第5話 お風呂
『響け恋心』と言うゲームを語るうえで欠かせないのがヒロイン達の特徴ともいえる、超能力である。全ての始まりであり、同時に歪みでもあり、最後には希望。
主人公が所沢市中央女子高校に入学して、ヒロインと恋に落ちる。その過程で明らかになる超能力。
超能力者とはその名の通り、超能力が使えると言うものだが中々に独創的な能力もある。
千春は単純に氷結、何でも凍らせたり氷を生み出したりできる。この世界は別に悪の科学者とか居ないし、謎の能力者集団、謎の生命体などは一切出てこないからバトル描写なんてない。だが、もしバトルがあったらと仮定すれば彼女が一番強力な能力を持って言えると断言できる。
何でも凍らせる。単純にとんでもないものだ。だからこそ彼女の両親は恐れて遠ざけた。そして、それを親族に話し化け物だと話したのだ。
人は幽霊とか妖怪などの未知を恐れると言うがそれは正しく本当なのだろう。彼女が能力が目覚めた時から両親は一切面倒見ずに遠ざけ続け、挙句の果てには殺そうともしたのだから。
こういう事を思うのは悪い事なのかもしれないが彼女達の親としてクズだ。面倒も見ずに軟禁のような事をして殺そうともするとは胸糞にもほどがあるとゲームをプレイしているときも感じていた。
その後も高校に入学するまでは各地の地方などを転々とするときも胸糞。親族たちからも居ない者扱い。
それを変える為に引き取ったのに何だか彼女達四人の心が安らいでいない気がする。
どうしたものか。先ほど手軽にできるお昼を渡したがあの程度では足りなかっただろうか。心置きなくこの家で過ごすにはある程度の俺の信頼、好感度と言っても良いかもしれないがそれが必要だろう。だから三女の千秋の好物のグミもさり気なく添えていたのだが……
ゲームとかだと好物とかをプレゼントとしてあげると無条件に信頼、好感度が上がるがここはゲームではないからそういうのはないのかもしれない。
うーん、どうしよう。やっぱりまだ小学生だからレクリエーションしたら楽しくなって俺の事を信頼しないかな?
『俺と一緒にレクリエーションしようぜ!』
『『『『お巡りさんこいつです』』』』
ダメだ。21歳が小学生で10歳の四姉妹たちとレクリエーションはどう考えてもアウトだ。あ、お風呂ならどうだ?
日本の伝統、お風呂で湯船に浸かれば安心感を得て気軽に楽しくこの家で過ごせるんじゃないか?
『お風呂湧いたから四人ではいれよ』
これも、何か癖があるな。これくらいなら大丈夫だろうと一瞬思ったが絵面見るとなんか危ない感じがする。
不干渉は……それは引き取った身としてできないし。どうしよう。
俺が頭を抱えて考えているとリビングのドアが開く。そこにはお結びやおかずが乗っていたお皿とトレイを持った千春が居た。
「ごちそうさまでした。お兄さん」
「お粗末様。どう? 美味しかった?」
「はい、とっても」
「それは良かった」
「この食器、うちに洗わせてください」
「いや、大丈夫。俺が洗うから」
「でも、ご馳走になったのに」
「大丈夫。気にしないで」
俺は彼女からお皿を預かり洗面台に向かう。水を流してスポンジで洗る。ふと彼女が気になり視線を向けると彼女はおろおろして落ち着かない様子。そうか、洗い物任せて勝手に部屋に戻るのは忍びないのか。と俺は察した。
「部屋に戻っていいよ? ここじゃ、落ち着かないだろうし」
「あ、いや、そんなこと」
「大丈夫、気にしないで戻っていいよ」
「あ、ありがとうございます」
彼女は一礼して部屋を出て行った。良い子だな。本当にいい子。でも、俺はやっぱりギャルな感じの話し方を推したい。
まぁ、彼女に強制をするつもりもないが。ある程度心を開いてくれればそう言うときも来るだろう。いつになるかは分からないけど。
彼女は普通に憧れているから普通通りに生活してほしい。長女として責任感を感じるのは彼女の美徳とも言えるがそれは負担もかかっている。ありのままで少しでも生活できるようになって欲しいと常々願う。
願っているうちに洗い物が終了した。
そう簡単に心は開いてくれないのは分かっている。不用意に関わってもダメだろう。俺はソファに座り暫くはどのように接するべきか考えることにした。
◆◆
「我、お風呂入りたい」
昼食を食べ、一息を付いたうち達。この家の床が綺麗で良い色をしていると言う話をしていると唐突に千秋が話を変える。
「秋……アンタ相変わらず話が急ね……」
「だって外は熱いし、ここまで来るのに汗かいたし、べたついて気持ち悪い」
「まぁ、秋姉の言う事も分からなくはないっス。でも、それを言うのはちょっと気が引ける感じが……」
