第63話二人は翻弄される

 ~松浦麗奈視点~


 ゆ、由々しき事態ですっ!


 勇気を出して、水戸君に電話をしたですが……。


 電話をしてから、ようやく気づきました……。


「どっちの部屋にすればいいのっ!?」


 自分の部屋なら落ち着いて出来そうだけど……。

 片付けも必要だし、キッチンが狭いからくっつく必要もあるし……。

 それはそれで悪くないかもっ……私ったら!

 でも……ドキドキが止まらないよね。


「み、水戸君の家に行く……?」


 綺麗で片付いているし、水戸君の部屋には行きたいし……。

 キッチンも広いから教えやすいよね……密着はしないけど。

 でも、以前とは違ってお姉さんはいないし……二人っきり。

 だ、男性の部屋で二人っきり……ドキドキが止まらないよね?


「あれ? どっちにしろ……ドキドキが止まらない?」


 うぅー……もう! こんなにドキドキさせてっ!

 もう少し、ゆっくりと時間をかけたかったのに……。


「でも……このままじゃ……!」


 森島さんに宣言されちゃったし……。





 そう……ある日、朝会社に行ったら……。


「あら? 森島さん?」


 会社に着いた私ですが、それよりも早く森島さんがいました。


「おはようです、松浦係長」


「ええ、おはよう。どうかしたのかしら? 貴女がこんなに早く来るなんて」


 冷静を装ってますが、内心はドキドキですっ!

 な、何を言われるんだろう……?


「時間もないし、勿体ないので単刀直入に言いますね——水戸先輩が好きなんですか? ちなみに、私は狙っていますよ?」


「…………」


 叫ばなかった自分を褒めてあげたい……!

 でも、代わりに言葉も出てこないよぉ……!


「沈黙ですか……ですが、挑戦的な目ですね」


「えっ?」


「まあ、上司として好きと明言するのは良くないでしょうね。私とは違って責任がありますから」


「えっと……」


 なんだか、勝手に話が進んでいるわ……。


「それとも、私は眼中にないですかね? まあ、係長はオモテになるでしょうからねー」


 な、何か言わないと……!


「森島さん」


「はい、なんでしょうか?」


「会社は仕事をする場所です」


 どの口が言ってるのー!?


「相変わらず真面目ですねー。いや……そういうことですか」


「何かしら?」


 な、なんだろ?


「水戸先輩の仕事を邪魔するのは、私としてもよろしくないですねー。わかりました、会社ではあまりちょっかいはかけません。ただ、松浦係長もですよ?」


「……何のことだかわからないけど、水戸君の仕事を邪魔しないことには同意するわ」


 よくわからないけど……勝手に進んでいるわ。


「ええ、そうですねー。では、これで」


 そう言い、森島さんは去って行きました。




「ってことがあったから……」


 もたもたしてたら森島さんに……!

 小さくて可愛いし、お話も上手だし……。


「なんか、最近仲が良いし……水戸君、私には敬語だし……」


 いや、年上なのはわかっているんだけど……。

 乙女心は複雑なのです……。


「それよっ! 水戸君ったら!」


 俺は何もする気がないって……。


「さ、されちゃっても困るんだけどねっ!」


 経験ないもんっ!

 どうして良いかわからないもんっ!


「ど、どうしよう!?」


 わぁーん! 私は翻弄されっぱなしですっ!


 私は布団の中で叫んで、悶々とするのでした……。




 ◇◇◇◇◇



 ~森島恵視点~


 うーん、まいりましたねー。


 水戸先輩ってば、私の予想斜め上を行くんですから。


「ひとまず、係長に宣言をしたのは良しとして……」


 何やら様子がいつもと違ったけど……。

 まあ、好きな人のこと聞かれたら誰でもそうなるよね。

 明言はしてないけど、明らかに私の邪魔してくるし。


「私はならないけど」


 いつもそう……どこかで冷静に見ている自分がいる。

 私は慌てたり、テンパったりすることはほとんどない。


「でも……水戸先輩は、それを崩してくるんだよねー」


 それがいいのか悪いかは別として……。


「計算できないのは困るけど、少し楽しいのも事実だし……」


 色々計算して、誘い出す文句を考えていたのに。


「まさか、ケーキ一発で成功しちゃうなんて」


 流石にカップル限定ってことで、来てくれるかわからなかったけど……。


「むぅ……私よりケーキって感じだよねー」


 確かに、あんまり色気とかはないけど……。


「係長は色気すごいもんなぁ〜」


 なに、あのバスト。

 どうしてあの大きさで下がってないの?

 あの人、もうアラサーなのに。

 お尻もキュッと引き締まっているし。

 なのに腰は細いし。

 かといって不自然じゃないラインを保ってるし。


「あれは反則よね……」


 正直言って、私が男ならすぐに陥落する自信がある。


「水戸先輩はどうなんだろ?」


 私が見る限りでは、女性をそういう目で見てない気がするけど。


「私はお色気で攻める気はないしなぁ〜というか、無理だし」


 それで拒否とかされたら……もう立ち直れない。


「私の弱点だよね……」


 告白させる方だったから、自分から行くことが怖い。


「つまり、私は作戦を練る必要があるよね」


 係長みたいなお色気ではなく、私だけの武器で戦うこと。


「ひとまず、明日の昼間に電話するから……」


 それまでに色々なパターンを考えておかないと……。


 そうしないと……また、翻弄されてしまうから。


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