5話 王女
しばし、気まずい空気とともに揺られていると不意に金属の馬車が止まり、扉が開かれた。
「さあ、ここが王都ガランだ」
言葉とともにエアリアが先に降りる。それに続き、リオンも降りた。
目の前に広がっていたのはとても大きな建物の群れだった。千年前とはまるで違う、高く四角い塔のような建物ばかりが乱立していた。
その下を見慣れぬ衣服を身に着けた人々がせわしなく行き交い、街は喧騒にあふれていた。
だが、この町の住人にとってはリオンの恰好のほうが物珍しく映るのだろう。行き交う人のほとんどが彼を横目でチラチラと眺めていった。
「この辺りはガランの城下町だ。君はこれから、私とともに王女殿下への謁見を受けていただく」
「王女様? なぜです? 素性の知れない男がそう簡単に拝謁できるお方とは思えないですけど」
「王女殿下直々のご命令なのだ。古代魔術を使う君にご興味を示されてな」
少しげんなりしたような表情でエアリアは歩き出した。リオンはなぜだか深く聞くのも憚られるような気がして、それ以上質問はせずに後をつけていった。
しばらく歩くと、建物がひしめき合っていた街とは違い、とても広い場所へと出た。視線の先には、千年前の世界でも見られたような大きな城が鎮座していた。
「あそこが王都ガランの中央、ガラン城だ」
エアリアはさらに歩みを進め、城の跳ね橋の前の兵士に話しかける。
「王女殿下の命により参った、お目通りを願おう」
エアリアとリオンは城内の兵士に連れられ王女が待つ謁見の間へと通された。そこは、とても広く豪奢な作りで、訪れたものを圧倒する威圧感を放っていた。
その最奥にポツンと置かれた、椅子に座る少女が一人。エアリアはもちろん、リオンよりも年が下に見えた。だが、この広い空間を支配している。リオンはそう直感した。
「近衛騎士団長エアリア、王女殿下の命により馳せ参じました」
エアリアが言葉とともに、うやうやしく跪く。リオンもそれに倣い同じように跪きながらも、そっと王女の様子を伺う。
美しい琥珀色の瞳をこちらに向け、口元には笑みを浮かべている。身に着けている物はこの場にも劣らぬ豪華さだが、それ以上にランプの明かりを受け煌めいているプラチナブロンドの髪が年齢以上の妖艶さを彼女に与えていた。
「ご苦労でしたエアリア、そちらが報告にあった古代魔術を使うという少年ですね?」
「はい、悪人ではなさそうですが素性も知れぬ上、こちらに話せることはほとんどないと言っており信用できる者ではないかと」
「名をリオン、と言いましたね。報告では魔王と戦うために旅をしているとか」
不意に話を振られ、リオンは少し慌てて返事をする。
「はえ? あ、はい、そうですね。そのための旅をしています」
間の抜けた返答をしてしまったと思い恥ずかしくなって、少し俯きがちに王女を見ると先ほどとは打って変わって口元を綻ばせ、クスクスと笑っていた。その表情は、年相応のものだった。
「ふふ、あんまり緊張なさらないで。王女だからと構えなくても結構ですわよ」
先ほどより、砕けた口調の王女をエアリアが諫める。
「殿下! あまりそのような態度を見せるべきではありません。他の者への示しが……」
「はぁ……相変わらずエアリアは堅物ですわね。ここにはわたくしたち三人しかいませんわよ。別にいいじゃありませんか。ねえ、リオン?」
エアリアの忠告も最後まで聞かず、リオンへ助け舟をいきなり求め始める王女。
「いや、僕に聞かれても困りますが……」
「あら、あなたも堅物なんですの? 若いうちからそんなことだとどこかの騎士団長みたいに眉間のしわがとれなくなりますわよ」
いたずらっぽく話す王女に先ほどより語気を強めてエアリアが尋ねる。
「殿下!! お戯れはほどほどになさって、本題をお聞きしたいのですが!」
「まぁ、怖い騎士様だこと」
そう言いながらも、顔つきは少女から王女のものへと変わっていた。それだけでこの空間がまた彼女の支配下へと置かれる。
「リオン、貴殿は悠久の時を超えこの地にやってきたのではないですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます