第4話 決戦前夜


 明日の戦の作戦会議が終わり、俺はホテルの俺の個室へと帰ってきている。

 まずは、明日の戦争前に俺の能力を確認しておく。

 その俺のステータスを『文字表記』でみてみると――。


―――――――――――――――

〇名前:藤村秋人

〇レベル(六道王(修羅道)):――

〇ステータス

 ・HP:SS    ・MP:SSS+   ・筋力:SSS+

 ・耐久力:SS   ・俊敏性:SS  ・魔力:SSS+

・耐魔力:SSS+  ・運:D   ・成長率:SSS+

――――――――――――――――


 あらま。最高値と思しきSSS+が5項目あるよ。これ、相当強いんだろうな。まあ、明日の相手は絶望王、強さはいくらあっても足りることはない。僥倖というものだろう。

では、称号から見ていくか。


…………………………………………

称号――阿修羅王:修羅道を極めたものに与えられる称号。攻撃に特化した六道王中最強の称号である。

・超進化:ステータスが爆発的に向上する。

・眷属化:他者に六道王の眷属の地位を与える。

・眷属超進化:眷属のステータスが爆破的に向上する。眷属は阿修羅王から称号及びスキルを各一つに限り借り受けることができるようになる。

・【万物破壊】の権能を使用可能となる。

…………………………………………


 六道王中最強ね。ステータスが爆発的に向上する【超進化】も、眷属を強化する【眷属超進化】も相当チートだが、それよりも問題は、【万物破壊】の権能だろうな。

 能力は、『万物を破壊する』というシンプルなもの。だが、これは俺が今まで得てきた種族特性以上に悪質極まりないもの。

【想いを継し者】から知識の譲渡を受けなければ、きっと気づきもしなかっただろうがね。

 ともあれ、この【万物破壊】が明日の打倒絶望王のキーとなるのは間違いないな。

 次が、ラストバンパイアがレベル99になって今までの終末の導き手と統合進化して得た称号。


…………………………………………

称号――始まりと終わりの吸血鬼:全吸血鬼の頂点。弱点は存在せず、闇を支配する限りなく不死に近い吸血鬼。

・【終末の導き手】の全特性を維持する。

・【食と才を極めし吸血王】の全特性を維持する。

・【殺戮真祖】の全特性を維持する。

…………………………………………


 統合進化したせいで、支配対象が血液から闇へと変わっていた。まあ、血液よりも闇の方が使いやすいだろうさ。

 最後がスキルだ。

 このラストバンパイアのレベルが99となり俺の期待通り、初の防御系スキル――【血界】を獲得した。

 これに今まであった防御系スキルを融合すれば、攻撃系、防御系、束縛系、回復系、隠匿系の五種全ての融合進化が完了したことになる。

 さっそく融合してみると――。


―――――――――――――――

吸領備きゅうりょうび【Lv1/7】:万能属性以外の物理攻撃、状態異常は吸収されHPとMPへと変換される。

――――――――――――――――


……変てこなスキル名だが、中身はマジでヤバいな。ようは攻撃を受けるとHPとMPが回復してしまうってことか? しかもこれでレベル1かよ。レベル7になったら一体どうなるんだろう? ……まあ、強いには越したことがないよな。


 小腹もすいてきたところだし、十朱達を誘って夕飯でも食べに行くとするか。明日の戦争のため、あいつらの眷属化もしておきたい。

 何よりあいつらもクロノがいなくなって、相当落ち込んでいるっぽいし、実のところ、俺も誰かと話して気を紛らわせたい。

 この俺が一人になりたくないか。ホント、この数か月で俺も変わったよな。だが、不思議と悪い気がしない。

 丁度、ベッドを立ち上がったとき、扉がノックされる。

 誰だ? 十朱達だろうか?

 扉を開けると、三人の男女。

 中心には、真っ黒な燕尾服にシルクハットを被った灰色の髪の紳士。その両脇には、ゴスロリ姿の金髪の少女と黒色スーツにハットを被った金髪男が控えていた。

 灰色髪の紳士は、40代。少女は10代前半、黒色スーツにハットの男はは俺と同世代くらいか。


「お初にお目にかかります。私はシン・ラスト。魔術結社――エレボスの長をしております。どうぞ良しなに」


 三人とも片膝をつき俺に首を垂れる。周囲の客たちが何事かと俺達にチラリチラリと様子を伺ってくる。

 いい歳した大人がこんな場所で、家臣ごっこなんて、軽い罰ゲームだ。冗談じゃねぇよ。


「とにかく入ってくれ!」


 大慌てで三人を部屋に招き入れて、俺の正面の席に座らせると、インスタントの珈琲を入れると三人に振舞う。

それにしても、魔術結社ね。俺は陰陽師以外の世界はよく知らんが、魔術結社ってことは、魔術師ってやつなんじゃないのか。


「アキト・フジムラ様、この度の六道王へのご即位、エレボス一同、ご祝福いたします。同時に、クロノ様におきましては心より、お悔やみ申し上げます」


 そう言うと、シン・ラストは深く頭を下げてきた。

 いやいや、俺が六道王になったのは、右近や真城などごく一部の日本政府関係者と十朱達及びバアルしか知らぬはず。しかも――。


「なぜ、クロノの件を知っている?」

「申し訳ございません。つい先ほどの貴方様方の会議の内容、こちらで聞かせていただきました」


 あの中華料理店への機械もしくは種族特性による盗聴か。こうも悪びれずにそれを暴露するかよ。まあ、黙っていられるよりかは何ぼかいい。

 それに六道王につき祝福だけされるのは正直我慢がならない。クロノを気にかけてくれたことは、俺的にはかなりポイントが高い。


「で、このタイミングで何の用だ? 明日の戦争について意見表明でもしにきたのか?」


 まあ、こいつらが誰であっても翻意することなどあり得んわけだが。


「まさか、なぜ勝利するとわかっている御方を御止めしなければならないのです?」

「勝利する? 俺の相手はあの絶望王だぞ?」


 シン・ラストは、口角を上げてその顔を狂喜に歪めると、


「そうですねぇ、貴方がその【阿修羅王】の称号を有していなければ、私も勝利はよくてトントンだろうと考えておりました。ですが、今は違う」


 そう断言する。


「お前、なぜ俺の称号名まで知っている?」


 まだ、俺は六道王になったとは伝えたが、阿修羅王の称号については誰にも伝えていない。


「私の種族特性とお考え下さい」


 だろうな。こいつが強力な解析系のスキルでも持っていなければとても、この現状は説明がつかない。


「で、お前の目的は? あんた、わざわざ、挨拶にくるような奴じゃないだろ?」


 こいつからは、鬼沼のような危険な臭いしかしない。下手に慣れ合うのは殊の外危険だ。

 席を立ち上がり、床に膝をつく。弾かれたように、金髪少女とスーツに金髪の男もそれにならう。


「我らと我が祖国に加護をいただきたく」

「祖国ってのは?」

「これを」


 懐から一枚の紙を取り出し、跪きながら俺へと渡す。

 裏を見ると、アルファベットで名前が記載されていた。多分、ジェームズ・ナイトハルトって読むんだろうな。

 ん? ジェームズ・ナイトハルトって、この人気ロボットアニメに出てきそうな名前、どこかで聞いたことあるような……。


(ーーっ!!!)


 ちょ、ちょっと待て! いやいや、流石にそれは大物すぎんだろ!


「アメリカ大統領ジェームズ・ナイトハルトか!?」

「はい」

「つ、繋がりがよくわからんのだが。なぜ、魔術結社のお前らが、米国大統領からの手紙を持っている?」


 動揺するな! この手の輩には顔色一つでも付け込まれかねん。


「それは私が、中央情報局副長官の地位にあるからです」


 中央情報局って、CIAのことだよな。つうことは、こいつCIAのお偉方ってこと?

 しかし、米国があくまで個人の俺の加護が欲しいね。どうにも、正気を疑うぜ。

 一応、封を切って目を通すと、わざわざ日本語で書いてあった。読んでみるとなるほど直ぐに合点がいく。

 内容を要約すると次の通りだ。

 米国は俺に対し敵対する意思はなく、あらゆる援助を惜しまない。その条件が守られる限り、俺もいかなる場合も米国に対し敵対的行動は一切とらない。

 つまり、文脈から察するにこれは加護を望むというよりは、敵対しない確信が欲しい。そんなところじゃないかと思う。

 俺とてこの世界でこれからも生きていくつもりだ。だとすれば、かの超大国と好き好んで敵対したいとは夢に思わない。


「ジェームズ大統領の提案を受けるよ」


 ほっと胸を撫でおろす、ゴスロリ少女とハットの男。


「感謝いたします」


 首を深く垂れてくるシン。


「あとはあんたらへの加護だよな。しかし、生憎、俺には加護できるようなものを持っちゃいな……いや、一応、眷属化があるか」


 しかし、そもそもこの眷属の効果がよくわからん。今から飯のついでに十朱、銀二、雪乃の三者に眷属化の提案をしようと思っていたところだったんだ。

 それにまだステータスが低い奴をいきなり眷属化するってのもな。それに、こいつってCIAの幹部だろ。後々面倒ごとに巻き込まれるのは、御免だぜ。


「私を眷属化していただけるなら、以後、貴方様に絶対の忠誠を御誓いいたします!」


 熱の籠った声でシンが叫ぶ。両隣にいる金髪少女とハットは呆気にとられたような不思議な顔でシンを眺める。


「いや、実をいうとまだ眷属化するの初めてなんだよ。眷属化というくらいだから、それなりの覚悟がいるだろう。まず、俺の仲間で試してみるから、この戦争が終わってから――」

「いえ、この身が滅ぶ覚悟もありますッ! どうか私めに眷属化を! なにとぞ‼ なにとぞ!」


 遂には額を床につけて懇願し始めてしまった。

両隣の金髪少女とハットの男は口をパクパクさせて眺めているだけ。きっと、このような態度をとるような奴じゃないんだろう。

 これで断ったら恨まれそうだ。いや、鬼沼の同類を敵に回すのはご法度だな。

眷属化というくらいだ。俺に対して敵対的態度はとれなくなる可能性が高い。本人もして欲しいっていうんだ。やってみるか。


「わかった。わかったから。それは止めてくれ」

「おお、感謝いたします」


 シンは号泣しながらも、神に祈る仕草をする。付き添いの二人は、ドン引きしていた。

俺はため息を吐きつつ、メニュー画面を出し、『眷属化』をタップすると、『眷属化する人物を指定してください』の文字。そして、シン、金髪少女、ハットの男が赤く点滅する。

 シン、眷属化と念じると、『阿修羅王によるシン・ラストの眷属化を開始いたします』とのアナウンス。

 突如、シンは意識を失ってしまう。金髪少女が心配そうに気絶し脱力したシンを眺めていた。


「心配いらん。眷属化のリバウンドで眠っているだけだ」


 おそらく、肉体的強度が阿修羅王の眷属化に耐えられなくなったんだろうさ。まあ、死にはしないと思う……多分だけど。

 不吉な思考を、首を左右に振って振り払う。そして、三人を見送ったあと、今度こそ十朱達の部屋に向けて俺は歩き出した。

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