第6話 【クエスト:村を守れ】開始

 地べたに座って呼吸を整えていると辺りが騒がしくなってくる。


【ミッション:村を守れ 開始。クリア後帰還できます】


 あ、そういうことね。


「ハヤト! ミッションだってよ!」


「俺の方も表示された」


「おっしゃ帰れる!」


「ミッション失敗したら死ぬけどな」


 この世界嫌い。

 俺がむくれていると、白髪の目立つおっさんがやって来た。


「危ないところを救っていただきありがとうございました! 村長のジョンでございます。こちらに井戸がございます。ささ、身を清めてくだされ」


 俺は井戸で水を被って血を落とす。これをちゃんとやらないと病気になる。

 次に槍と剣、鎧まで水で血を落としてから、きれいに拭いて終了。

 このクソファンタジーではちゃんと血を落とさないと金属製品は錆びて使い物にならなくなる。

 血を落として、ちゃんと研ぐ。メンテナンス重要。

 服を干し、村人に借りた服に着替える。

 ふんどしだけは替えを持ってるので自前である。

 これでやっと村長のところに行ける。

 村長の家は大きかった。

 贅沢というわけではなく来客の対応や集会のための会所があるからだろう。

 俺たちは広い部屋に通される。


「このたびは誠にありがとうございます。幸いにも回復魔法のおかげで死人も出ずにすみました。なんと御礼を言っていいものか……」


「いや、当然のことをしたまで」


 ハヤトが交渉を開始した。

 神官と思われているせいか権威がある。俺は黙っていた方がいいだろう。

 ゴールは報酬じゃなくて数日間の滞在権だろう。

 武力を持ったよそ者なんて村に置きたくないだろうしな。交渉大事。


「そうですか。それでは獲物の取り分についてですが……」


「それなのですが、我々は現在薬草の採取を命じられておりまして。クマの肉はそちらで処分していただいて結構ですので、数日間ほど滞在の許可を頂ければと」


 200キロ以上はあるクマの肉だ。

 俺たちが数日滞在するには充分な対価だ。

 おつりは信用を買ったと思えばいい。


「左様でございますか。そうですな……この村には宿がございませんので、ご滞在はこの部屋になりますが……」


「ありがとうございます。ご迷惑はおかけしませんので安心してください。それではよろしくお願いします」


「こちらこそ。あとで食事をお持ちいたします」


 そう言うと村長は出て行った。

 礼を言い損なった。コミュ症つらい。


「それで、ハヤト先生どうする?」


「こういうのは夜になりゃわかるだろ。RPG的に。とりあえず寝ておけ」


 なにして暇を潰そうか……。


 結局ふて寝してたら夜になった。

 遠くの森でフクロウの鳴く声が聞こえる。

 鎧戸から外を見るが暗すぎてなにもわからない。

 ダンジョンでも闇は恐ろしかった。

 闇の中では襲撃者が圧倒的に有利なのだ。


「静かだな……」


「シュウ、夜目のスキルは持ってるか?」


「あるぞい。レベル1だけどな。こんなの役に立つのかよ」


「役に立たなきゃ死ぬ。索敵してみろ」


 ぶんっとセンサーが働く。

 やはりスキルの使い方は頭の中に入っている。

 自転車に乗るのと同じだ。脳の処理がどうなっているかはわからないができる。

 緑色で表示された住民の姿が見えた。

 赤は……ある。村の裏手で様子をうかがっている。


「もう来てるじゃん!」


「おまえシーフだろ、なら【隠れる】とかのスキルはないか?」


「あるよ。【隠形】」


「じゃあ、そいつ使って捕まえてこい」


「ういーっす」


 人使いが荒い。だが、的確である。

 ハヤトじゃどうやったってバレるからな。

 あいつの戦闘、ガ●ダムの戦闘シーンみたいな音するし。野蛮人ってやーね。

 村長に「不審者がいるから見てくる」と断ってから外に出る。

 外に出ると徐々に周りが見えるようになる。夜目の効果のようだ。

【忍び足】のスキルも発動。足音が消える。

 さらに【隠形】で目視が難しくなる。

 これ、暗殺者とか忍者じゃね?


