【ご相談】息子がなろう系小説を読み漁っているのですが
@gaganpo
第1話 自己紹介
私の名前は若葉七海。しがない一児の母である。
仕事をしつつの育児に悪戦苦闘しながらも、夫との分担はできており関係は良好。
順風満帆。何不自由ない人生を歩んでいる……と、言いたいところだが、最近1つ、大きな悩みができてしまった。
まだ憶測でしかなく、確信には至っていない。いや確信に至りたくはないだけかも知れないのだが、どうやら。
〝どうやら私は、息子の教育を少しばかり間違えたらしい〟
「なんでたっくんに砂かけたりしたの?」
幼稚園の先生に怒られて不満気な息子に対し、できる限り優しい声で私は聞く。
頭ごなしに怒っても何も話してくれないことは、息子を育てたこの六年間の経験から知っていた。
「だって、たっくんが悪口言ってくるから……」
「たっくんとケンカして?」
「粉塵爆発させてやろうって」
「たっくん木っ端微塵になるよ!?」
粉塵爆発。宙に舞った粉に火が付くと爆発する現象である。小麦粉で起こる描写が多いが、本当に小麦粉で起こるかは知らない。というか詳しいことはきっと誰も知らないし、見たこともない。真相は闇の中である。
「多分砂場の砂じゃ粒が大きすぎて粉塵爆発は起こらなんじゃないかなぁ」
起きるとしてもどうやって火を付けるつもりだったんだ息子よ。
なぜ小学校にも通い始めていない幼い息子がこんな言葉を知っているのか?
その理由は単純。私の知らぬ間になろう系小説を読み漁っていたからである。
生まれながらの地頭の良さを悪用し、この歳にしてなろうの沼にハマってしまった息子。口調は日に日におかしくなり、現代社会には必要のない知識ばかりが増えていく一方......
保護者としての責任を感じざるを得ない。
「でも悪口言ってきたからって暴力に頼っちゃダメだよね?」
「……」
息子が不服そうに顔を背ける。
これはいけない。
母親としてしっかり叱らなければならないと私は固く決意する。
人としてやってはいけないことを注意し、正しい方向に導く。これは母親である私の責任だ。
息子がなろう系を読んでいるとかいないとか、そんなことは関係ない。
一組の母親と息子。ただそれだけ。そこになろう系が入る隙なんてものはない。
私の言葉を聞こうとしない息子。
そんな彼に対し私は、私自身の言葉を届けなければならない。
そして言い聞かせる必要があるのだ。
私は彼に届かせるための言葉を慎重に選び、そして口にする。
「他の人が嫌がることをするのはかっこよくないよ!」
「……」
「他人が嫌がることをすると、自分に返ってきちゃうんだよ?」
「……」
「えっと、自分が嫌がることは他人にしちゃいけないんだよ」
「……」
「……」
「……」
「転生者は目立たないように、できるだけ戦闘じゃなくて話し合いで解決するんだよ!」
「……‼ 分かった!」
なろう系に助けられる私は、なんて弱い母親なんだろうか。
息子がお風呂に入っている内に洗濯機を回そうと洗濯物の仕分けを始める。
『明日たっくんに謝ってくる!』
息子がお風呂に消える前に残した言葉は限りなく正解に近いはずなのだが、また一歩教育を間違えた気がしてならない。
〝やっぱりちゃんと叱らなきゃダメかな?〟
そんなことを考えつつも仕分けを進めていると、
〝ん?〟
息子の半ズボン、その両ポケットがやけに重いことに気付く。
ズボンを裏返し、ころん、と音を立てて転がったのは子どもの拳くらいの大きさの石二つであった。
〝ちゃんと火花散らす方法も考えていたんだね〟
洗濯機の前には計画性のある息子を少しだけ褒めてあげようと思う、ダメな母親だけが佇んでいた。
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