青色金魚は夜を泳ぐ
𝚊𝚒𝚗𝚊
#0
魚の形の青い光が、部屋の壁を泳いでいく。
お盆の夜に灯るあかりが好きだった。盆提灯のあかりが回る部屋。ふとんを二組敷いてもらって、おばあちゃんの隣で横になる。家の中で唯一畳敷の部屋は異空間めいていて、変わった物が置いてあるわけでもないのに、いろいろなものが見えた。お盆の期間だけでなく、熱を出したときもおばあちゃんの部屋で眠った。高熱で潤んだ目に異形の行列が映る。その幻影のパレードを目で追ううちに眠りに就いた。
子どもだった私はよく熱を出したけれど、成長するにつれ発熱する回数は減り、今ではたまに風邪をひく程度。そんな私が四十度の熱を出した。頭痛や咳、鼻水などの症状はなくて、ただ高熱だけが五日続いた。その間、
ひらひらと
部屋を借りるのは大変だった。奏雨ちゃんも私も個人事業主のようなものだったし、運転免許も持っていない。奏雨ちゃんはホストで、私はヘルス嬢だった。いくつかの不動産屋を回り、一年分の家賃を前払いすることで賃貸契約ができた。
私たちは駅の西側のアパートに住んでいる。駅の東側は片側二車線の道路が通り、商業施設がいくつか並んでいる。西口のショッピングセンターは上り坂の起点に建っていて、昔ながらの商店街と繋がっている。坂道の北側だけのアーケード。南側は図書館と文化会館が並ぶ。アパートは商店街から北に折れた細い路地にあって、ショッピングセンターとマンションに挟まれていた。
窓の外は明るい。まだ昼過ぎくらいだと思う。奏雨ちゃんは起きている。窓を覆うテレビの画面に、櫻井さんが映っていた。神谷さんもいる。小野さんの顔を観ていたら、エルヴィンが叫んでいたシーンを思い出した。
「どうしたの?」
イヤホンを外した奏雨ちゃんがベッドに上ってくる。
「エルヴィンのこと考えてて泣いた」
「リヴァイ推しじゃなかったっけ」
「エルヴィンも好きだよ」
奏雨ちゃんは私の頭を撫でてから人をダメにするクッションに戻った。
「何かアニメ観る?」
「まだいい」
白いレースカーテンの上を、うっすらと青い金魚が泳いでいる。カーテンの向こうの擁壁は、曇った色をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます