第51話 ベッドで裸の付き合い?

「ふーん、片付いてるやん。……っていうか、何もないなぁ」


 人の部屋を無遠慮に眺め回し、クラリーナは呟いた。

 ティナは呆れつつ、肩を竦めた。


(まぁ、言ってることは正しいけど)


 孤児院の一角に宛がわれたティナの部屋には、確かに物が少なかった。

 古いベッドとわずかな服を入れる小さなクローゼット、そして母の形見である愛銃『クラリオン』を掛けておくフック。

 他にはとくに何もない。


「とにかく今日はなんや疲れたわ。さっさと寝よ」


 言うなり、クラリーナは次々と衣服を脱ぎ始めた。

 寝間着は持っているのだろうか、荷物があるようには見えないが——


 ティナがそう首を傾げていたのも束の間、クラリーナはついにショーツだけを残して裸になってしまった。

 白い背中が暗闇の中でも浮かび上がり、ティナはぎょっとする。

 そしてクラリーナがそのままベッドに潜り込んでしまったので、さらに驚いた。


「そんな格好で寝るの?」


「うん。うち、寝るときは裸派やねん。ティナやんもそうしてみ? シーツが肌に直接当たって気持ちいいんよ」


「いや、私は……」


「あー、もしかして恥ずかしい? ふふ、ティナやんもお年頃やなぁ。お姉さんくらいになればこんなのへっちゃらやわ」


 急に年上面され、シーツから顔を出してにやにやと笑われた。

 ティナは何故だかカチンと来て、自分も手早く服を脱いだ。

 そうしてショーツ一枚になり、ベッドの中に滑り込む。


「な? なんか解放された〜って感じせえへん?」


「うん、まぁ」


 確かに素肌にシーツの感触がして心地良いが——


(クラリーナと裸で向き合っている、この状況はなんなんだろ……)


 ティナの疑問を置き去りに、クラリーナはころりと寝返りを打って、天井を仰いだ。


「なぁなぁ、レッドとグレインやったっけ? どっちが好みなん?」


「は? どういう意味?」


「だって二人の騎士に守られるお姫様ってことやろ、ティナやんは」


 ティナもまた体を動かして、仰向けになった。

 自分の顔は今、仏頂面になっていることだろう。


「そんなんじゃない。私はブルーローズの一員でリーダーだ。確かに斥候のレッドや盾役のグレインに守られてる面はある。けどそれはチームの役割。私も狙撃手としての役割を果たしてる」


 するとクラリーナは一拍置いた後、ぱちぱちと拍手した。


「なんや、見上げた根性やんか。少し見直したわ。ティナやんくらいの実力があったら、チームやなくてソロでも活躍できるんとちゃう?」


「……実は元々ソロだったの。でもそれじゃ第二層も突破できなかった。私一人の実力なんてそんなもの」


「そんなことないよ、あんた強いやん。それにな、やっぱこう一人の力で困難を成し遂げてなんぼやと思うんよ!」


 ぐっと拳を握って、クラリーナが力説する。


 ティナはふと、レッドと意見が対立した後のことを思い出した。

 チームじゃなくてソロならこんなことは起こらないのに。


 確かに一瞬だけ、そう思った。けれど——


(でも、私は決めたんだ。ブルーローズを結成したとき)


 あの時の高揚感を今でも覚えている。


(レッドとグレインと。一緒に戦い抜くんだって……)


 ティナはクラリーナに小さく首を振ってみせた。


「一人じゃできないことはたくさんある。仲間の力が必要な時がある」


「……うちはそうは思わへん。人の手なんか借りたない」


 クラリーナは急にティナに背を向けて、黙り込んだ。

 何と言っていいか考えている間に、体が猛烈な疲労感に包まれ、瞼が睡魔によって優しく閉ざされる。

 ティナは落ちるように眠りに入った。



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