第六話 真実の判明
リビングには探偵三人と容疑者三人に斉田刑事が集まっている。それぞれの捜査は中断して、私の推理を聞いてもらうことにした。
「名探偵、ほんとに凶器が何なのか分かったのか?」
斉田刑事は、さっきまでほとんど進展していなかったのに、私が急に凶器が判明したと言って半信半疑なようだ
。
「まぁ、まず名探偵の話を聞こうじゃあないか」
「当たってるとは思わないけど~」
二人の探偵が別々のリアクションをとったが、とりあえず私は自分の考えを述べることにした。
「まず凶器の条件は、成人男性の後頭部をへこますほどの威力を持つこと、そして円状の物体であること。これは間違いありませんね?」
私は鑑識の資料を持っている斉田刑事に尋ねると、「間違いない」と答えてくれた。
「そして、これは条件というより最大の謎でもある、いくら探しても見つからないという点」
「だから絶対水だって~。それかビーチボールだって」
「それは否定されたんだろ?」
一党さんは先ほど殺害現場へ行った際に、才色がどのような推理をしたか、斉田刑事に聞いていたようだ。そして私が否定したことも。
「はい。けれど、あながち間違いじゃなかったんです。認めたくはないですが、才色の直感がヒントになりました」
空想探偵の才色は、あの時点で凶器が何なのか、その一歩手前まで来ていたのだ。その一歩を私が代わりに踏み出したというわけだ。
「凶器に使われたのはこれです」
私は周りに注目さる中、リビングに置きっぱなしになっていたあるものを手に取った。
「それって、戻し忘れてたケースじゃないですか」
真っ先に反応したのは新垣だった。二階で私が彼女に質問したからだろう。このケースが片付けられていない、ということも凶器にたどり着くヒントになった。
「そうです。ですが、このケースが凶器だった時の中身はビーチボールではありません」
私はケースからビーチボールを取り出し、そのまま才色の方に目掛けて放物線を描くように放り投げた。才色は反射的にボールを見事につかんだ。ただ邪魔だったから渡しただけだが、才色はまじまじと眺めている。
もしかしたら、さすがにこれでは人を殺せないと実感したのかもしれない。
「凶器だった時? つまり、ビーチボールではない別の何かが入ってたということか」
一党さんはどうやら、私と同じ答えにたどり着いたようだった。それに比べて才色はまだ感づいていなかった。
「そうなんです。灰城さんが殺害された際、このケースに入っていたものは……」
私が言葉を溜めていると、全員の視線が集まった。本当はすんなりと発表したいのだが、それがあまりにも突飛なもののため、言葉がつっかえた。
「それは、スイカです」
「スイカ⁉」
一同が一斉に声を上げた。落ち着いていたのは行った張本人の私と一党さんだけだった。私もいまだに信じがたいぐらいだ。
まさか、食べ物が殺人の道具に使われてしまうとは思いもしなかった。
「ちょ、ちょっと待てよ名探偵。何が何でも無理がないか? 才色さんじゃあるまいし、お前もどっか頭が……」
そう言いかけてすぐに斉田は黙った。隣から才色の冷たく重みのある視線を感じたからだ。賢明な判断だと言えるだろう。女は怒らせると恐ろしいものだ。
「探偵さん、確かにあのスイカはかなり重かったですけど、人を殺すことなんてできるんですか?」
山井が疑問を持つのは当然だ。スイカ割りというのがあるが、あれは棒でスイカを割る行為だ。決してスイカで人を殴るものではない。だから、スイカ=凶器とはなりにくい。
「大玉スイカとなると重量は問題はないでしょう。球状のもなので後頭部のへこみとも一致します。問題はそれをどうやって、灰城さんの頭にぶつけるか。そこで犯人はこれを使用したんです」
私は持っていたケースを、軽く上へと上昇させて強調させた。灰城健の身長は173㎝と平均よりも少し高いぐらいだ。彼の後頭部にスイカをぶつけるには、ビーチボールケースを上手く使用すれば可能だ。
