10 バイオロイドとは

「人口統計……それが、何か」


 二人、ベッドの上、生まれたままの姿で見つめあう。しかしそれは愛を語らうためではなく――


「ファルは知ってた? かつて二〇〇億まで達した人間が今、地球に何人住んでいるか」


「はい、四〇億と聞いています」


「人間がネオアースを目指した三百年前、大規模な惑星間戦争があったにもかかわらず、地球に人間が二〇〇億いたんだよ。それが、この三百年で、五分の一になった。大規模な戦争もなかったというのに」


「でもそれは、人間が太陽系外へ出ていったということもありますし、バイオロイドが人間に奉仕することにより、人間の生活が豊かになり、それにより新しい生活スタイルが確立したというのも。生活が豊かになると、人口増加率は下がる傾向にあります」


「でも、ネオアースに移民した人間は総計でも百万に満たないよ。他の地球型惑星もそう。三百年前、最初のバイオロイドが月で生まれた。そこから三百年、今地球には五億のバイオロイドがいる」


「それが、何か」


「ネオアース全体で、人間は今、八百万。でも、四〇年前は二百万だった。二百年前にはすでに二百万いたというのに。四十年しかたってないのに、四倍に増えてるんだよ、ファル。ネオアースの生活は豊かだ。地球とそんなに変わらないって聞くよ。じゃあ、なぜ人間は増えたの? 百年以上ほとんど変わらなかった人口が、なぜ急に増えだしたの? なぜ今も増え続けているの?」


「それは……」


「地球ではね、人間とバイオロイドは自由に恋愛ができるし、結婚もできるんだって。もちろん、同性同士でも。羨ましいよね、ファル」


 フユがファランヴェールの顔を引き寄せ、唇を合わせる。しばらくの間、キスを交わした後、フユは少しだけ顔を離した。


「ネオアースでは、禁止されたこと。四十年前にね」


 囁くような声。その吐息が、ファランヴェールにかかる。


「ウォーレスはマスターに、一体何を吹き込んだのですか」


「部長はデータを見せてくれただけだよ。ただし、本当の資料。公表されている偽のデータではない、真実。このデータをどう見るかは、僕自身で考えろって」


「その、ウォーレスが見せたデータが間違っている可能性は」


「カルディナはね、僕はお姉さんしか会ったことないけど、まだ妹と弟が二人ずついるんだって。クールーンも六人兄弟だって言ってた。僕は一人っ子なのにね」


「そんな、ネオアースの人口が爆発的に増えているなんて、私は聞いたことがありません」


「もちろん、ネオアース市民にはそんなことは公表されない。公表されないまま、ただ『バイオロイドの人権を守るため』と称して色々な法律を作ってる。実際には、バイオロイドの権利をどんどん制限していってるのにね」


「それは……」


「でもそれは、もしかしたら、人間を減らさないために、誰かがしていることなのかも」


 そのフユの言葉を聞いて、ファランヴェールが少し笑って見せる。


「マスター、それは考えすぎでしょう」


 しかしフユは、笑い返すことはしなかった。


「そうだね。バイオロイドが、人間を減らすために作られたなんて、誇大妄想もいいところだよね」

「マスター……」

「ましてや、父さんが、今よりももっと『効果的』なバイオロイドを作ろうとしていただなんて、そんな訳ないよね。その結果生まれたヘイゼルが、人間の恋人ができないように僕を縛っているだなんて」


 フユの指が、ファランヴェールの背中を這う。


「考えすぎだよね」


 そのままフユは強い力でファランヴェールを抱きしめた。


「さあ、ファル。僕を愛してよ。何もかも考えられなくなるくらい、いっぱい、いっぱい、僕を愛してよ、ねえ、ファル」

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