刻印~文字を刻み、書き換える英雄譚~

鏡花水月の幻想

英雄譚第一章

英雄譚第1話職業の儀

「いい? 今日からあなたは生まれ変わるの。 これからの人生は輝かしい物があなたを待っているわ」


 誰だ……?僕の頭の中で、僕に語り掛けてくるのは。聞きなれないのに、どこか心のざわめきがなくなるような安らぎを感じる。


「き、君は、いったい誰なの?」

「それは君が進めば……きっとわかるわ」

「ま、まって!」

「また会いましょうね。 英雄譚のつづり手さん?」

「ねぇ待ってよ! ねぇ!」


 はるか遠くにいる人を追いつこうと僕は走り出す。なぜか疲れは感じない。なのにどれだけ走ってもあの人には届かない。


「待ってよ!」

「は、はい。 どうなさいましたかソーヴ様?」

「シーラか。 ……いや、何でもないよ」

「そうでございますか」


 いつの間にか僕は起きていたようだ。急に待ってとか言い出したせいで、メイドのシーラを驚かせてしまった。


「ここは、僕の部屋だよな……」

「そうですが、何か嫌な夢でも見られましたか?」

「いや、本当に何もないから」

「そうですか、では失礼します」


 そういってシーラは部屋から出ていった。シーラが出ていった後、僕は周りを見渡した。


「何も変わりないよな……僕、ソーヴ=レイ=イプシトラの部屋だよな……うんそうだ」

 

 僕はソーヴ=レイ=イプシトラ。イプシトラ侯爵家の二男だ。生まれながらの膨大な魔力量と、神の使いを象徴するとされている銀髪に、青空のような眼をしている僕は、小さいころから神童、神の子、神の使者など、いろいろなあだ名をつけられてきた。


「失礼します。 ソーヴ様、当主様がお呼びでございます」

「ありがとうシーラ。 すぐ行くと伝えおいて」

「かしこまりました」


 僕があまりにも不思議な夢を見たため、自分のことを思い出していると、父上からお呼びがかかった。僕はすぐに着替えを終わらすと、父上がいる執務室に向かった。


「失礼します。 ソーヴでございます」

「はいりなさい」

「失礼いたします」


 扉を開けて、中にはいると、正面に父上がいた。その隣にはシーラのお父さんで、この家の執事長のガラナがいた。


「おはようソーヴ。 よく眠れたかね?」

「はい、お父様」


僕のお父様、コーヴァス=レイ=イプシトラは、一見すると、とても優しそうな人だ。常にニコニコとほほ笑んでおり、領民からも信頼されている。しかし貴族なだけあり、剣や魔法の才能は領内一と言われている。


「今日は職業の儀だね」

「そうですね、この時をとても待ち遠しく思っておりました」

「確かに運命を分ける日だけど、ソーヴは二男だから好きなことを好きなだけしなさい」

「はい」

「さて、では朝食としようか」

「そうですね」

「ガラナ、片づけを頼めるかい?」

「承知しました」

「じゃあ行こうか」


 僕たちは執務室を出て、父上と共に皆のいるところに向かった。

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