ss バレンタイン

 2月14日と言えばバレンタインデーである。それは誰もが知る所だ、好きな人にチョコを渡して想いを伝える。友チョコなどと言う概念も有ったりもするが、やはり意識をしてしまうのが想い人にチョコを渡すという事だ。



 日辻千冬、日辻千秋、日辻千夏、日辻千春もクラスの友達や、魁人に渡そうと2月14日の一週間前から準備をしていた。



「おー、我は手作りチョコをあげようと思っている。カカオから作る奴だな」

「いや、無理でしょ。アンタじゃ」



 千秋はカカオから作ると言っているがそれを千夏が無理だと一瞥する。


「いや、我ならカカオ栽培から始められる」

「尚、無理でしょうね。知識とか無いし」

「愛があれば……ワンチャンある」

「ないわね。愛があってもカカオは一週間じゃ無理でしょ。絶対種から眼すら出ない」

「確かに、クク、ならば我の真の力で――」

「もう、付き合ってられないわ。冬はどうするの?」

「あ、我一人じゃ、このノリ寂しいぞ……」



 千夏が千秋を無視して、千冬に話を振り始める。それを見て千秋は一人で厨二ロールプレイをするのが寂しくなってしまった。


「千冬は普通に、市販のチョコレートを溶かして手作りにしようかなって思うっス。それが限界というか、流石にカカオからは無理では」

「そうよね、カカオからは無理よね」

「いや、我の真の力を――」

「春はどうするの?」

「だから、このノリを一人でやるのは寂しいから、乗ってくれないと我寂しい……」



 無慈悲に千夏は千秋を無視して、千春に呼びかけた。千春はニッコリと笑顔をしながら、とある本を取り出す。



「三人に生チョコを作ることにしたよ」

「春って卵割るのがギリだけど、大丈夫なの?」

「お兄さんに手伝ってもらうから大丈夫かなって」

「えぇー、一番感謝しない人に手伝わせてどうするのよ」



 千春は愛する妹達に自身の手作りチョコを渡すようにした。しかし、千夏からすると魁人にまずは渡すべきではないかと思ってしまったらしい。



「私は自分で作るわ……まぁ、材料は魁人に買って貰わないといけないけど。子供だし」

「千冬もそうなるっス」

「我はね! カカオから――」

「――うちもそうなるかな」



 千秋だけ目指すハードルが高すぎるが取りあえず、チョコを渡すプランをそれぞれ考え始めていた。一方で魁人も何か作ってあげたりした方が良いんだろうなと彼は彼なりに考えも居た。




◆◆



 魁人と千春、千秋は買い物に近所のスーパーに向かっていた。千夏と千冬は家で留守番をすることにした。



「カイトカイト! 我カイトにチョコレートあげる!」

「それはありがとな」

「だから、一緒に材料を買おう! 近くのスーパーならチョコが安く買える! 本当はカカオから育てて作りたかったけど、千夏がやめておけって言うから我我慢した! 我偉い!?」

「偉い偉い」

「そうだろう、そうだろう!」



 千秋は腕を組みながら自分で自分を称えていた。我偉い、と何度もつぶやきながらスーパーに入って行く。



「千春が迷子にならないように我が、手を握ってあげる!」

「ありがと……本当に心配なのは千秋の方だけど」



 千春と千秋が手を繋いで魁人は二人の前を歩きながら、買い物カートにカゴを入れて押す。



「あ、夕飯の材料も買わないと」

「我、ハンバーグ食べたい」

「うちはピーマンの肉詰めかな」

「……じゃー、ピーマンの肉詰めにするか」

「えぇ! 我より千春を優先するのか!」

「余ったタネでつくねバーグ作るからな」

「うむ、ならよろしい」


 

