配達業者【3】
「何だい。エドワード、やっぱり知り合いじゃないか」
店長の呆れたような呟きがもれる。それを否定したのは以外にも目の前の少女だった。
「いいえ。エドワード様は、
その声に、またもフェリシアの姿を思い浮かべ、エドワードはその考えを振り払うために頭を振った。階段に落ちた荷物を拾い上げ、カウンター越しに少女と向かい合う位置までやってくる。そして改めて少女を見詰めた。不躾だとわかっていたが、エドワードは彼女がフェリシアでない確証が欲しかったのだ。
「君はフェリシアのところのお屋敷の子なの?」
エドワードの質問に、少女は「はい」と肯定する。
「君と彼女は
続いて、探るように相手の瞳を窺って、エドワードはその疑問を口にした。エドワードは、彼女に姉妹がいるという話を聞いたことがなかったからである。しかし、それが赤毛の子だというなら話は別だ。社交界の嘲りを受けることを避けるために意図して彼女の存在を隠していた可能性だってある。
だが、そうすると気になってくるのは少女の口調であった。まるで、フェリシアが彼女の主であるような物言いをする。そして、彼女が身につけているのは、確かにメイドが着るような動きやすい紺のドレスであった。
考えが頭の中でぐるぐると廻り、エドワードはただ彼女の答えを待った。
「姉妹……ですか? 恐れ多いことでございます」
「こんなに似ているのに姉妹じゃないって言うのかい?」
「ええ。フェリシア様が姉妹のように大切な人であることは間違いではございません。ですが、残念ながら血の繋がりはございませんわ」
少女の言葉に、とても信じられない、とエドワードは言葉を失った。横で一部始終を見守っていた店長も困惑した表情を浮かべ、
「えーと、話を整理させてもらうと、君はエドワードの知り合いのフェリシアとよく似ている。だけど、彼女との血縁関係は全くない、と言うんだね。どうやらそのフェリシアと知り合いではあるみたいだけど……」
と少女に確認する。
「はい」と少女ははっきりと答えた。
「となると、君はそのフェリシアの遣いできたのかい?」
「それはないと思います。僕は店のことは話していませんし。仮に知っていたとして、今朝彼女に会う約束があったのに、その時間帯に態々店に人をやる必要性はないはずです」
エドワードと店長は互いに顔を見合わせて、揃って少女に目を向けた。
その動作に少女は苦笑を浮かべたが、直に表情を引き締める。
「エドワード様のおっしゃる通りでございます。こちらには私の独断で参りました。エドワード様が、このお店で働いていることは友人を通して知りました。その友人が今日こちらに蜂蜜を届けに行くと申しておりましたので、無理を言って代わってもらったのです。私が私でいられるうちに、どうしても、フェリシア様の想い
「王子?」
エドワードより先に店長が素っ頓狂な声を上げる。眉間に皺を寄せ、笑いを堪えているような、そうでないような複雑な表情だ。確かに、今までの彼女の言葉遣いから「王子様」という言葉が出てくる事など想像できなかったから、そのような反応も仕方がない。現に、エドワードも少女の口から紡がれた言葉に面食らっていた。
「そうです。乙女にとって、想い人は皆、王子様なのです」
「ふーん、でも、そのフェリシア様の想い人に会って君は何がしたかったの?」
どうやら、笑うことだけは耐えたようだ。店長が平静を取り戻し、先を促すように疑問を口にした。それは、エドワードも知りたいことだ。主人に内緒で自分に会いに来たと聞いた瞬間、エドワードの胸を不安が過ったのだ。
フェリシアは自分のことを好いてくれているようだが、この少女は大切な主人のために自分に文句を言いに来たのではあるまいか。
「私は――」
少女の言葉を待ち、エドワードはごくりと唾を飲み込んだ。
「愛をお届けに参ったのです」
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