第4話 姉妹会議

 うちは日辻千春。日辻家四姉妹の長女である。うち達四姉妹はお兄さん用意をしてもらった二階の部屋で足を崩して床に座っている。案内された部屋は布団が四枚ほどたたんで置いてあり、それ以外には目立った物はないが開放感にうち達四姉妹は包まれていた。


「ふっ、我の名演技によりこの家になんなく忍び込めたな」

「何言ってんのよ。ビビッてずっと後ろに隠れてたくせに」

「は、はぁ? ビビッてねぇし! あれ、実は実力がある主人公ムーブだし!」

「嘘つけ」



 四姉妹の中のビビりの千夏と千秋がいきなり喧嘩を始めてしまう。喧嘩を見ながらふと思う。どうしてうちの妹たちはこんなにも可愛いのかと。こんなに可愛い子は全世界でも確実に五本の指に入るほどの可愛さだ。永遠に見ていたけど。下にはお兄さんが居るから騒いだら迷惑かもしれない。


「二人共喧嘩はダメだよ」

「我は喧嘩してないし、千夏が一人でしてるだけだし」

「はぁ? 秋が一人で喧嘩してんじゃん」



 二人が顔を近づけてメンチを切る。これも可愛い、うちの妹がこんなに可愛いなんて……うちの妹達は毎秒事に可愛いさの最高値を更新する。


「ちょっと、ちょっと流石にそこまでにしとくっすよ。夏姉なつねぇ秋姉あきねぇも。折角心休まる所に住めることになったんスから」

「うぐっ、ま、まぁそうだな。今は我が引いてやろう」

「……そうね。私もほどほどにしとくわ。変に騒いで出てけなんて言われるだけは避けないとね」

「その通りっすよ」



流石四女の千冬。しっかり者である。硬式プロテニスプレイヤーの体幹よりしっかりしてる。流石うちの自慢の妹。


うちの人生で数少ない幸運はこんな素晴らしい妹に出会えた事であるのだと思う。



「でも……確かにこの家自体は良いけどアイツは本当に安心できるやつかしら?」

「悪の科学者的な感じか!?」

「バカの秋は放っておくとして、冬はどう思う?」

「うーん、そこに関しては何とも……でも、悪い人って感じはしないスけど」

「冬はそう思うのね……でも、絶対に心は許しちゃダメよ。いつ、誰が私達を殺そうとするなんてわからないんだから」



……そうだよね。あのことはそう簡単に忘れられないよね。千夏の言葉に千秋も千冬も僅かに顔を暗くする。


 特に千夏は一番……



 全員の空気が重くなり始めるとそれを何とか軽くしようと千秋が急に声を上げる。



「何か、お腹空いた」

「はぁ!? この空気でそれ言う!?」

「だって、空いたんだもん」

「だもんって、子供か!」

「子供だよ」

「あ、そっか」

「そうだ」



先程の会話とは脈略もない、さらに全く関係もない千秋の発言に思わずツッコミを入れてしまう千夏。だが、ツッコミが少々外れたようで逆に千夏が千秋にツッコミをされる。




千秋は素で変な事を言ったりすることもあるが、雰囲気が悪くならない様に敢えて場の雰囲気を崩すようなことを言う事もある。彼女が居なければ今、うち達は笑っていないかもしれない。


「千冬もお腹空いたっス。朝から何も食べずここに来たから……」

「そうだね。もう、お昼の時間だし……うちがお兄さんに何か食べさせてもらえないか聞いてくるよ」

「じゃ、千冬も一緒に行くっス」

「大丈夫、一人で行くから三人は休んでて。うちはお姉ちゃんだから一人で行ける」

「そうか、何かあったら我を呼べ、我が邪眼の力でものの数秒で駆けつけてやろう」

「同じ家に居るんだから使わなくても数秒で行けるじゃない。と言うかそもそも秋にそんな力ないし」



三人はまだこの家に慣れてない。お兄さんとの接することにも慣れてない。ここまで来るのに疲れてもいるはず。


だから、休ませてあげないと。



「じゃあ、行ってくる。良い子にして待ってて」



部屋を出て階段を下りる。お兄さんの所に向かいながらこの家の内装を眺める。白を基調としている。汚れが僅かにはあるがそれでも掃除が行き届いている。お兄さんが綺麗好きだと分かる。



