オレンジペコ
おちさん
episode.1 クッキーと恋心は紅茶の味がする
「あんたの言ってる事、全然理解できない!」
「お前なんかに、純粋な男子高校生の恋心なんか分かるはずないよな、納得」
「何よ、その言い方…私だって女の子なんだからね?」
「ほーう、じゃぁ、お前の考える恋心ってなんだよ」
「つっ…それは、アレよアレ、放課後の下駄箱で急に雨が降ってきて困っていたら男子が傘を差出してくれたの、その男子は笑顔で立ち去ってびしょ濡れになりながら下校していくの、そんな姿を見てキュンとなっちゃう様な?」
「小学生かっ!あと最後がなんで疑問形なんだよ」
「うっ、うるさいわね、それにあんたの言っている事は詭弁なのよ?
自覚してないでしょ?」
「あぁーーー神聖な討論の場で詭弁って言うなーーーあぁーーー」
「あんた、ほんと打たれ弱いわね…」
秋晴れの心地よい風が吹く放課後のひととき、部を新設したばかりで部室がない私達は、この学校の自慢の一つである中世風デザインの円形噴水の前で討論をしていた
学校の自慢は七つあるらしいよ?
「学校の怪談か!」
もう、私がきちんと導入をしているんだから変なツッコミをしないでよ
「なんの話だ」
まぁいいや、二人ともクッキー食べる?
「いただきます」
「いただきます」
クッキーにはやっぱり紅茶だよね、ペットボトルのやつだけど美味しい
「この噴水の石材ってなんなのよ?」
「俺が知るわけ無いだろ、公立なんだから大理石ではないだろ」
「いい石材を使ってる様に見えるけど、いっこさんまんえんくらい?」
「お前はすぐにそうやってお金で価値をはかろうとする」
「うるさいわね、女の子は現実的なのよ?
男子みたいに夢ばかり見て生きてはいけないのよ?」
「なんだそれ、誰の言葉の引用だ、出典を示せよ
あとなんで最後が疑問形なんだよ」
「私の言葉よ、あんたほんと細かいわね、モテないでしょ
女子にも男子にも女子にも?」
「…」
「?」
「…」
図星なんだ、神聖な討論とか熱い事を言ってる割には打たれ弱いんだなぁ
でもなんだろ?
「それよりも部員よ、部員があと二人集まらないと部室も部費ももらえないのよ?
文化祭の準備もそろそろ始めないと間に合わないわよ?」
春に教室で出会った三人が意気投合して始めたこの討論部
芝生の匂いがするグラウンドから始まって梅雨のうっとうしい雨の日にはクーラーの効く視聴覚室に潜り込み先生に怒られ、夏の暑い日は体育館裏の木陰で扇子と団扇とスカートをパタパタ二人の討論を聞きながら、いつも私はクッキーの事を考えていた
明日はどこのお店に行こうかな?
「あんた部長なんだから、ご自慢の主張を展開して人心掌握してみなさいよ?
カリスマよ?」
「いつ俺が部長になったんだよ」
「今よ!いーまっ!
はい書紀、記録をしておいてね?」
「書紀って誰だよ」
はーい、9月23日16時42分、何秒にしておく?
「小学生かっ!」
「そうね、69秒にしておいて」
「そんなの存在しないだろ、しかもなんか卑猥だな」
「卑猥と認識できるということは、知ってるってことよね?ムッツリくん」
「それは男子高校生としては並の知識だよ」
「どこが純粋な男子高校生よ」
あ、今日は私の誕生日だ、ま、いっか
「だから恋心ってなんなのよ?」
あ、戻った
まぁ、いつものことだけど、この二人はどうでもいい事を真面目な顔をして真剣に討論しているよね
会話が弾むのって気の合う証拠だよね、恋人同士みたい…
あれ?
「俺はストレートに気持ちを表現しているだけなんだよ」
「直球勝負とは高校球児らしくていいわね、続けなさいよ」
「相手の事を知りたい理解したい、俺の事も知ってもらいたいし理解もされたい、そうやってお互いに気持や考えを理解し合いたいというのが恋心
気持ちを寄せ合おうとする姿勢を表現しているんだよ」
「詭弁ね」
「あぁーーーだから詭弁って言うなーーーあぁーーー」
「あんた、ちゃんと詭弁に対する反論を用意しておきなさいよ、いつもそこで討論が終わっちゃうじゃない、もっとあんたの事を理解したいのに…
ちゃんと最後まで討論しようよ?」
「お前、もしかして俺のこと好きなのか?あと疑問形」
「うっさい!もう下校の時間よ、私、帰る…」
「おう…」
さて、私も帰ろうかな、なんか安心しちゃったし…
あれ?
「ちょっと待って」
なに?
「これ、サリーのバタークッキー…
お前の誕生日プレゼントにと思ったけど…
今日のお前のクッキーもサリーのバタークッキーだったな…
ごめん、バターまでかぶっちゃって…」
なんでクッキー屋サリーを知っているの?
「あと、ダージリン、お前、紅茶も好きだろ…
ストレートで…
たまにはペットボトルじゃないやつを飲めよ…」
あ…
「じゃぁ、そろそろ俺も帰る、また明日、教室で…」
…
ねぇ、一緒に帰ろ?
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