「いや、でもあんなにご馳走してくれたし、良い奴そうだし、グミくれたし、お風呂くらい入らせてくれんじゃないかと我思う」
今の季節は夏。太陽の日照りは強く気温も高い。千秋の言う通りここに来るまでに相当汗もかいた。うちも実を言うとお風呂入りたいと思っている。だが、千冬の言う通りお風呂入りたいと言うのが躊躇われると言うのも分かる。
だが、さらに千秋の言う通り親切なお兄さんがお風呂入らせてくれると言うのも分かる。
「でも、それで機嫌損ねられたらとんでもないわ」
だが、さらに千夏の言う事も分かる。うちの妹達言う事全部分かってどうしようもない。
「いや、行ける!」
「その根拠は何処にあるのよ?」
「グミくれたから!」
「根拠に説得力がなさすぎる……」
千夏は頭を抱えて根拠の無さを嘆く。反対に千秋は目をキラキラさせている。彼女からしたら
「ご飯もくれて、引き取ってもくれた。多分あの男は良い奴で懐も大きいはず、だからお風呂も入れてくれるはずだ」
「……その理由なら多少根拠に思えなくもないわね」
「でしょ!? でしょ!? じゃあ……千夏、後はよろしく……」
「はぁ!? 何で私!?」
「我は、あれだから、秘密兵器だから」
「意味わかんない! 秋が発案者なんだから秋が行きなさい!」
「だが、断る」
千秋はお兄さんを信じ始めてはいるが自分から話したり頼んだりするのはまだ抵抗があるようだ。千夏は何とも言えないし、信じられないけど千秋が信じるなら多少は信てよい、だがだからと言って直接話すのは躊躇われると言う心境だろう。
「うちが行くよ、お姉ちゃんだし」
「じゃあ、千冬も一緒に行くっス」
「え? いいよ、うちが……」
「春姉だけに負担かけられないっスから」
「でも」
「偶には千冬も頑張るっスよ」
千冬は親指を立てて笑顔でサムズアップしてきた。何て可愛い子に愛らしいのだろう。恐らく芸能界に入れてしまえば子役タレントの仕事を世紀の大泥棒のように盗ってしまうこと間違いない。そして、そのまま大スターになってしまう。この子と同じ時代に生まれてきた子役タレントたちが少し可哀そうに思えてならない。
この子には無限の選択肢がある。その選択ができるようになるなら、自由に羽ばたけるようになれのであればこの子の為ならうちは何でもできると本気で思った。
「ふ、二人が行くなら我も行くぞ……特別に」
「ちょ、それじゃ、私が一人になっちゃうじゃない! だ、だったら私も行く」
二人より、三人、三人より、四人。皆がうちを支えてくれるのが嬉しい。うちも皆を引っ張ってあげないと……
「じゃ、うちが先頭で行くよ」
部屋から出て下の階に降りていく。そして下の階のリビングに入るとお兄さんがソファに座って難しい顔をしていた。
お兄さんはうち達に気づくと顔にぎこちない笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
「あ、あの、」
うちが言い淀み何とも言えない空気が場を支配する。千冬も後ろにいる千夏も千秋も緊張でどう言葉を使えばいいのか分からない。
失礼なく、頼み事。それは非常に難しいのだと思った。お兄さんはうち達が頼みづらいのが分かるとお兄さんから色々聞いてくれた
「お菓子、食べたいの?」
「違います……」
「あ、それは食べたい……」
うちが否定するが後ろでコッソリと千秋がお菓子食べたいアピールをする。
「じゃ、テレビか?」
「違います……」
「あ、でもお猿のジョニー見たいかも……」
後ろで千秋が好きなアニメを見たいとコッソリアピールする。うちの陰に隠れてはいるが意外と千秋が一番この中でお兄さんに心を許しているのかもしれない。
「もしかして……お風呂か?」
「は、はい」
「そうか……それくらい、もっと堂々と言えばいいのに。沸かすからちょっと待ってて」
お兄さんは部屋を出て行った。あっさりと頼み事が成功してホッと全員が一息をつく。
「ちょっと、秋ッ。アンタ後ろでごちゃごちゃ五月蠅いのよ」
「だって……食べたいし、見たいし」
「私だって、堅あげロングポテトとか食べたいわよ。クッキングスーパーアイドルとか見たいの。でも、我慢してんの」
「いいじゃん、頼み聞いてくれそうだし」
「それで気分害されたらどうするのよ」
千夏と千秋が小声で喧嘩を始める。膨れた顔してそっぽを向く千秋に千夏が詰め寄る。
「お風呂入れてくれるみたいだし、良いじゃないっスか。もう、その辺にしとくっス」
「もし、我がお菓子貰っても千夏にはあげないから」
「いらないし」
「喧嘩はダメだよ。二人共」
