その後の二人


 それから一ヶ月後、

 どうしても二人の関係が気になっていた僕は

 人気のない放課後を狙い、辻川先生に尋ねてみた。


 野次馬精神と思われるかもしれないが、

 自分が少しでも関与したことだったため、

 気にならない方が不思議なくらいのことだ。



「先生、深津さんとは、その後どうなりましたか?」


「どうって、何のこと? 深津は大事な友人の一人だよ」



 はぐらかしているように聞こえる言葉なのに、

 彼の目は至って真剣そのものだった。



「じゃあ、質問を変えます。

 先生は、深津さんのことは好きですか?」



 先生の眉がピクリと反応し、少しだけ嫌な顔を見せ、

 またすぐに作り笑いを浮かべる。



「佐藤の質問の意図が分からないから、両方の意味で答えるよ。

 深津のことは好きだよ、でもそれは友人としてだ。

 恋とかそういう意味なら、

 深津のことはあまり好きじゃない。

 嫌いに近いかもしれないな」



 僕は先生のあまりに淡泊で

 冷血な受け答えに頭に血が上ってしまった。



「だったら、どうし――」


「でも、それだけじゃない」



 僕の怒りは冷血に見えた彼の、

 感情的な彼の声によって制された。



「深津は、俺に恋をしているときは

 猪突猛進で周りが見えないタイプだった。


 深津はさ、俺を好きになるとダメになるんだよ。

 その証拠に、俺がいなくなったら深津は成功した。

 ついでに、俺は俺を好きな深津よりも、

 俺なんか見ず何かに打ち込んでいるときの

 深津が好きなんだ。


 それにさ、恋愛対象としてより、

 友人として接する深津の方が、一緒にいて楽しいよ。

 だから、深津と俺が両思いになる日は来ない。


 しかも、この間なんて、

 真逆のタイプの人によく話しかけられるって

 相談してきてさ、こういう距離が似合ってるんだよ」



 少し寂しそうな面持ちで彼は語った。


 また、別日。深津さんが店に来ていた。

 僕は性懲りもなく、彼女にも同じ話をする。



「二人はどんな関係なんですか?」



 彼女はにこっと笑って、答えてくれる。



「親しい友人の一人だよ」


「辻川先生のことは好きですか?」



 彼女はきょとんとした表情で僕を見ると、

 穏やかな笑みを見せて答えてくれる。



「先輩のことは好きだよ。でも、それでいいの。

 どんな形でも先輩を思い続けられたら、それで満足。

 恋をちゃんと終わらせられたから、

 新しい恋に進めるんだよ。

 最近、先輩のことをあまり考えなくなったの。

 だから、心配しなくても大丈夫だよ。

 君が聴きたかったことって、そういうことでしょ?」



 彼女は最後に茶目っ気たっぷりな笑顔を

 僕に見せてくれた。


 僕の思惑にまで気づいて、

 そんなことまで言わせて本当にごめんなさい。


 

 ただ、ふと考えてしまうのは意味は違っていても、

 二人はお互いのことを思い合っているということ。



 二人が望むなら、この形で構わないのだろう。



 それでも願わくば、二人が幸せにならんことを。

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