人生やり直しボタンを手に入れたので、死ぬ間際に押します。
ジョー
プロローグ
この世に生を受けて84年。私の人生を一言で表すとしたら、「幸せ」だろう。ありきたりかもしれないが、今、私の周りに集まってくれている子供、そして孫たちを見れば、それは嘘でないことが分かるはずだ。
しかし、この人生にひとつの後悔もないとは言えない。「わが生涯に一片の悔いなし」、そんな言葉は私の人生には程遠い。きっと誰しもがそうなのだろう。思い返してみればいくつもの挫折や失敗を味わってきた。だが、それもまた人生である、というのも真実だと思う。貴重な経験ではあった。
そこでもし、その経験を積んだ状態でもう一度同じ失敗をするか?
答えは否だ。
なぜ私がこれほどに後悔を思い起こしているかというと、「やり直す権利」を持っているからだ。
正直、うろ覚えなのだが、子供のころに神から「人生やり直しボタン」なるものを受け取った。そんな曖昧な記憶で、真偽のほどの分からぬ小さなボタンをこんな老いぼれになるまで取っておいたのは馬鹿だと思うかもしれないが、受け取ったとき、子供ながらに「死ぬ間際に押そう」と決心し、それを貫いたのである。
もう長くないのが自分でわかる。
「みんな……今までありがとう……。」
そう言って、私は静かにボタンを押した。
「――すまない、そっちへ行くのはもう少し後になる。」
消えゆく意識の中、そう妻に詫びた。
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