14話 激動

クウド商業連合国。

聞いたことのない国名に、リオンは首をかしげる。

「七十年位前に出来た新興国なんだ」

そんなリオンの様子を見て、エアリアが説明し始める。

「先ほどの魔道鋼エナメタルを開発した魔道工学者を支援していた企業が興した国でな、今はそれに集まった三社を合わせた四社がトップとなって連合国という形をとっているんだ」



リオンは、国の在り方も大きく変わっていることに感心していた。

千年前は王国か、帝国しかなかったのでそういった新しい形の国が出来ていることは素晴らしいことである。

「そこまでは遠いんですか?」

「まあな、国境までは大体飛ばして三~四日かかるだろう。 途中の町や村に寄ったりして情報も集めながらだと一週間くらいかな」

結構な距離ではあったが、国を超えるのだからそれもやむなしか、とそんなことを考えながら何気なく窓から空を眺めると、白い雲に一点黒い影が見えた。

(あれはなんだ?)

リオンが正体を確かめようと目を凝らすと、なんと影は一瞬でその数を増やしこちらへ突っ込んできた。


ーードグオオオン!!!


貨物起動車カーゴバイク”のすぐ真横で爆発が起こる。

それは影が放ってきた火球が起こしたものだった。影の正体はワイバーンだった。

細身の体に一対の翼、足には鋭い爪を生やし、ギラギラとした目でこちらを見ている。



「チッ、魔王軍の放った追手だな」

エアリアが舌打ち交じりに呟き、スピードを一気に上げながらハンドルを右に、左に切る。

そのたびに地面では爆発が起き、砂利が車体へとぶつかる。

「もう少し走れば、森がある! そこまで行けば空からは攻めにくい!」

振り注ぐ火球を躱しながら、エアリアは叫ぶ。前方には確かに小さく森が見えていた。

だが、リオンはワイバーンの様子を観察して首を振る。

「ダメです! 奴らの中に一匹、ソニックワイバーンがいます。森に着くまでに追いつかれます」



そう言いながら、窓を開け車外へ出ようとするリオン。

「おい! 何をする気だ!?」

当然エアリアは驚いた。いきなり高速走行をする車体の外へ出たら振り落とされて、体がバラバラになるのは必至である。

だが、リオンの答えはエアリアをさらに驚かせるものだった。

「僕が屋根から、奴らを迎撃します! エアリアさんはなるべく車体を安定させてください!」

そう言って、窓のへりを掴み飛び出していく。ドンッ、という音が上から聞こえてきたので屋根には上ったのだろうが、今の時速は百八十キロ近いスピードが出ており、普通なら戦闘はおろか一瞬で振り落とされるはずであった。



「……よし、何とか屋根に靴を貼りつけられたな」

だが、リオンは“自在術式マルチスキル”の力を使い、自身を車体に固定していたのだ。しかも足にかかるダメージは回復術式を常時使用することで緩和していた。

片膝立ちになり、魔道杖を手の中に出現させ構える。向こうもこちらも、高速で動いているためいちいち狙いを定めている余裕はなかった。

「くらえっ!! サンダーショット!!」

リオンの叫びとともに杖の先端から無数の雷の弾が放たれ、ワイバーンたちへと襲い掛かる。


ーーギャオオオォォォォ!!!


雷撃を受けたワイバーンたちはその体を痙攣させながら断末魔の叫びを上げ、大地へと落ちていく。

首や翼をひしゃげさせながらゴロゴロと転がるそれを見ながら、リオンは次々と雷の弾を撃つが本命のソニックワイバーンは放たれた雷撃の弾幕を巧みに躱していく。


ーーグゥウアアアアア!!!


ソニックワイバーンは一際大きな雄たけびを上げると、鋭い牙が並ぶ口を大きく開き炎を吐き出した。それはもはや単なる炎ではなく熱線と呼ぶにふさわしいものだった。



「ヤバいっ!!」

エアリアがハンドルを思い切り左へ切った、その瞬間に熱線が大地を走った。

後一瞬遅ければ、地面と一緒にドロドロに溶けていただろう。

「リオンッ!! 大丈夫か!?」

エアリア屋根の上のリオンへと叫ぶ。勢いよくハンドルを切ったので振り落とされていないか心配になった。

天上からコンコンと何かで叩く音が聞こえたので、安堵し再び運転に集中する。

ふと、サイドミラーへ目をやるとソニックワイバーンが、また熱線を吐き出そうと口を開けている。

エアリアはハンドルを切るタイミングを図ろうとすると上から声が聞こえてきた。



「このまま走り続けてください! 撃たれる前に落とします!!」

(本気か!?)

内心、かなり焦ったが他に有効な手もなく、このままではジリ貧に追い込まれていくのは自明の理だったのでリオンを信じることにした。

リオンは魔道杖を正面に構え、今まさに熱線を吐かんとするソニックワイバーンに向け、魔術を放った。

「終わりだぁぁ!! サンダァァァバスタァァァ!!!」


それは、凄まじいまでの雷の奔流だった。落雷のような不規則な動きではなく、青白い一筋の光がソニックワイバーンの体を吐き出された熱線ごと貫いた。

上半身を丸ごと消失させたソニックワイバーンは、そのまま地面へと落下していき、残った部分からはうっすらと黒煙が上がっていた。

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