26話 VS.マリーベート part2
「甘く見ないでもらえるかしらっ!」
マリーベートは死神の手を振り払うかのように、防御術式を展開する。
だが、リオンはニヤリと薄笑いを浮かべる。
魔道杖を振るうと障壁にぶつかる寸前の氷の光線は方向を勢いよく変え、マリーベートの背後へと周り込み襲い掛かる。
しかし、その一撃がマリーベートを貫くことはなかった。
「……?」
不思議そうに目を細めるリオンに、瑪瑙色のねじくれた杖を向けマリーベートは火球を連射する。
「術式の自動展開を仕込んでおいて良かったわ」
火球の弾幕を躱したリオンへ向け、さらに幾筋の熱戦を放ち向こうへの手番を渡すまいとするマリーベート。
(今のリオンは明らかに異質、ここで潰さないといやな予感がするわね)
「ちっ、躱しきれないか。 それならっ!」
リオンは動きを止め、迫りくる熱線のすべてをその身で受ける、ように見えたが幾重にも分かれた熱線を一点に集中させそれを障壁で防いで見せた。
かなりの高威力で放ったはずの術式をいとも簡単に防がれ、マリーベートも流石に驚愕する。
「嘘……そうまで簡単に防ぐの……?」
そのままリオンは、術式を展開する。
おびただしい数の氷塊が宙に浮く。そのすべては鋭くとがり、まっすぐマリーベートに狙いを定める。
そして、発射されようとしたその瞬間、
「くっ……ふざける……なっ!」
リオンが苦しそうに呟くと、すべての氷塊は床に転がり魔力へと還っていく。
マリーベートもその光景の異常さに反撃も忘れ立ち尽くしている。
「リオン、あなたその力は一体……」
肩で息をしながらも杖を構えようとするリオンを見て尋ねる。
先ほどまでのリオンとは明らかに違う。だが、こちらのリオンがマリーベートの良く知るリオンだと彼女は直感した。
「はあっ……はぁっ……僕もいまいち把握してなくてね、まだ上手く使えないんだ」
そう答えながら、頭に渦巻く怒りと殺意を全力で抑え込む。
ーー殺せ、殺せ、目の前の裏切者を……殺せ
そう繰り返す声に頭がどうにかなりそうだった。
いや、実際にどうかしていた。
エアリアを傷つけられた怒りで目の前が真っ白になり、気が付いたら氷の魔術でマリーベートを殺そうとしていた。
“
(マユリめ……いくら世界を平和にしたいとはいえ、こんなヤバいものをよこすなんて)
今更、あの胡散臭い女に毒づいても仕方がなかった。最終的にこの力を受け取ったのはリオン自身なのだ。なら、何とかこの力と折り合いをつけるしかない。
頭に響く声を必死に抑え込むと、魔道杖を構える。
「悪いけど……さっきまでのこと……は、忘れてもらいたい……な」
「それは構わないけど……まだやるの? そんな苦しそうにしていて」
マリーベートが聞くがそれは彼を心配してのものではない、勝ち目のない戦いを挑んでくる相手を一方的に潰すのが趣味ではなかっただけだ。先ほどまでのリオンと違い、今の彼は苦しそうにしているのもそうだが、何より魔力の質が低すぎたのである。
全く集中できていない、瞳こそこちらを映しているが心はこちらへ向いていないのだ。
マリーベートにとって、そんな相手など物の数ではなかった。
「まだ……やれるさ……」
リオンは絞り出すように呟く。
自分でも分かっていた。こんな状態で戦っても一瞬で殺されるであろうことは。
だが、かつての仲間を取り戻せるかもしれない数少ないチャンスなのだ。ここで引くわけにはいかなかった。
必死に杖を構えなおすリオンだったが、魔力を練ることができない。
頭に響く声を抑えるのに必死で気が回らないのだ。
(このままじゃマズイ……)
そう思ったリオンの肩に手が置かれる。
優しくも力強い手だった。燃えるような真紅の髪に白銀の鎧、ガラン王国の近衛騎士団長エアリアがそこに立っていた。
「心配かけたな、ここからは私も戦おう」
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