 野菜をカゴに入れたり、豆腐を入れたり、肉を入れたり、一通りを入れ終わる。


「カイト、このヨーグルトも勝った方が良いぞ。最近話題の奴だ」

「腸内環境も気にしていった方が良い年齢かもなぁ。まだ20代前半だけど……」

「お兄さんには長生きしてほしいから食べて欲しいかな」

「千春に同意」

「……千冬も千夏も千秋も千春も長生きしてほしいから全員分買うか」

「おおー、お兄さん太っ腹」

「おおー、我に二百歳まで生きるから」



 おおー、掛け声を上げる二人の様子が凄く似ていると思った魁人はふっと、笑いながら歩き続けた。



「この板チョコを溶かして美味しいのを魁人に作るからな! あとは学校で友チョコ交換する、我はメアリと交換する」

「楽しみにしてる。俺も千秋に作るからな」

「我も楽しみ! ホワイトデーも凄く楽しみ!」

「あ、そっか。二重でお返しをするのが確定してるのか。千春はどうするんだ?」

「うちも同じように板チョコを溶かして、割と簡単に作ろうかな」

「そっか……台所を破壊しないでくれよ」

「……しない」



 ちょっと冗談で魁人が料理ベタな事を言うと、千春は眼を鋭くして魁人を睨んだ。ちょっとからかい過ぎたなと思いながら、知らんぷりをする事にした。


 板チョコやスプレーチョコをカゴの中に入れていく。



「あ、これ千夏が欲しいって言っていたお菓子だ」

「そうなのか」

「うん、しょうがないから買ってあげよう、うん」

「……本当に千夏が欲しいって言ってたんだよな?」

「うん!」



 サクサクチョコクッキーもついでに購入をする事に決定した。会計を済ませて車まで購入した品物を運ぶ。


 すると


「あ、千夏そう言えばダイエット中だった。我が代わりにクッキーを食べて上げなくては!」

「それはしょうがないな」

「うん、しょうがない」



 むしゃむしゃ千秋はクッキーを開けて食べ始めた。最初から自分で食べるつもりだったのだろうなぁと千春も魁人も分かっていた。



 だしに使われた千夏が可哀そうだった。




◆◆



 2月14日前日、その深夜。千春と魁人はこっそり台所でチョコ作りに勤しんでいた。


「お兄さん、料理ベタってことがバレてしまうとうちの姉としての尊厳が消えてしまうから、このことはあんまり風潮しないようにね……」

「あ、はい」



 チョコを溶かして混ぜながら魁人にそう彼女は言い放つ。グルグルチョコをかき混ぜる千春だが不器用なためにチョコが飛び散っている。



「不器用だな」

「まぁね……不器用な女の子は嫌い?」

「好きも嫌いもないな」

「そこは多分、プラスに言い変えて和む所」

「へぇ……不器用な千春も可愛いぞ」

「本心からじゃなさそうだから、あんま嬉しくない」



 じゃ、どうすればいいんだよ、女心はよく分からん。という感想を抱いた。そのまま時間は進み、生チョコが完成した。レシピは簡易だったが千春が、チョコをひっくり返したり、納得いかずに作り直したりして時間がかかった。



 しかし、時間がかかったおかげでかなり良い形にまとまっていた。



「すごい、よくできてるじゃないか」

「まぁね、これでなんとか今年も威厳を保てそう」



 千夏、千秋、千冬に渡すためにそれぞれラッピングを開始する。それも時間が少々かかったが無事に終了した。


「……じゃ、はい」



 妹に渡すと言っていたがラッピングの数は四つだ。その内の一つを魁人に彼女は渡した。



「お世話になってるから……友チョコ? になるのかな? でも友達じゃないし。お兄さんチョコってことで」

「ありがとう。大分、手こずっていたからな。ありがたく食べるよ」

「お返しは四倍返しでお願い」

「四十倍で返すか」

「いいよ、そんなには……まぁ、貰えるなら貰っておくけど。じゃ四十倍返し、期待してる」



 クスクスと二人で笑い合っていると深夜を回り、2月14日になっていた。















――――――――――――――――――――――――


いつもお世話になってます。皆さんの応援のおかげで好きラノで新作二位になることができました。


続刊とかは厳しいとは思うのですが、皆さんの応援の力を感じて、諦めずに頑張り続けようと思いました!


9月に『このラノ』と言う人気投票があるので、それまでに更新を頑張って完結を目指します!!


また、他作品が人気になればチャンスも増えるので、もしよかったら見て頂ければ幸いです!


それでは、いつもありがとうござます!


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