第13話 クエストボスとの戦闘
Lvが4まで上昇した千里眼により、このファンタジーランドのメインの場所を覆う程度の索敵はできていた。だから俺は千里眼で各ゲストの位置情報を把握ゲストの逃走の障害となるアンデッドどもを駆逐し、まずは彼らを優先的に逃がす。
ここで、俺の所有称号――【世界一の臆病なプロハンター】により、命中率、威力、射程までもかなりの補正がかかっており、千里眼で特定さえすればクロノの有効射程範囲内に入っている限り、外すことはなかった。
もっとも、有効範囲外でもゲストは常に襲われている。その場合、千里眼で特定しつつも、【チキンショット】により即殺した。有効射程範囲外のアンデッドどもに限ったせいか、【チキンショット】はまだまだ残弾に余裕がある。
そして、外にいる全ゲストの逃走が完了したら、次は建物をしらみつぶしに探索していく。
千里眼の効果が建物内まで及ばないこともあり、これが一番苦労した。
もっとも、建物はある一つを除いて魔物が侵入し得ない安全地帯となっており、犠牲者数は大したことはない。問題は、常に一定間隔で外のアンデッドどものおかわりがあること。外のアンデッドを殺し尽くしても、ゲストたちが逃げる時には少なからずアンデッドは産生されてしまう。
この性質のために、このまま建物内に残すことも考えたが、いつルールをより最悪に変更されるかもわからない。だから、危険を承知で一か所、一か所ずつゲストを外のアンデッド共から守りながらその逃走を助ける。そして逃走が完了してから次の建物へ移る。これを地道に繰り返す。
結果、大ホールを最後に全ゲストの避難が完了する。
もう俺にも敵のボスがどこにいるのか見当がつく。
即ち――俺達がいたあのゴーストスクールだ。他の建物と異なり、あそこは安全地帯のようなものがなかったしほぼ間違いないと思われる。
俺がゴーストスクールの前まで移動すると、建物の正面玄関からでっぷりとした金色のサングラスをかけた男が姿を現す。
高級そうなスーツに金やら白金などの装飾品を全身に身に着け、タラコのような口には葉巻をぷかぷかと拭かせている。
そして、成金野郎の背後の建物から真っ黒のハットをかぶり、同じく黒色のスーツを着た黒色の骸骨共が隊列を組んで出てきた。
『ミュージックゥーースタート!』
成金野郎は指をパチンと鳴らす。すると、ロックなバックミュージックが鳴り響き、骸骨共は一斉に一糸乱れぬソウルダンスを踊り始める。
鑑定を掛けると、あの黒色の骸骨――ブラックスーツの平均ステータスは190。あの成金ゾンビ野郎は《メガリッチ》とだけ鑑定できた。
舐めやがって。すごい
結局駄洒落かよ! しかも相当下らない部類の。お遊びで他人の命を奪うか。
俺は己がどれほど薄情かは知っている。それでもこの人の命をゲームの駒にしか考えてないやり口には心底反吐がでる。
『役割ぃ分担だZE! 貧乏人共の存在価値はぁ、MEにぃ
とってつけたような口調と会話だな。おそらく、そのように設定されているんだろう。とすれば、こいつらとの会話に意味はない。
もういいさ。こいつらの茶番劇にこれ以上付き合うのに俺は疲れた。これでようやく、気兼ねなく泥のような殺意をぶつけられる。
「お前には同情するぜ。お前は少々、俺の中のタブーに触れすぎた」
その言葉を最後に、視界が真っ赤に染まる。熱した棒を脳髄に突き立てられたかのような頭痛とともに視界が歪み突然ブラックアウトする。
漆黒の闇の中心には、血のような真っ赤な檻。そこで俺を出迎える一匹の人型の何か。
俺はこいつを知っている。多分、こいつは幼い頃からずっと俺の中に捕らわれていた怪物だ。そいつが捕らわれている檻への扉はいつも俺の前にあるが、決して外せぬ錠がかけられている。
そいつは檻の向こう側から、弱くも滑稽な俺を眺めるとニィと口角を吊り上げる。そのぞっとする吸い込まれそうな闇色の瞳で射抜かれただけで、嘘のように心が静まり、冷えていく。恐怖や絶望、憤怒等、戦闘に不要な感情があっという間に、消失していく。
視界に光が戻り、俺は目の前の滑稽な道化を見下し、嘲笑う。
そして――。
「死ね」
自分でもゾッとするような声を吐き出し俺は疾走を開始した。
群がるブラックスーツ共をクロノの銃弾で一撃、爆砕する。
地面を走り回る俺に対しリッチが俺に右手を掲げ円のマークを作り、『
『
奴の叫びとともにバカみたいな数の炎が俺に向けて柱の豪炎となって向かってきた。
タイミングを見計らいそれをアイテムボックスへ上手く収納してしまう。僅かに両手の掌に火傷をしただけで、肉体の運動性に何ら支障はない。これで殺害の道具の一つを手に入れた。
『ぬ!? ならこれならぁーどーYO!』
リッチが両手の人差し指と親指で円の形を作り絡ませたうえで引く。
『エンガァーーTYO!』
咄嗟に生じた悪寒に従い、背後に跳躍するとその直後前方の地面が大きく十字に引き裂かれる。
いくつもの地面を抉る十字の衝撃を避け、炎の柱を吸収しながらも地面を疾駆しクロノを撃ち続ける。ガラクタと化す黒骸骨――ブラックスーツども。そして遂に最後一匹が爆砕されると、
『無駄無駄無駄ぁぁ増やせばいいだけだZEェェーー!』
リッチが両腕を上げてオーケーのサインを作ると奴の周囲の地面が赤く発光し、ブラックスーツ共が湧き出してくる。
俺は再度クロノ銃弾を浴びせてリッチの周囲のブラックスーツ共を殲滅する。
「無駄無駄無駄無駄ぁぁだZEッ!!」
再度円のマークを掲げようとするが、予めに放っておいた銃弾が奴の両腕を引きちぎる。
両腕を失い一瞬呆然とするやつに、チキンショットで頭部と両足を指定し3発を放つ。さらに一呼吸おいて、さらにチキンショットで消失した両腕根元に向けて2発撃った。
銃弾は奴に向けて一直線に進むも、
『無駄無駄無駄ぁAAッ!』
リッチは軟体動物のような不自然な動きでそれらを避けようとするが、銃弾は不自然に曲がり、奴の両足を爆砕し、頭部を粉々に爆砕する。次いで両肩付近に2発が衝突し大爆発を起こす。
胴体だけとなった奴は地面に叩きつけられるも急速に再生されていく。
『む……DADADA』
顎が、そして口が回復されるも、俺は奴の身体の中心に【チキンショット】を指定し、さっきからたっぷり収納した
巨大な炎の柱は奴に向けて突き進むが半分生えた足でリッチは、バッタのように上空に跳躍した。これがただの炎なら無事奴は躱して全快し形勢は完全に逆転していたことだろう。
しかし、巨大な炎の柱は不自然な経路を描き、奴を飲み込む。
燃え上がりのた打ち回る奴に、ありったけの銃弾をぶちかます。
クロノから放たれた銃弾は奴に次々に命中し、断続的な爆発を引き起こす。
間髪入れず、さっき収納しておいたガラクタを奴の上空に指定し、アイテムボックスから出す。落下する巨大な観覧車だったもの。
それは黒焦げの胴体のみとなり耐久力が著しく低下したメガリッチの頭上に落ちていく。尋常ではない高重量の物体。それは奴を踏みつぶし一瞬で粉々の粒子へと変えてしまった。
《メガリッチを倒しました。経験値と
《LvUP。藤村秋人のダーウィンのレベルが8になりました。負った傷は回復します。
スキル――【チキンショット】はLv5になりました。
スキル――【千里眼】はLv5になりました》
《クエスト【デッド オア アライブ】クリア! ファンタジァランドは以後、人類に永久に開放されます。
クエスト、【デッド オア アライブ】のクリアにより――。
藤村秋人に称号――【新米ヒーロー】が与えられます。
藤村秋人に特別報酬――【トランスファーリング】が与えられます。
藤村秋人の【狐の仮面】は、初フィールドクエストクリア特典の効果により【黄泉の狐面】へと変化します》
《藤村秋人の意識レベルの低下を確認――【トランスファーリング】の発動条件を満たします。
直ちに帰還を開始いたします》
頭の中に響くその女の声を子守唄に俺の意識は真っ白な霧に包まれていく。
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