リビングのドアを開けるところで、僅かに体が止まる。ご飯を食べたいと言って不機嫌になられたらどうしよう。我儘な子供だと思われたりしたらどうしよう。そのまま追い出されたらどうしよう。


あの人はそんな人ではないのではな気がするけど、急に気が変わることもあるかもしれないし……


体が止まり考えているとリビングからお兄さんが出てきた。お兄さんの手にはトレイがある、トレイの上にはおにぎりが八個。卵焼きやウインナーもお皿にもってありさらにはデザートのグミまで置いてある。



「あ、お腹空いてるよね。今、持っていこうと思ってたんだ。これ、食べて」

「あ、ありがとうございます」

「気にしなくていいよ」


お兄さんはふらっとリビングに戻って行った。トレイを渡された。至れり尽くせり、こんな良くされたの記憶に殆どない。あの人が悪い人ではない事は流石に分かったけど親切すぎるような……もしかして、噂に聞く……ロリ、コ……ペド……いや、でも、そんな事を考えてしまうのは失礼ではないだろうか。



でも、四姉妹小学生を引き取って育てるなんて普通はしない。やっぱり、ロリ、コ、ペド、本当にこれ以上はいけないと思い頭を空っぽにして三人の待つ部屋に戻る。



「うわぁぁ、おにぎりだぁぁ! 卵焼きとウインナーも、グミもあるぅぅ!!」


千秋が早速目をキラキラさせて涎を垂らす。


「……待遇良すぎじゃないかしら?」

「うちもそう思ったけど素直に貰っておこう?」

「……そうね」


千夏はお兄さんの好待遇に疑惑が尽きないようで。



「美味しそうっスね。かなりの好待遇はありがたいっすけど……もしかして、ペド……ロリ、コ……いや、何でもないっス」



千冬は何かを言いかけるが口を閉じた。そのままおにぎりに三人は手を伸ばす。


「コメが我の口の中で、踊っているぞ……こんな美味しい料理久しぶりだ……」

「……確かにね」

「この卵焼きも美味いっス……」



 うちもおにぎりに手を伸ばす。三角に纏まっている白いコメ。本当に誰かに作ってもらって食べるのは久しぶりだ。そのままおにぎりに被りつく。その時、過去が少しフラッシュバックした。


 何もしてくれない。遠ざける両親。


 寂しくて泣いてしまう妹達。寒くて、お腹が空いて、只管に寂しくて寒い毎日。普通に生活できるのであればどれだけ良かったか。そう、何度も思った。自分が普通とは程遠い事は分かっている。でも、それでも願わずにいられない。



 普通のご飯と愛情が欲しいと。



 普通がどれだけ、欲しいか。願ったか。今、ようやく、その普通に手が届いた気がした。薄っすらと瞳に涙が浮かんでしまうが長女が泣くわけには行かない。それを直ぐに拭いておにぎりにもおかずにも被りつく。


 


 美味しい物を食べているときは人は無口になると聞くがその通りだと思った。自分も三人も何も言わずに只管にご飯を口に運んでいるのだから。



 デザートのグミも四人で分けた。レモン味の引き締まった甘さが凄く美味しかった。久しぶりに外からの愛情を感じた。安住の地を見つけた。ここでなら、普通になれる。三人も真っすぐ育つ。そう、うちは確信した。多少のロリコン疑惑なども少し心配だけど……


 だから、絶対にうちが、うち達が超能力者であることはバレてはいけない……







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