第29話 初デートです。初………。
あれから公園をブラブラして、観覧車に乗った。
観覧車のテッペンで初キス……。憧れのシチュエーション。期待がなかったかと言われれば、ありまくりだった。
だってファーストキスだよ。
大好きな吾妻君としたいに決まってる。まだ付き合って二ヶ月弱。やっと初デートを果たした私達にはまだ早い?
観覧車は凄くゆっくりと上に上がっていき、右に○○左に△△等と風景の説明が流れる。遠くには山まで見えて、かなり高くまで上がったのがわかる。私達は手を繋いだままだから、並んで座っていた。
前にも後ろにも他の観覧車が見えなくなって、自分達の乗っている観覧車がテッペンに到着したのがわかる。
吾妻君が私の手を引き寄せ、私のおでこが固い吾妻君の胸に触れた。背中に手が回り、吾妻君の匂いに包まれる。
抱き締められてる!!
夏服で布地が薄いせいか、吾妻君の熱が、ドクドク響く心音がはっきりと伝わってくる。私もおずおずと吾妻君の背中に手を回そうとしたが、厚みのある吾妻君の身体の半分も届かなかった。
顔を上に向けないと、キスはできないよね? どの角度? 目は閉じてるべき? それとって期待満々に見られない? というか、その角度でキス待ち顔って、顎突き上げて不細工に見えるんじゃない? なんか緊張して唇までカサカサな気がする。 カサついた唇でファーストキスとか、女子力マイナスなんじゃ?
抱き寄せ方とか、吾妻君たら自然過ぎるし。今までもこんなこといっぱいしてきたのかな? もしかしてテッペンチューとかしまくりだった? 彼女いたことなくても、デートなんか沢山しただろうし、経験だって豊富そうだし。
色んなことをグルグル考え過ぎた。
「伊藤……」
「ひ……ひゃい! 」
思わず目を見開いて吾妻君を見上げてしまった。しかも、緊張し過ぎて返事も変だし。
「下りるぞ」
「え……ッ」
気がついたら観覧車は地面まであとすぐのところまで来ており、前の観覧車の家族が観覧車から下りていた。
「あれ……? え……ッ? もう……?」
吐息がフッと弛んだのを感じ、見ると吾妻君のいつも真っ直ぐ引き締められている唇がわずかに上がっていた。
吾妻君が笑った?!!!
あまりのレア度具合にポカンと吾妻君を見上げていると、おでこに吾妻君の唇がかすった……気がする。ほんのコンマ一秒。熱もわからないくらいの接触だった。
「お疲れ様でしたァッ! お足元にお気をつけてお下り下さい」
元気なお姉さんの声に飛び上がるように立ち上がってしまう。
「あ、吾妻君、ついたって! 」
もちろん吾妻君にだって聞こえている筈なのに、私はわざわざ大きな声で言い、繋いだいた手をグイグイ引っ張った。
「またのご来場お待ちしております」
「あ、ありがとうございました!」
見た? 見たよね? 吾妻君、デコチューしてくれましたよね? 私の気のせいじゃないよね?!
そんなこと係のお姉さんに聞ける訳もなく、吾妻君の手を引っ張っていつもならあり得ない速度で歩く。すでに私は小走りだ。
「伊藤? 」
とりあえず人目の少ない木陰までくると、私は勢い良く吾妻君に飛び付いた。
「伊藤?! 」
驚いたような吾妻君の声に、吾妻君の背中に両手を回す。ギューギュー力を込めるけれど、多分吾妻君にしたら大した力じゃないんだろう。私が落ち着くようにか、頭をゆっくりと撫でてくれる。
「どうした? 」
「恥ずかしかっただけだから! 吾妻君に抱き締めて貰って、嬉しくて、でも色んなこと考えてたらいつの間にか下についてて。おでこにチューも嬉しかったのに、パニックになってよくわからなくて」
すでに今がパニックだ。
私はおでこをグリグリと吾妻君の胸に押し付ける。
「あ~ッ、うん、わかった。大丈夫。大丈夫だから落ち着いて」
「吾妻君、私、吾妻君にドキドキし過ぎて心臓がもたないよーッ!観覧車のテッペンでギュッとしてくれるとか、吾妻君がイケメン過ぎて辛い! 慣れてるの?! そいいうこといっぱいしてきた? 私、デコチューでもテンパってるのに」
「慣れてない。伊藤が初めての彼女だし、デートだって初めてだ」
「……本当? 」
私はおでこを吾妻君から離して見上げる。吾妻君は木に寄りかかるようにして少ししゃがんでくれた。それでも身長差は埋まらなかったけれど、距離はグンと縮まる。
「他の娘にはしたことない? 」
「ある訳ない」
「デコチューも? 」
「ああ」
吾妻君がもっと屈んで、私のおでこに唇を寄せた。さっきよりしっかりと唇を感じる。薄いけど温かくて柔らかい感触が押し当てられ、私は自然と瞼を閉じた。
一度おでこから唇が離れると、今度はその瞼に吾妻君の唇が落ちてくる。右の瞼、左の瞼、鼻の頭とキスが移動する。頬を唇で食まれたのか、湿った感触とチュッという音が鳴る。唇の真横だ。下手したら唇の端に少しかかったかもしれない。
私はその音と感触が恥ずかしくて、ギュッと目を瞑ると吾妻君にさらに強くしがみついてしまった。
キスして欲しくなかった訳じゃない。というか、するなら絶対に吾妻君じゃなきゃ嫌だ。でも、凄く恥ずかしかったんだよ。恥ずかしくて恥ずかしくて、でも吾妻君から離れたくなくて。
吾妻君は続きをするでもなく、私が落ち着くまで抱き締めてくれていた。
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