第12話 新入生歓迎ハイク3
一・二年生でBBQの支度が終わったお昼前、三・ 四年生とOBが続々と集まってきた。
新入生歓迎……じゃないよね?
二年生監督の元、一年生が朝も早くから労働してたんだもん。一年生ってどこでもこんな扱いだし、特に文句はない……というか、今日この集まりがあったおかげで、吾妻君という素敵な彼氏ができたんだから、感謝しかないんだけどね。
一年女子は焼き係とアルコール作る係。男子は接待係で先輩やOBの間を走り回っている。
私と佳苗ちゃんともう一人の女子はアルコール係だ。ビールをつぐくらいはできるけど、酎ハイ作ったりは割合が難しい。飲んだことないから、薄めだ濃いめだ言われても訳がわからない。
「飯食ってる? 」
「吾妻君! 」
先輩達の注文をとってきたんだろう吾妻君が、私達の前にお肉やら野菜やらを盛ったお皿を置いてくれた。
「修斗、珍しく気が利くじゃん」
さっきからお腹すいたと騒いでいた佳苗ちゃんが、吾妻君の背中をバシバシ叩いて褒め称え(?)る。
「ジュース四人前頼める? あっちに持って行くから、もし食べたいのがあればまた持ってくるよ」
「私、たっかい肉! 」
「相変わらず佳苗は肉食だな。伊藤は? 」
少し胸がズキンとする。
佳苗ちゃんとは幼馴染みだし、名前呼びなのはしょうがないけど、彼女(なったばかりだけど)の私が名字呼びなのにな……。
「私はこれで足りるかな。ありがとね、吾妻君」
私がジュースをついでお盆ごと吾妻君に渡すと、安定感抜群の吾妻君は大股で歩いて行ってしまう。
焼き係の女子に飲み物運んであげたんだ。優しいな、吾妻君。吾妻君の魅力に、他の女子がメロメロにならないといいんだけど。
私は背伸びをしながら、吾妻君のことを目で追いかけた。
「修斗のこと、気になりまくりだね」
「だって、吾妻君カッコいいから、他の女の子とかに優しくしてると心配で」
「あれ? 幻聴が聞こえたよ。修斗がカッコいい? あいつのどこに心配する要素があるの? 」
ビックリしたような表情の佳苗ちゃんに、私はプーッと頬を膨らませる。
「背だって高いし、勉強だってできるみたいだし、顔だって男らしくて精悍じゃん。ちょっと目付きがきついけど、性格が優しいから怖い感じじゃないし。がっしりした体型も、逞しくて素敵だよ」
「ウワッ、痘痕も靨」
「佳苗ちゃん! もう!! 佳苗ちゃんは吾妻君のこと昔から知ってるから普通に見えちゃうだけで、吾妻君はカッコいいよ! 皆惚れちゃうレベルだからね」
そりゃ、少しは恋愛フィルターがかかってるとは思うよ。でも、そうじゃなくても吾妻君はモテ要素ありまくりでしょうに。
「皆惚れちゃうって、どう見ても怯えてるけどな」
「誰が誰に惚れちゃうの? 」
吾妻君ばかり見ていたら、いつの間にかお酒を頼みに先輩(OBかもだけど)が二人、目の前に立っていた。すでにお酒が回っているのか、顔を赤くしている。
「すみません、お酒ですか? 何がよろしいでしょうか? 」
「君達一年でしょ? 小さくて可愛いねぇ。本当に大学生? 君なんか、中学生くらいにしか見えないよ」
のっけから失礼なのは、この人の性格か、お酒に酔っぱらっているせいか。
酔っぱらいにまともに話してもしょうがないから、とりあえず笑顔で再度注文をとる。
「ウワッ! マジで可愛いじゃん。そのスマイル0円ですってか。おじさん、お持ち帰りしたい! 」
「三田先輩、後輩にからまないでくださいよ」
