しあわせ

ネオン

ぬくもり

今日、実家から家に帰る。


私は久しぶりに年末を実家で過ごした。10年ぶりだろうか。両親の顔を見て、10年という時間の長さをを痛感した。記憶の中の両親よりもシワが増え、白髪が増えていた。


なぜ実家に帰らなかったのか。それは、最初は仕事が忙しかったから。一年くらいは実家に帰らなくてもいいかなって思ったんだ。だって、どうせいつでも会えるし。

その次の年も帰らなかった。忙しいし、それに、わざわざ何時間もかけて実家に帰るのを面倒くさく思ったから。

そうやって色々と理由をつけて帰らなくなって、あっという間に10年も経ってしまった。


久しぶりに実家に帰ったのは、最近実家に帰ってないと思ったから。

実家に帰る当日になって、突然不安に襲われた。どんな顔して会えばいいんだろう。どんな話をすればいいんだろう。親とどうやって過ごせばいいんだろう。次々と疑問が湧いて来た。久しぶり過ぎて両親の前でどう振る舞えばいいかわからなかった。忘れてしまったんだ。一瞬、帰るのをやめようとも思った。でも、もう準備をしてしまっていたし、一度決めたことなので、これ以上余計なことを考えて憂鬱になる前に家を出た。


電車に乗って、次第に現在の居住地から離れ、だんだん実家に近づいてくると、懐かしさが込み上げて来た。駅を出て、実家に向かって歩いていると、不思議歩く速度がだんだん速くなった。両親に会うことへの不安と両親に会えることへの喜びとがごちゃ混ぜになっていた。


母の顔を見た途端、今まで感じていた不安は消えた。けれども、両親の昔とは違う姿を見て涙が出そうになった。


年末は子どもの頃のように家族3人で過ごした。コタツに入って、今まであったこととか沢山話した。とても楽しくて、温かくて、ここ数年で1番安らげる時間だった。

毎年恒例の年越し蕎麦は、昔のようにカップ麺だった。蕎麦よりうどんの方が好きだったので、両親がそばを食べている中、私は年越しには1人うどんを食べていた。子どもの頃は、私が小さいサイズの赤いきつねで、両親は普通サイズの緑のたぬきだった。しかし、今回、机に置いてあったのは、1つの普通サイズの赤いきつねと、2つの小さい緑のたぬきであった。なんとも言えない感情になった。


三ヶ日を家族で過ごして、そして、今日4日に家に帰る。実家を出るのが少し名残惜しかった。


電車に乗って、だんだん景色が懐かしいものから見慣れたものに変わっていく。日常に戻っていく。ふと、別れ際の母さんの言葉が思い出された。


“いつでも帰っていいからね。待ってるから。……それに、私も父さんも帰って来てくれると嬉しいから”


両親は私に会えると嬉しいらしい。

私は、過去の自分を悔やんだ。

もっと実家に帰っていれば良かった。

もっと両親のことも考えたほうがよかった。

いまさら、何を思っても遅いのに。


いつでも会えると思っていた。でも、違った。時間は確実に流れているということを痛いほどに感じた。人はいつかは老いて死ぬ。ずっと続くことなんてないということを忘れてはいけない。あと何回会えるのだろうか。年に最低1回は必ず帰ろうと決意した。

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しあわせ ネオン @neon_

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