第5話 冒険の準備とレベル上げの開始
事件の次の日の早朝、警察が尋ねてきて任意同行を求められる。事件はあのクソオークが原因だとわかっている。だから、その事実の確認だけですぐに解放された。
印象に残ったのは俺の事情聴取を担当した女刑事が感情的になっていたことと、やけにぱっつんぱっつんのスーツを着ていたということぐらいだろうか。
ちなみに、その女刑事曰く、雨宮は特に問題ないそうだ。連絡先など知らんから、直接話してないが、仮にも警察が大丈夫と断言するんだ。心配はあるまい。
そして今朝、警察から報告を受けたのか、会社からまさかの12日間ほどの自宅休養を命じられた。今回の事件は、全国ニュースとなっているようだし、体裁上会社も休ませないわけにもいかないんだろう。
そんなこんなで、この二週間弱で怪物にエンカウントしても逃げられる程度に鍛え込む必要がある。でなければ、怖くて街中もろくに歩けんしな。
流石に
その間に、ショッピングセンターで冒険に必要と思われる食料や物品を多量に買い込む。
さて、ではさっそく【無限廻廊】とかいうダンジョンの探索だ。
正直、気が進まないのが本心だが、生き残るには通らざるを得ない道だな。
クロスボウは持ち運びやすいよう小型で次の矢を素早く装填しやすいものを選択した。斧も腰に括り付けられるよう小型なものにする。
まず、一匹ずつエンカウントしたゴブリンをクロスボウで倒す。二匹以上なら原則逃亡。逃亡が無理そうなら、一匹を倒して逃げやすくなってから逃亡。こうやって、少しずつレベルを上げて行く。
無茶は最大の敵である。これが、俺のゲームでの格言であり今回の探索指針だ。
ヘッドライトを頭部にアックスホルスターを腰に装着し、ホルスターに小型な斧を収める。そしてクロスボウを持ってさあ出来上がりだ。
「よし! 行くぞ!」
俺は【無限廻廊】に足を踏み入れる。
まず優先的に確かめるべきはクロスボウでゴブリンを倒せるかだ。あまり考えたくはないが、それがダメなら次は斧で急所を狙うしかなくなる。
階段を下りてクロスボウを構えながらもその場所で陣取る。ここならばクロスボウがはずれてもすぐに階段を駆け上がればいいしな。
尻がむず痒いような居心地の悪さに待つこと数分、向こうからヘッドライトの明かりに引き寄せられるように、一匹のゴブリンが
俺はクロスボウをゴブリンの身体の中心へと狙いを定める。体の中心ならどこかには当たるだろうし。
射程は俺の腕を踏まえ、十分に検討している。
――ゴブリンまで10メートル
――ゴブリンまで8メートル
――ゴブリンまで6メートル
ここだ!
トリガーを引き、矢が高速で射出された。
『グギッ?』
矢はヒュンと風切り音を上げて空中を疾駆し、ゴブリンの眉間に深々と命中する。
矢を顔面に貫通させたまま、糸の切れた人形のように仰向けに倒れ込むゴブリン。
俺は即座にクロスボウを脇に置くと斧を構える。これで死なぬようなら斧で首をぶった切るのみ。
だが、俺の期待通りゴブリンの身体は弾け飛び、黒色の石がゴトリと落ちる。
《ゴブリンを倒しました。経験値を獲得します》
以前聞こえた抑揚のない女の声が頭の中に反響する。
よっーしゃぁっ! これでクロスボウの有効性が証明されたぞ。あとはこの地道な作業を繰り返すのみ。
2時間後、通算、20匹のゴブリンを倒したとき――。
《LvUP。藤村秋人はレベル2になりました》
頭に響く声とともに画面一杯に開くテロップ。
―――――――――――――――
★レベルアップ!
藤村秋人の《社畜》がレベル2になりました。ステータスは以下のように修正されます。
・レベル 1→2
・HP 10→20
・MP 5→11
・筋力 1→4
・耐久力 2→6
・俊敏性 3→8
・魔力 1→4
・耐魔力 2→5
・運 1→3
・成長率 ΛΠΨ
・ランクアップまでのレベル 1/6→2/6
――――――――――――――――
ステータス更新の表示まで自動でしてくれるのか。どこまで親切ゲーム仕様だよ、これ!
それよりステータスだ。各ステータスが数倍に増えている。純粋に現実の能力が倍化というわけにはいかないんだろうが、それでも期待はしてしまうよな。
試しに前方のゴブリンに向かって思いっきり右足で石床を蹴ってみた。
次の瞬間、耳元で風が千切れ、眼前にはポケーとした顔のゴブリンが佇んでいる。
「うぉっ!?」
咄嗟にヤクザキックをゴブリンのドテッパラにぶちかますと、サッカーボールのように床を転がって行き、頭から正面の壁に衝突し、細かな粒子となって霧散する。
おいおい、マジでパネェなこれ。体感的にも本当に能力が数倍化してんぞ。レベルが1上がるだけで無視し得ない差がつくのはレベル制ロープレの醍醐味だが、まさか現実で味わえるとはな。少し面白くなってきたぞ。
俺は某国民的ロープレの序盤で出没するメ〇ルスライムを狩ってしこたまレベルを上げてから、「オラオラ、何だぁ? そのショボイ攻撃はっ!」とかドヤ顔で宣いつつもストーリーを進めるタイプだ。意味もなく序盤でコツコツ鍛える系の作業は俺の琴線を殊の外刺激する。
さーてゴブリン君たち相手に、どこまで鍛えられるかなぁ。楽しみだ。
俺はゴブリンを相手に本格的なレベル上げに没頭し始めた。
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