第17話色々……熱い

 自分のデスクに戻ると、皆から注目される。


 そりゃ、そうだな……。

 課長と係長に呼び出されたんだからな。

 ……これって、もう話して良いことなのか?

 まあ、まだ言わない方がいいか。

 決定事項というわけではないだろうし……。




 俺の仕事が、ひと段落したタイミングを見計らって、昇が話しかけてきた。


「侑馬、なんだって?……昇進か?」


「うーん……いや、そういうのではないな。ただ、そろそろ指導をしてくれって頼まれたかな。新人さんや2年目の子達を」


「あぁーなるほどね。まあ、俺らも5年目だしなぁ。それにお前は教えるの上手いしな」


「……そうか?」


「ああ、丁寧に説明してくれるからな。俺も、よく助かってるよ」


「そうなのか……」


 全然意識してなかったな……。

 会社では機械的に仕事してきたし……。

 そうか……これから教えることになるなら、少しは動いてみるか。


「なあ、昇」


「ん?どうした?」


「今更なんだが……飲み会に参加してもいいか?」


「えぇ!?」


「熱っ!?」


「ご、ごめんなさいね!余所見しちゃって……」


 振り返ると、松浦係長が申し訳なさそうな表情をして立っていた。

 下を見ると、お茶がこぼれている……どうやら、これをかけられたようだな。


「いえ、お気になさらないでください。松浦係長こそ、大丈夫でしたか?どこか火傷はしてませんか?」


「え、ええ、優しい……じゃなくて、来なさい!」


「え?」


「横山君、悪いけど拭いといてもらえるかしら?」


「は、はい!」


「ごめんなさいね。では、いくわよ」


「ちょっと——!?」


 そのまま手を繋がれた状態で、オフィスから出て行く。

 や、柔らけぇ……!女性の手ってこんなに柔かったっけ?

 心臓が高まる……いい歳こいた大人だっていうのに……。



 そのまま、誰もいない給湯室に入る。


「み、水戸君!」


「はい?」


「ご、ごめんなさい!」


「ええ、さっきも聞きましたよ。大丈夫ですよ、少しかかっただけですから」


「で、でも……赤くなってる……えっと確か……冷水すぎてもダメで……」


 こんな時になんだが……オロオロしてて可愛いのだが……。

 しかも、手を握ったままだし……。


「松浦係長、常温のお水を出してもらえますか?」


「え?あっ——そうよね!水戸君のがよく知っているわよね!」


「まあ……これでも、料理屋の息子ですから」




 その後、松浦係長に患部に水を当ててもらう。


「ど、どう?痛い?」


「平気ですよ。この程度なら、水ぶくれにもならないでしょう。冷やすだけで十分かと」


「ホッ……良かったぁ……」


 いかんな……会社内なのに、可愛らしい感じになってる……。

 これは……俺がいるからということか?

 ……そうだとしたら……俺は……。


「み、水戸君……?平気?」


「え?ええ、大丈夫ですよ」


 下から覗き込むのは反則だろ……。

 デコルテが……ああもう!


「で、でも……怒った顔してる……」


「いや……これは……」


 多分、顔が強張っているだけだと思うのだが……。

 貴女にドキドキしてますなんて言えるわけがないし……。


「あっ——私ったら!そうよね!えっと、拭くもの……」


「松浦係長……?」


「あった!これでっと……」


「ちょ——!?」


「シャツにはついてないわね……スボンには……色が違う箇所……ここかしら?」


「自分で出来ますから!」


 布巾を受け取り、自分で下半身を拭く。

 なんつーポーズを……!無意識か!?自覚なしか!?

 しゃがんで、俺の股間の目の前で……ダメだ、考えるな……!


「ご、ごめんなさい……」


「いや、だから、怒っているわけではなくて……」


 熱い……!色々な意味で……!


「そ、そうなの……?」


「ええ、ですから悲しい顔しないでください。笑った顔のが似合ってますよ」


 ……あれ?俺は今……なんと言った?


「へ……?な、な、なっ——!」


「す、すみません!」


「べ、別に……ありがとぅ……あ、あのね、飲み会に行くの?」


「はい?……ええ、たまには良いかと。後輩を指導するなら、そういうこともやっていかなくてはいけないかなと」


「うっ……!そ、そうよね……うぅー……複雑……」


「松浦係長……?」


「……よし!決めた!」


「はい?」


「水戸君は、ここで少し休憩すること!良いわね!?」


「は、はい……」


 そう言い残し、松浦係長は給湯室から出て行った……。


「……はて?一体なんだったのだろうか……?」




 その後休憩したのち、仕事に戻ると……。


「おう、平気だったか?色々と」


「ああ、平気だったよ。きちんと謝ってくれたしな」


「そうなんだよなー。俺にもお礼言ってくれたし……なんか、最近丸くなったきがするよなー。元々は美人なんだから、ああしてれば良い女なんだけどなー」


 ……なんだ?この気持ちは?

 イライラする?どうして?

 松浦係長の良さを、みんなが知ることは良いことじゃないか。

 仕事も捗るし、空気も良くなるし……。

 ……まさかな……そんなわけないよな。


「で、どうするんだ?」


「どうもしないよ。上司だぞ?」


「は?いや、飲み会に参加するかどうか……」


「……悪い、そうだったな。ああ、参加して良いか?」


「もちろんだ!みんな喜ぶぜ!よーし!俺も終わらせるぜー!」


 ……危ない、危ない。

 俺はなにを言おうとした?

 ……いいや、頭痛くなってきたし……。

 とりあえず、俺も酒を飲んでスッキリするとしよう……。




 ……と、思っていたはずなのだが……。


 どうしてこうなったのだろうか?


「係長!水戸先輩が迷惑がってますよ!」


「あら、森島さん。水戸君は、迷惑がってなんかいないわよね?」


「えっと……」


「いいえ!迷惑がってますー。ここはプライベートですよー。上司だからって、横暴じゃないんですかー?」


「いいえ、上司だからこそです。水戸君は、私の大切な部下です。羽目を外さないように、きっちり見ておかないといけません」


 ……はて?何故だろう?

 氷の女王と言われる松浦係長……。

 社内のアイドルと言われる森島さん……。

 2人に挟まれているのか……。


 落ち着け……。

 会社を出た辺りから、思い出すんだ……。

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