第57話 最後のクラスチェンジ

 さらに奥に進む。

 黒田は登山道近くにいた。

 そこにいたのは黒田にかしずくゴブリンやオーク。

 そして両膝をついてナイフを手に持った少年少女。

 俺と同年代から20代くらいまでの男女だ。

 黒田は天に手を掲げる。


「我々は世界を救った勇者だ! 普通の人間とは違う! 我々には生きる価値がある! だというのに普通の人間などと言う価値のない連中が作ったルールに我々勇者は弾圧され、抑圧され、この世界に見捨てられた! だが我らには力がある! ミッドガルドを救った力が我々にはある! それが大蛇だ! 今こそ大蛇を復活させ世界の秩序を神話の時代に戻す! たとえ我々が倒れようとも世界中に勇者は存在し、我々の意志を継ぐものが現れる! さあ大蛇で日本を焼き尽くそう!」


 てめえらがミッドガルドで具体的になにをしたんだよ!

 戦争ごっこやってただけだろが!


「アサシンよ。エルフの賢者よ! お前はこちら側の存在だ! なのになぜ邪魔をする!?」


「……違うよ」


 俺が煽ろうとすると陰陽じ……げふんげふん。

 あやしい役所の兄ちゃんが口を開いた。


「僕らの役所じゃ君ら異世界帰りの勇者のことを鬼って呼んでる。そして僕らにとってアサシンは鬼斬りの勇者。僕らにとってはアサシンが勇者だ」


「やはり俺たちと同じ存在がいたのか」


「ああ、神話の怪物に各種伝承……ジェボーダンの獣事件なんかも勇者の仕業だって推測されてる。昭和初期には君らのお仲間が人間の内臓を売買する事件があったよ。当時の政府が処分したがね」


「なぜ把握していながら助けに来なかった?」


「ミッドガルドに渡る方法がなかったからだ。平安時代に隆盛を極めた呪術はとうの昔に失われ、結果を残せぬ我らへの予算は減るばかり。すでにいくつもの家が政変と戦争で潰えた。海外でも同じだね。知ってるかな? 西洋の魔女狩りや歴史上の事件のいくつかも君らのせいで起こったって」


「そうか……では我々は鬼になろう。政府という枠組みを壊し、弱肉強食の世界を作ってやろう! さあやれ!」


 黒田が叫ぶと、ナイフを持った男女が自らの首を掻き切った。


「アサシン! やつら勇者の魔法は人の命と己の欲望をエネルギーにして発動する! 僕や君らみたいに精霊の力を借りるものじゃない。しかも黒田の能力は洗脳だ! やつ自体の戦闘力はたいしたことなかった。だから僕らじゃなく警察に任せてたんだ。でも10万人の命を吸った今の黒田の力がどれほどかわからない! 気を付けて!」


 バリンと音がした。

 自衛隊の人たちが何もない空間を叩いていた。

 俺が手を伸ばすと見えない壁があった。

 障壁!

 ふと横を見るとハヤトと兄ちゃんがいる。

 兄ちゃんも障壁の内側組だ。


「う、嘘。あ、あれ……なんで、僕はそちら側じゃないの?」


 い・き・て。


「やーめーてーッ! 僕の戦闘力はゴミよー! アサシン、君もあきらめないでーッ!」


「だって助ける余裕ないもん!」


 えっへん!


「嫌あああああああああああああああッ! 聞いてない! 託宣で目撃者になれって言われたけど、デッドエンド確定って聞いてないいいいいいいいいッ!」


 そしてそれは起こった。

 テレビで見た大蛇が参道から飛び出してきたのだ。


「あーッ! もーッ! いいかアサシン! 託宣によると攻略法はすでに公開されてるってさ! 来いやこらあああああああぁッ! 雑魚としか戦ったことないけど!」


 そう言うと兄ちゃんがお札を取り出す。

 次の瞬間、炎の大蛇八岐大蛇の口が光った。

 ブレスだ!


「光の精霊よ! 我らを守り給え!」


 ハヤトが障壁を張り、兄ちゃんが札を投げた。

 炎のブレスが障壁に阻まれる。


「無理無理無理無理無理ムーリーッ!」


 兄ちゃんの悲鳴が響く中、俺は考えていた。

 攻略情報の公開。

 たしか……八岐大蛇って……。やってみるか。


「ハヤト! 俺をぶん投げて!」


「どこに!」


「大蛇の口の中」


 粘膜に毒ぶち込んでやるぜ! ヒャッハー!


「前々から思ってたけど……お前バカだろ?」


「いいから! あと黒田ぶっ殺すのは頼んだ!」


 俺はハヤトに持ち上げられる。


「アサシンミサイル!」


 その名前なんとかならんかったのか!

 ぶんっと俺が射出。


「風の精霊よ! 我に風の守護を!」


 風の加護によりスピードを増しながら飛んでいく。

 マッハ超えて人体がバラバラにならないように気を付けながら。


「はッ! バカがいるぜ!」


 黒田の声に一瞬ムカつくがすぐに風で頭が冷える。


「飲み込んでやるよ! 須佐之男さんよおッ!」


 日本神話知ってたか。バカ集団のくせに。


「知ってるか黒田! 俺の得意技は……」


 八岐大蛇の八本の頭。

 その一つが口を開け俺に向かってきた。


「調子にのったクソガキをわからせることだ!」


 地獄よりの使者!

 わからせおじさん!


「アサシン! 竜の血を吸った神剣、天羽々斬あめのはばきりを抜け!」


 兄ちゃんの声が聞こえた。

 ああん?

 俺は言われるままに真穂の剣を抜く。

 剣が黄金色に輝いた。


「もう一振り! 天叢雲あめのむらくもを抜け!」


 今度は関口さんから取り上げた日本刀を抜く。

 こちらも刀身に金色の龍が浮かび上がっていた。


「儀式は成功し神が味方した! 君は神の力を得た!」


 ううううん? もしかして……言ったもん勝ち理論? 言霊との合わせ技?

 海賊版じゃねえか!

 という疑問が解消することはなかった。

 なぜならそれを聞いた瞬間時が止まったから。

 時止め用務員に転生したのかと思ったが違った。

 システムが俺に語りかけた。


『賢者アサシン。最後のクラスチェンジが可能になりました。勇者になりますか?』


 喧嘩売ってんのかてめえ!


『否定します。賢者アサシン。あなたは異世界人に依存して行き詰まっていたミッドガルドに変化をもたらし、いまこの世界を勇者から守ろうとしています。本来の意味での勇者にもっとも近い存在。それがあなたです。神の加護の効果を得るにはクラスチェンジが必要です。断れば大蛇の火に焼かれ苦しみながら死ぬことに……』


「はいはいはいはい! 勇者になりまーす! なればいいんでしょ! なれば!」


 ガッデーム! 拒否権ねえじゃん!

 もういいや! 行くぜー!



『クラスチェンジしました。全属性無効。天羽々斬、天叢雲、両剣に神殺しが解禁されました』



 無銘の剣に名前が宿り神剣に生まれ変わった。

 それと同時に俺の中に力がわき上がった。

 やっぱり言ったもん勝ち理論じゃねえか!

 時が元に戻る。

 大蛇の中に俺は飲み込まれた。

 だが恐怖はなかった。

 頭をいじられてるようでムカついたが、今はプラスに働いている。

 俺は攻略法どおり動くことにした。

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