第52話週末の金曜日

 慣れない後輩への指導や、自分の仕事をこなす日々が続き……。


 あっという間に週末を迎えてしまう。


 そして金曜日……ついに問題が起きる。


「だから! 付け合わせって言ってんじゃん! あれって意外と手間がかかるって母ちゃん言ってたし!」


 東郷君のいうことも間違ってない。

 手間もそうだが、何にするかに迷うことがある。


「で、でも! スープって作ると時間かかるんですっ! 付け合わせなんてありきたりですっ!」


 天野さんの言うことも一理ある。

 素材である元の食材の処理もそうだが、裏ごしをしたりする必要も出てくる。

 何より、素人の方は味付けに迷うだろう。


「いえ、ここはメインかと。やはり主役ですからね。これさえ決めておけば、あとは楽になるでしょう。付け合わせなんかは、パパッと作れば良いだけですから」


 奥村君の言うこともわかる。

 メインの食材が決まっていないと、付け合わせやスープも決まらないし。

 メイン次第で、その日の料理が決まるだろう。


「三人共、白熱しすぎだ」


「水戸先輩は、どう思うんですか?」


「スープですか?」


「メインですか?」


 うわぁー……大変だ、こりゃ。

 まあ、やる気があるだけ良いのか。


「それぞれに良いところがある」


 さっき思った内容を伝える。


「あっ、そうか……」


「そ、そうですよね……」


「否定はできませんね」


「よし……それを踏まえた上で、月曜日までに考えて欲しい。もちろん、俺も月曜日には意見を持ってくる」


「「「はいっ!!!」」」


 はぁ……やり甲斐を感じるけど、めっちゃ疲れる……。





 その後金曜日の仕事を終えた俺は、真っ直ぐに家に帰り、ソファーへとダイブする。


「あぁー! 疲れたぁぁ——!!」


 人を教えるってエネルギーが必要だ……。


「意見が合わない……どうする?」


 それぞれに課題を提出をさせたのはいいが……。


「三人の意見が見事にバラバラだからなぁ……」


 自分の意見が一番だと思い込んでしまっている節がある。


「上司って大変なんだなぁ……麗奈さんや課長は凄いや」


 でも、こういうことを乗り越えていかないと……。


「チャンスを与えてもらう機会なんて早々ないことだ」


 いくら気に入ってもらっているとはいえ、当たり前だが慈善事業ではない。


「これを逃すと……次は来ないかもしれない」


 麗奈さんに釣り合うためや、自分に自信をつけるために……。


「ここを何とか乗り越えていこう」


 あぁー……でも、ちょっと休憩………。





 ん……あれ? 眩しい?


「……しまった……朝か」


 身体が痛えぇ……。


「上着を脱いだとはいえ、スーツのまま寝ちゃったか……」


 時間は……五時か……九時間も寝てたのか、そりゃ痛くなるわ。


「腹減った……が、まずはシャワーを浴びよう」


 シャワーを浴びた後、ストックしてあるレトルト食品を眺める。

 カレー、ハヤシライス、ハンバーグ、煮魚系など……。


「うーん……やはり、メインが良いかもなぁ……」


 付け合わせやスープも悪くないけど、メインがあるとこういう時は物凄く楽だ。


「例えば、子供もいない日や旦那がいない日は、こういうレトルト食品で良かったりするかも」


 どうしても家族での食事に目がいきがちだが、主婦の方だって一人で食べることもあるだろう。


「そんな時、美味しいレトルト食品があれば……うん、楽だと思う」


 よし……この意見でもって、みんなの頭を柔らかくしよう。

それで決まるなら良し。

 ただ、無理矢理には推し進めないけど。

あくまでも参考になれば良い。



 とりあえず、定番であるレトルトの銀○カレーに決めた。


「お湯で湯煎してと……福神漬けと、ワカメだな」


 カレーとワカメの相性は意外と良い。

 アクセントになるし、飽きがこない味になる。


「味噌汁もインスタントで……作り置きのサラダ……」


 最後に冷凍のご飯をレンジに入れ温める。


「これで準備完了だ。やっぱり、便利だよなぁ……」


 料理は好きだが、最近のレトルトは美味しいし。


「うーん……問題はメインを何にするかだよなぁー」




 その後、用意した食事を手早く済ませる。


「うん……洗い物も少ないし……十分くらいで用意できる」


 俺は、レトルトの有難さを再確認するのだった。


「よし、身体が痛いし……歩いてこよう」


 少し休憩したのちに、早朝の散歩に出かけることにする。


「あぁー……超気持ち良い……」


 六時過ぎくらいなので、ちょうど良い涼しさだ。

 五月の中旬くらいに散歩するのは良いな。

 暑くもなくて寒くもないし、春とは違い強風がないのも良い。


「よし……折角の機会だ。今日は、このまま遠くまで歩くとしよう」


 身体をほぐす意味でも、考えをまとめる意味でも無駄にはならない。




 そのまま歩き続け……気がつけば、以前麗奈さんに会ったスーパーに来ていた。


「ふぅ……結構歩いたな。しかし、つい最近のことなのに懐かしいな」


 ここで麗奈さんに会って……何故か食事をする流れになって……。


「こんなに生活が変わるとは思ってなかったな……」


 もちろん、いい意味で。


「あれ? 水戸君……?」


「え?」


「お、おはよぅ……ございます」


 振り返ってみると……そこには——麗奈さんがいた。



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