「OB会はおばさんばっかだし、大学のイベントに参加しないと、現役女子大生とお知り合いになれないんだよ〰️! 」
ウォーッ! と叫ぶ先輩を宥めるように、隣にいた少し小太りで温和そうな先輩が背中をさする。
「ごめんねぇ。この人、三年前に卒業したOB。一応部長してたんだよ。こんなんだけどね。僕は今年度の部長ね。三年の前園です」
「一年の東です」
「同じく佐野です」
「伊藤です」
「あ、君が伊藤の従姉妹? 」
私が思わず嫌そうな表情をすると、その雰囲気をくんでくれたのか、前園先輩はウンウンと頷いた。
「うん、全然似てないね。似てなくて良かったよ」
武ちゃんも歓迎ハイクに参加しているようだけど、OBへの挨拶回りが忙しいらしく、私にからみには来ていなかった。できれば疎遠でいたいから、最後まで話しかけてこないで欲しい。
「ねぇねぇ、伊藤ちゃん。伊藤ちゃんって彼氏いるの? なんかいなさそうだよね。ってかいないでしょ? 」
三田先輩が前のめりで聞いてくるから、ついのけ反ってしまうと、後ろ頭がコツンと固い物体に当たった。
「セクハラですよ、先輩」
穏やかな低い声に、私の顔がパッと明るくなる。
「吾妻君! 」
「か~わ~え~え~」
吾妻君に向けた私の笑顔を見て、三田先輩の顔面がデレデレ総崩れだ。
自分で言うの嫌だけど、この人ロリコン?! いくら私を気に入っても、実際の年齢じゃロリコンにはならないけどね!
私は吾妻君の後ろにサッと隠れ、その腕をしっかり掴む。
「何、ずいぶんゴツイのが出てきたな。俺は小さくて可愛いのが好きなんよ」
「三田先輩、こいつも一年っす。ほら、自己紹介」
「一年、吾妻っす」
「あれ? こっちのちっこい彼女もアズマじゃなかった? 」
「私はヒガシの東です。こいつはワガツマの吾妻。あと、莉奈……伊藤さんの彼氏ですよ」
「エーッ!! 伊藤ちゃんの彼氏?! ダメ、絶対ダメ! お父さんは許可しません」
「先輩の許可はいらないんじゃないかな。で、何飲みます? 」
佳苗ちゃんは三田先輩をサラリとかわし、飲み物の準備をする。三田先輩はまだワアワア叫んでいるけど、前園先輩と会話をしだす。
「ビール。缶のままでいいよ。二つね。もう、先輩! 耳元で叫ばないで下さいよ。で、東ちゃんも彼氏はいるの? 」
「はい。二年になる彼氏がいますね」
「長いねぇ。佐野ちゃんは? 」
「私は絶賛募集中です」
「あ、なら僕なんかどう? 」
「遠慮しときまーす」
「ざんねーん。そうだ、先輩達もそろそろ食事も落ち着いた頃だから、君達も適当に食事食べなね。じゃあねぇ」
軽い会話をしながらビールを二本渡すと、まだギャーギャー言う三田先輩を引きずって前園先輩は手を振りながら去っていく。
「莉奈、これ持ってあっちで修斗と食べてくれば? 」
「でも、まだ飲み物は取りに来るだろうし」
「伊藤さん、こっちは大丈夫だよ。彼氏? と食べといでよ」
佐野さんも言ってくれて、私は吾妻君を見上げる。
「行こ」
吾妻君は、お盆に食べ物の乗ったお皿とジュースを二本のせて、私に手を差し出した。
エッ? これって繋いでもいい感じ? 男の子と手を繋ぐのも初めてなんですけど。
なんて、悩んだのは0,1秒もなかった。私は即座に吾妻君の手を握り、ギュッと力を入れる。
今日は吾妻君とお付き合いを始めた記念日。プラス、初めて手を繋いだ記念日です!
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