小声だが喧嘩を止めない二人。あっかんべぇをする千秋をみて顔が徐々に赤くなっていく千夏。可愛くて一時間耐久で見たいけどこれ以上騒がれると大変なことになりそうだから流石に仲裁に入る。二人の間に無理に体を入れてそこで喧嘩を強制中断。
二人は互いにそっぽを向きっぱなしだが偶に千秋が千夏の方を向いて再びあっかんべぇをする。
千夏がそれに気づくがそれを千冬が宥めて何とか喧嘩を完全に鎮火することが出来た。そこでお兄さんが戻ってきて再びぎこちない笑顔を浮かべる。
「お風呂湧いたからどうぞ、脱衣所はあっちね」
「ありがとうございます。お兄さん」
「どうも……」
「と、特別に我が眷属に……してやらんでもない、ない……ないですよ?」
「ありがたく入らせてもらうっス……」
お礼を言って逃げるように脱衣所に向かう。服を脱いだけどこれはどうすればいいんだろう。洗濯機に入れて良いのだろうか? でも、それだと洗濯しろよって言っている感じがするし。
千夏はツインテールを解いて、髪をかき上げてそのまま服を脱ぐ。千秋も千冬も服を脱ぐがそこで動きが止まる。
「これ、洗濯機入れて良いんスかね?」
「いいじゃないか? 我入れる」
「ああ、もう、この遠慮無し」
千秋が服を投げ入れてお風呂に入って行く。うちはすかさず洗濯機から千秋の服を取り裏返しになっている靴下とズボン、上着を整える。
「ねぇ、洗濯機入れて良いと思う?」
「……千冬は良いと思うっス。もう、何か信用できる気がするっス」
千冬も服を入れてお風呂に入る。ただ、千夏は固まって動けない。
「千夏、どうしようか?」
「……千春はどうする?」
「……うーん、でもお兄さん良い人そうだし」
「上っ面は……そうね」
「……難しいね。人を信じるって」
「私達の場合は特にね」
千夏の顔は複雑そのものだった。信じたい気持ちと信じらない気持ち。人から遠ざけられ続けた経験はそう簡単には消えない。彼女一人では決してその記憶から解放はされない。
「……よし、千秋と千冬が服入れたし、うちらも入ろう」
「良いの?」
「うん、良いと思う。もし何かあってもみんな一緒。それで勇気が湧いてこない?」
「……うん」
千夏は脱いだ服を洗濯機に入れた。それを直ぐにうちは取り出す。
「あ、下着重なってる。靴下も裏っ返しだから直さないと……」
「あ、なんかごめん」
服を洗濯機に入れてお風呂に入ると千冬が千秋を頭を洗ってあげていた。
「痒い所は無いっスか?」
「ないぞ」
「流石千冬。四女なのに……お姉ちゃんみたいに見える」
「秋が幼過ぎるからじゃない?」
「おい、聞こえてるぞ」
体を洗いっこしたり、髪を洗いっこして浴槽入る。湯気が立ち昇りお湯につかると疲れが取れる気がした。
「ああ、ラーメンが食べたい」
「相変わらずの食いしん坊ね」
「だって、食べたいんだもん。千夏は食べたい物の無いのか?」
「ナポリタン」
千夏と千秋が話しているのを眺めているとコッソリ耳打ちで千冬が話しかけてくる。
「春姉」
「どうしたの?」
「あの人の事どう思っスか?」
「良い人……?」
「まぁ、千冬もそう思ってるっスけど……その、それで、これからお世話になる人にこんな事思うのあれなんスけど……」
「うん?」
「あの人、ロリ……」
「それ以上はダメだよ。考えちゃダメだよ」
「でも、十歳四姉妹を引き取るって……ぺ、ペド……」
「だから、メッだよ」
「でもでも、考えちゃうっス。この千冬たちが入ったお湯とか変な事に使うとか……」
「本当にやめようか?」
千冬は意外と博識だから変な知識がある。お兄さんの事が良い人だと分かっても、もしかして変態なのではと言う疑問が湧いてしまうのだろう。良い人と変態はイコールになる場合もあると考えてしまうだろう。
「この、お湯……大丈夫っスかね?」
「もう、お湯は良いから。千冬は疲れてるんだよ、このお湯で疲れを取って?」
「う、うん……確かにそうかもしれないっス。ご、ごめんなさい、春姉」
「分かればいいよ」
千冬が自身を反省して湯船にゆっくりつかる。うちも浸かって疲れをとっていると隣の話し声が聞こえる。
「あのテレビでこの間放送されたラーメン屋さん。お湯に豚骨入れて何時間も煮込むらしいぞ」
「美味しそね、良い出汁が出て」
「秋姉と夏姉……その話やめてもらっていいスか?」
「え? 何でだ?」
「何でもっス。可愛い妹の頼みを聞いて欲しいっス」
「ああ、うん。分かったぞ」
「どうしたの? 冬? 頭抱えちゃって」
千冬が何を考えているのか分からないが頭を抱えている。この子の賢い所は良いことだけど変な知識も持ってるからそれはそれで問題かもしれない。
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