「まず、スイカをビニール袋に入れます。これは衝撃を受けて割れた際にケースの中が汚れないためです。そして、それをケースへ収納。ケースをめいいっぱい広げれば、入らなくはないと思われます」
「それで、それをどう使ったの?」
ここまでいってまだ分からないのかと、才色には呆れっぱなしである。けれど、彼女のおかげでヒントを貰えたので、強くは当たれない。
「ケースには肩にかけるように紐が取り付けられています。これを両手で掴めば、肩まで持ち上げることは可能です」
ケースには持ちやすいように紐がついている。正式にはショルダーストラップというらしい。私は中身の入っていないケースの紐を持ち、肩のあたりまで持っていく。
これが実際にスイカが入っていて丸まっている状態なら、私がハンマーを両手で持ち上げて振りかぶっているように見えることだろう。
「こうして、反動を使って勢いよく振り下ろせば、灰城さんの後頭部まで命中したのではないでしょうか。そして、このケースを利用したのにはもう一つ理由があると思われます」
「なによ、その理由って。殺害以外にも使い道があったってこと?」
「そう、凶器として成立されることが一つ目の理由だとしたら、二つ目は灰城さんに凶器だということを悟らせないためだ」
これを聞いて、新垣が何かに気がついた反応を見せた。
「新垣さんに聞いたところ、ケースは元々灰城さんが使用していた部屋の押し入れにしまわれていました。しかし、海に持ち出したために、それはリビングに置きっぱなしとなりました。ここで才色に質問だ。その状態で部屋に、中身の膨らんだボールケースを誰かが持ってきたら、お前はどう思う?」
ここらへんで才色に理解させておかないと、彼女だけ置いてけぼりになる危険があったので、彼女自身に考えてもらうことにした。
「どう思うって、押し入れにないんだから、ケースを届けに来てくれたと思うんじゃないの」
「そうだよな。じゃあ、これがそのままの状態のスイカを夜遅くに持ってきたとしら、どう思う?」
「キッチンでもないのに、なんでなんだろうとは思うかな。あ、そっか。ケースに入れとけばスイカを持ってきても怪しまれないのか」
「正解」
「やった! やっぱ私って天才」
まだ推理の途中だっていううのに、才色は無邪気に喜んだ。こいつを相手にしていると、小学校の先生になった気分になる。
「かなり無茶な推理だが、不可能とは言い切れないな。実際、名探偵が提示した凶器の条件にはすべて当てはまっているわけだ」
「自分でも本当に実行なのかは疑問ではあります。けれど、これが真実だと確信してしまった。そして、スイカが凶器に使われたとすれば、犯人はただ一人です」
もう一度全員が私に注目した。もしかしたら、すでに気がついている者もいるかもしれない。あるいは、真実を知りたくないものもしれない。
「犯人は……山井誠さん、あなたしかいない」
一瞬で視線が山井に集まる。当の本人は、私の言葉に納得していない様子だ。
「お、俺が健を殺すわけないでしょ」
「そうですよ。誠君が殺人何て……」
新垣もまた、私の言葉を信じようとはしなかった。
「誠! あんたが健を、健を殺したの⁉」
黙り込んでいた新垣が山井を怒鳴った。恋人を殺された憎しみ、共に裏切られた悲しさ、あらゆるものが新垣を追い詰めているようだ。
「比嘉さん、とりあえず落ち着きましょう。まずは、山井さんの話を聞かないことには」
犯人の名前が宣言されたことにより、場が荒れだした。それを見かねた斉田刑事が、上手く話を戻してくれた。
「探偵さん、どうして俺が犯人なんですか?」
感情の高ぶっている比嘉に対し、山井の方は驚きながらも冷静さを保っていた。彼が聞く耳を持っているなら、順序良く説明することができる。
私は彼が犯人である理由を説明し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます