第29話女王の日常~松浦麗奈視点~

 ピピピッ!ピピピッ!と音が聞こえる……。


 ……と、止めないと……よし。


「んっ……朝ね……起きなきゃ……」


 私の朝は、まずはストレッチから始まる。


 正確には……前日から始まっているかな?


 会社から帰ってきたら、きっちりと化粧をとり、メンテナンスをする。


 夜の十一時前には必ず寝て、六時に起きるようにしている。


 やっぱり、七時間は寝ないといけないと思う。


 仕事や、身体にも影響が出ちゃうし……。


 み、水戸君に、おばさんとか思われたらヤダし……。


 アラサーにもなると、色々と大変なのです……。


「イタタ……身体が少し固いわね……」


 うーん……ジムに行くお金はないし……。

 ジョキングも始めようかしら……?

 ウオーキングはしてるけど……筋トレとかも。

 む、胸が垂れたらヤダもん……み、見せることあるかもだし……。


「な、何を言ってるの!?わ、私ったら……!」


 で、でもでも……お付き合いしたら、そういうことするのよね……?

 き、キスさえまだなのに……あぅぅ……想像できないよぉ〜!


「はっ!いけない!準備しなきゃ!」


 水戸君との、朝の貴重な時間が……!

 そう……私は元々、仕事のために早めに会社に行っていた。

 でも……今はそれだけじゃない。

 水戸君に挨拶をしても誰も気にしないし、人も少ないから話せることもあるし……。


「お昼ご飯は食べるようになったけど……足りないもの……」


 もっと近づきたい……でも、引かれたくない……。

 水戸君は真面目だから……迫ってくることもないし……。

 迫ってくれて良いのに……キャ——!?よ、良くないわ!


「し、心臓が持ちそうにないもん……」


 顔を洗い、下地を作る。

 敢えてキツめのメイクをすることで、男の人から避けられるようにする……。


「ほんとは、可愛いメイクとかしたいんだけど……」


 新入社員の頃は、そうだったんだけど……。

 そうすると、男の人が誘ってくるし……。

 女子からは嫌われるし……。

 ハァ……可愛いメイクがしたい……。


「まつ毛を上げて、気が強く見えるように……口紅も濃いめの赤にして……前髪が下りてると幼く見えちゃうから、気持ちセンター分けで……きっちりと」


 ……可愛い髪型もしたいなぁ……。

 ゆ、ゆるふわとか……でも、似合わないか……。

 前髪だけでも下ろしたいけど……やめておこう……。


「ゴミ出しをして……朝ご飯はコンビニで……持ち物は……よし」


 最後に、スーツに着替えて家を出る。


 よーし!今日も頑張ろう!





 会社に到着したら、モードを切り替えます。

 ……早速、嫌な顔に会ったわね。

 営業部の部長である、目黒賢治。

 年齢は、脂の乗った40代後半でやり手の人だ。

 ただ……セクハラ親父にして、嫌味な人だ。


「おやおや、今日も早いですな」


「おはようございます、目黒部長。そちらも早いですね」


「ハハ!私の部署は忙しいのでね……貴女の部署とは違って。良いですよ、貴女は……雑用しかしない部署で。どんな手を使ったのか知りませんが……上役からも気に入られて……まあ、一つしかありませんかね」


「私のことは何を言われても構いませんが……部署の悪口はいただけませんね……我々は会社を支える部署だと誇りを持って仕事をしております……訂正を——」


 私は強い意志を持って、目黒部長を睨みつけます……!

 怖いけど……負けない……!

 だって……みんな一生懸命に仕事してるもの……!


「クッ!?相変わらず、おっかない女だ。女は大人しく男に従っていれば良いものを……さっさと、結婚でもしたらどうですか?その身体を使えば……おっと、いけない。今は色々厳しい時代でしたね」


「……十分アウトだと思いますが?これは報告させて頂きますね」


「チッ!好きにしろ。俺には専務が付いているからな……では、失礼」


 そう言い残し、去って行きました……。

 結局、謝ってないし……しかも、さり気なく胸を見てたし……。

 それにしても……こ、怖かったぁ〜……でも、言ってやったわ!




 私の心は荒んでいましたが……。

 それも……どこかに吹き飛びます!


「水戸君、おはようございます」


「松浦係長、おはようございます」


 ウンウン、今日も水戸君は素敵です。

 視線も下に行かないし、しっかりと目を見てくれる。

 ……少しくらい見ても良いんですよ……?


「今日の予定は……」


 いけないいけない……水戸君は、真剣な表情で話してるんだから。

 私も、上司として答えないと。


 ……ですが、そんな私は次の瞬間——凍りつきました。

 森川さんが、水戸君にくっついていただけではなく……。

 なんと……食事まで行ったというのです……!



 そっからの記憶は曖昧です。

 ただ、機械的に仕事をこなしていたと思う。

 そして一区切りついたところで、私はトイレに行きます。


「ど、どうしよう?水戸君が……あんな可愛い子に勝てないよぉ……」


 で、でも!まだ付き合ってるとかでは……ないよね?

 水戸君は付き合ってる彼女はいないって言ってたし……。


「こ、こうなったら……今日、誘ってみよう……!」


 どうしたら男の人が喜ぶとか、好きになってもらえるかわかんないけど……。


 とりあえず——行動してみないとね!

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