彼岸花のむこう側

泉谷 蓮華

第1話 妖との出会い


ある三日月がきれいな夜

私は提灯を片手に散歩をしていた


「おっと、忘れるところだった……」


いくつも連なった鳥居を潜り一番奥の祠にたどり着いて商売繁盛のお参りをする

ここまでは毎日の日課と変わらない


だが、いつもと違うのは先に人がいるということだけだった


「もし、そこの旦那様。」


幼さが少し残る声

小さい声だったがその声はしっかりと耳に届いていた


―――こんな時間に子供??


ぼんやりではあるが祠の前で薄紅色の着物を着ている子供がいるのが見て取れる


そもそも、もう戌の刻(午後8時)を過ぎ、まわりがまっくらだというのに子供がいることがおかしいのだ


「お嬢さん、こんな時間に1人かい?」


目の前の彼女に背後から問いかけるが

それついての返答はない


「そこに飾ってある蕾の花を取っていただけますでしょうか」


彼女は私の話など聞いてはいない様に話をすすめる


こんな時間に子供一人…怖いはずがない

私は少し恐怖で震えながらも

生きている人間だ幽霊ではないと自分に言い聞かせた


「この彼岸花の蕾かい?」


そういって私は彼女の横に行き彼岸花の蕾に手を伸ばした


するとフワッと白い彼岸花が花開いたのだ


「!?……さ、咲いた!?」


私は驚きのあまり手も引っ込め、彼女を見た


「貴方様だったのですね」


彼女は少し吊目気味の目を細め、口元に笑みを浮かべながらつぶやくと祠の前にまた一歩近づいた


そして、手のひらを祠に向け真っ直ぐに腕を伸ばすと

ゴゴゴゴゴ………と音を立て今まで小さかった祠の扉が人ひとり通れるほどの大きさに変わった


「な、なんだこれは……」


私は震えと汗で落としそうになる提灯をしっかりと持ち直し彼女に問いかける


「私達はずっと待っていました」


祠の扉であったであろう扉の向こうからは

ガヤガヤと賑やかな声が聞こえる


「さあ、扉をあけてください」


彼女に言われるがまま

私は扉に手をかけた……―――

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