ればぶるっ!?

御影

プロローグ

 雨降る夜空の元で街を疾走する二つの大きな足音が響き渡る。一人の男が逃げ、もう一人の男ががそれを追いかける光景がそこにあった。逃げている男もそれを追いかける男も若い見た目をしており、前者はお金が無いのかボロボロのTシャツに汚れたズボンを履いたとてもみすぼらしい格好で、後者は金髪の頭で上下に黒いジャージを着ていた。両者とも必死な表情で街中を走っていた。

「おい!もういい加減にしろよ!」

 追いかけている方の男は叫ぶが追い返られている方はというとわき目も振らずに夢中で走り続けていた。

 しかし、体力面では前者の方が上らしくあっという間に二人の距離は縮まっていった。

「おらあああああ」

 そしてついにボロボロのTシャツを着た男は抱きかかえられるように立ったままガッチリと捕まってしまった。

「観念しろゴラ」

「ひぃ、勘弁してください」

 捕まった男はまるで駄々っ子のように暴れて拘束を解こうとしたが、抱きかかえるような捕まえ方から両腕を固定する体制に移られてしまいそれは叶わなかった。

「くっそ、暴れんな」

「うああああああああああ、誰か助けてくれええええええ」

「お前ふざけんじゃねぇ、そもそもお前が借りた金を返さないのが悪いんだろうが」

「さっきから言ってるじゃないですか、お金は無いって」

「だから強制労働だって言ってるだろうが」

「それだけは嫌だあああああああ」

 どうやら捕まっている方の男は借金を抱えているらしい。みすぼらしい格好なのもお金がないからなのだろう。

「ほら、これからお前には利子含めて200万円分働いてもらうぞ」

「そ、そんな、利子が高すぎますよ、暴利ですよ~」

「ふざけんなよ!お前が返さなきゃいけない金の中には利子が5%くらいしかないわ!それ以上下げられるわけないだろうが」

「そこをなんとかお願いしますよ」

「俺は只の借金取りだから何もできねぇよ。もはやお前が借りた金額考えれば5%なんで誤差でしかないわ、てか何でこんなに借金を抱えることになったんだよ」

「そ、それが・・・」

 ボロボロのTシャツを着た男は何か言いにくそうな様子である。そして恐る恐るその理由を口にした。

「いやぁ、ちょっとパチンコでね。負けが込んでしまいましてね」

「お前・・・」

 金髪の男は肩を震わせながら思いっきり息を吸い込んだ。

「分かる!!」

「え・・・?」

「分かるぞお前の気持ち!!パチンコはめっちゃ面白いもんな。レバブルの瞬間なんか脳汁が滅茶苦茶でるよな」

「そ、そうなんですよ。でも外した時のガッカリ感が半端ない」

「それな!もうレバブルは確定にしろよって思うわ。そして腹立つのは赤保留で熱い演出が連続した後身構えてると最後のカットインが緑背景になった時な。なんでそこで緑なんだよって思うわ」

「分かります分かります!ここまで順調だったのに最後が緑カットインだと全然話が変わってきますよね」

 何故か二人はそのまましばらくパチンコに関して語った。

「ふぃ、こんな話込んだのは久しぶりだなぁ」

「私もですよ。今年は二人とも収支がプラスになることを願いましょう」

「そうだな!まぁお前はこれから強制労働だからパチンコ処じゃないけどね」

「うわあああああああ、嫌だああああああああ」

「お前暴れんじゃねぇコラ」

 忘れかけていた現実を突きつけられて捕まっている男は絶望に満ちた顔になる。

「大丈夫だから、仕事の内容は誰でもできるようなことだから安心しろ」

「そ、そうなんですか?例えば?」

「ものを運ぶのを手伝ったり職人の助手をしたりだ」

「そ、そうなんですか・・・・」

「そんな命がかかったような仕事はさせねぇから安心しろ」

「なら・・・ちょっと安心です・・・」

「それじゃあ一緒に来るな?」

「はい・・・・」

 その後二人は軽自動車に乗り込み、金髪男の運転で仕事現場に向かった。その最中も二人はパチンコの話題で盛り上がった。借金をした方の男は緊張と警戒が解けたらしく表情は柔らかくなっていた。

 そして仕事現場に到着。二人は2階建ての建物の外階段を登っていった。建物の外見はかなり安っぽく。鉄製の外階段は錆びている。


「騙したなあああああああああああああああ」

 職場に男の叫び声が響き渡った。

「別に嘘はついてねぇだろ。仕事内容については言ったことそのままだし」

「こんなゴロツキばかりなんて聞いてませんよ。どこか別の場所でお願いします」

「無理だよそんなの」

「そこをなんとか」

「無理なもんは無理!そもそも借金をちゃんと返せていればこんなことにならなかったんだから仕方が無いだろ」

「そんな~、これから真面目に働いて返済しますから」

「パチンカスの返済しますほど信用できないものはないだろ」

 金髪の男は必死の訴えを一蹴した。

「仕事内容は物を運んだり穴を掘ったりだ。ゴロツキの人が多いが仕事は簡単だから安心してくれ」

「ほ、ほんとうですか・・・」

「まぁ、ちょっと軽めの刑務所だと思ってくれてればいい」

「今の発言で絶望のどん底に落ちましたよ。もう嫌だ・・・」

「それじゃ!せいぜい頑張ってくれ」

 金髪の男は借金まみれの男を置き去りにして建物を後にした。あのまま放置しても職員が勝手に対応してくれるからだ。

 軽自動車の隣まで行くと、そこで体を伸ばした。

「あー、今日もいい仕事したなぁ。んじゃ、パチンコでもやりに行きますかね」

 彼の名は園城麒麟。借金の回収と、滞納者を強制労働施設に送ることを仕事にしているフリーの借金取りだ。消費者金融から依頼されれば例え火の中水の中でさえ回収しに行くのである。

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