、教室で注目を浴びていた私は教室を逃げ出しお弁当箱の入った包みを持って中庭を散策していた。
すると、ちょうどいいテラスを見つけた。
そこには一人の少女が座っていて、本を読んでいた。
「ねぇ、ここに座ってもいいかしら」
「えっ・・・はい。どうぞ・・・」
見たところ下級生のようだ。
とりあえず私はお弁当を広げ食べ始める。
「もぐもぐもぐ・・・」
「・・・・・・」
「もぐもぐもぐ・・・きょ、今日のお弁当は美味しいなぁ・・・」
「・・・・・・」
「も、もぐ、もぐもぐもぐ・・・あはは」
な、なんだろう。さっきからこの子本を見ないで私の方ばかり見てる気がする。
ちゃんと女の子らしく食べれているよね?
怪しいところはないと思うけど・・・。
「お弁当気になるの?良かったらあなたも食べる?」
笑顔でお弁当を差し出してみたら、少女は慌てて首を横に振った。
「い、いえ、お申し出は嬉しいのですがお昼はさっきいただきましたので大丈夫です・・・」
少女は何故か視線を彷徨わせ、今気づいたかのように慌てて視線を本に落とした。
けど、明らかに文字を追っている風ではない。
「えっと、私は3年A組の宮村伊澄。あなたは?」
「あっ、私は一ノ瀬祈とーーーすみません、一年B組の一ノ瀬祈と申します・・・」
緊張でちょっと言い間違えて少し落ち込んでしまう祈ちゃん。
うう・・・なんか可愛い。
もっとお話したくなっちゃう。
「ねぇ祈ちゃん、なんの本を読んでいるの?」
「お、お魚の本です・・・」
「お魚?女の子なのにお魚が好きなんて珍しいね。どんなお魚が好きなの?」
「に、日本の沿海ではカサゴが・・・」
「カサゴ?カサゴってどんなお魚?ひょっとして可愛いの?」
名前からは想像できないが、女の子が好きなのだからそうなのだろう。
「ねぇ、良かったら教えてーーーって」
「・・・?」
「ごめんなさい、私ばっか喋ってるわね。読書の邪魔じゃない?」
「い、いえ・・・伊澄お姉様さえよろしければ・・・もっとお話・・・したいです」
「本当!?良かった。じゃあ・・・次は」
それから私はしばらく祈ちゃんと楽しくおしゃべりした。
天気の話とか、庭園の話とか、学園の話とか。
他愛のない会話が中心だったけど、緊張しながら頷く祈ちゃんが可愛くて久しぶりに充実した時間だった。
「あの、伊澄お姉様・・・そろそろ時間が・・・」
「えっ?もうそんな時間?ごめんなさいね、私ばっか一方的に喋っちゃって・・・」
「いえ、私の方こそ相槌ばかりですみません・・・。伊澄お姉様のお話、とても楽しかったです」
「そ、そう?それなら良かったわ。また機会があったら会いましょう。ごきげんよう、祈ちゃん」
「はい、伊澄お姉様・・・」
そして私は教室に向かった。
「伊澄・・・お姉様・・・。あっ、お弁当・・・」
伊澄が去った後、祈が呟いていた。
午後になり、選択授業の教室に向かった。
私は世界史を選択していた。
席に着くと、隣の席の子が話しかけてきた。
「あなたが宮村伊澄さんですわね」
凛とした美少女だった。
「そうですが、えっとあなたは?」
「これは失礼いたしました。わたくし、今年度の生徒会長をしております伊集院瑞希と申します」
「宮村伊澄です。よろしくお願いします」
すると、先生が入ってきた。
「起立、礼、着席」
瑞希さんが号令をかけた。
「噂は聞いていますわよ。伊澄さんは進学校からいらしたそうですね。なぜ世界史を?」
瑞希さんが小声で話しかけてきた。
世界史は日本史と違って履修者が少ない。
「なぜと言われましても・・・しいて言うなら『面白そう』だからでしょうか」
「面白そう?そんな理由で?」
「ええ、どうせ勉強させられるなら面白そうな方がいいじゃないですか。そういう瑞希さんはどうして?」
「そうですね・・・競争相手が少ないからでしょうか」
「ふふ、確かにそうですね。それは思いつきませんでした」
「・・・流石に編入試験をトップでくぐり抜けた方は余裕がおありなんですね」
瑞希さんは急に態度を豹変させた。
これには鈍い私でもあからさまに分かる。
「えっ、いえ・・・そんなことは・・・」
「よろしいのですよ。わたくしなんかとは頭の出来が違うのでしょうから・・・。起立!」
授業が終わり瑞希さんが号令をかける。
何か、私は気にさわることを言ったのだろうか・・・。
「まあ、せいぜいお友達にお願いしてあらぬ噂を広めていただいたらよろしいのです」
「瑞希さん・・・?」
「いいですか、この学園は伝統によって支えられているのです。わたくしには転入したてのあなたがエルダーに推挙されるのを黙って認めるわけにはいかないのです。では、ごきげんよう」
瑞希さんはそう言い残して教室を出て行った。
「お友達・・・あらぬ噂・・・エルダー?何が起こってるんだろう。エリカに聞いてみたほうがよさそうだ」
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