【通常なら暗殺者はレベル25、【忍者】はレベル40で解放されます】


 へー、上級職なのね。

【通常】ってわざわざ言うのだから、裏技ありと。

 村の外れの林に到着すると明滅する松明が見えてくる。

 男二人がしゃべっていた。


「えー、皆殺しッスか」


「捕まったら死罪になるからな。しかたねえよ」


 斥候のつもりだろうか?

 それにしては目立つ。

 俺は二人に近づくと、弱そうな方の肩を叩く。


「あん?」


 振り向いた瞬間にアゴを拳で打ち抜く。

 男は白目を剥いて前のめりに倒れた。

 はいノックアウト。

 もう一人が振り向く前に背後から腕を首に回し絞める。

 俺が使っている武術は、元は拉致された日本人が新人に教えていた柔道由来という話だ。

 そこにあとから空手や合気道やら日本拳法、それに古流柔術やらの使い手が混ぜていった。

 流派名は、ない。ミッドガルドの連中は【ニホン】と勝手に呼んでいる。

 異世界に拉致された日本人の生存期間が最大2年くらいなので流派としての組織も長も流動的。

 あえて言えば、俺たちの師匠が日本人のために互助会【ニホン】を作ったくらいだ。

 技術は生存している被害者によってコロコロ変わるし、メイスや棒術は使える人がいなければ習うことはできない。

 俺たちの師匠も剣術と柔術は詳しいが、じょうこんの使い方は知らなかった。

 槍や薙刀、杖や棍などの剣以外の武器は日本でも習える場所はそう多くないのだ。

 せめて警察官がいれば警棒術を習うことができたのだろうけど、俺たちが拉致される直前に死亡。

 だから俺たちは徒手格闘と剣を習ったのだ。

 この絞め技も総合格闘技由来だ。ゆえに洗練されている。

 頚動脈を圧迫し脳への酸素供給を阻害する。

 数秒でカクンと抵抗していた男の手から力がなくなる。

 殺してないよ。落としただけ。


 男が目覚める。

 監禁場所は倉庫。

 周りには鎌や斧を持った村の男たち。

 盗賊と思われる男二人の表情が絶望に染まった。

 村長は棒で一発殴ってから口に噛ませていた布を取った。

 なお全国的な警察組織がないこの世界では犯罪者への集団リンチは合法である。


「てめえ! 俺のバックには100人の味方が!」


 ごんっと村長が無言で頭を叩く。

 なぜバカの台詞はどの世界でも共通なのだろうか?


「こりゃダメだわ。どうするよハヤト?」


「そうだな。村長、一人逃がしてやれ」


 そう言うとハヤトは俺に剣を投げ渡す。


「ゴブリン狩りだ。あとはわかるな?」


「へいへい」


 生返事をすると俺は剣を抜いて、頭の悪そうな方の肩に突き刺した。


「ぎゃッ!」


 男が叫ぶ。

 ゴブリン狩りの基本。

 まず一匹見つけて半殺し。巣に逃げ帰るので後をつけて皆殺し。以上。

 男を拘束しているロープを切って襟をつかむ。

 そのまま外に放り出し、背中に蹴りを入れた。

 四つん這いになって逃げるその尻に剣を突き刺す。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 俺が男から離れると棒を持った村人たちが滅多打ちにする。

 なお、もう一度言うがこの世界では完全に合法である。


「殺すなよ」


 そう言うと村人たちはうなずいた。

 死なない程度にボコボコにすると村人たちの用意も整っていた。

 男衆が斧や脱穀用の穀竿を持って集まる。

 盗賊狩りのはじまりだ。


「では神官様、戦士様参りましょう」


 シーフなのに戦士扱い。ま、いいか。

 俺が先行して襲撃、ハヤトと松明を持った村人があとから来る予定だ。

 俺は村でもらった弓を背負って男を追って林を進む。

 林が森に変わり、闇が深くなる。

 男は足を引きずりながら進む。

 森を進むと明かりが見えてくる。

 盗賊のキャンプだ。

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