第十二話 王女の嘆願
「まさか私が死んだところでこの戦争が終わると本気で思っているのかしら」
「当然でしょ。貴女が貴族連合を煽るような政策を担わねばこんなこと起こっていないわ」
「一つ確認、何故私が政策を担ったと世迷い言を」
「世迷い言じゃない。根拠ある発言よ」
話に夢中になれば当然隙も生じるわけでミカサは私を助けようと動こうとすれど、来ないように首を横に振る。
ベレスの考えを聞いておきたい。
「第一に食料問題について。元々じい様がシュピット伯爵と共同であたろうとして居たのを私は知っていた。なのに蓋を開ければ名も知れぬパーシャ文官がチームリーダーとして率いる始末。しかしながら内容は全然異なり昇華された出来だった。となれば第三者の介入があったといってまず間違いない」
「どうしてそこで第三者の存在が浮上するのかしら」
「三等文官であったパーシャが任じられるとは裏があるそう考えるのは自然でしょ」
「まぁ~そう言われればそうね」
「そこで農林省長官も関わっていない上で、国王を納得させるのは容易ではない。しかし溺愛する娘の進言ならばそれも簡単」
戒厳令をお父様が発令し、あの時会議に私は出席したことは誰も口外していないはず。その上でその結論に至るとはいやはや驚きを通り越して褒めたいよ。
「そこで王女が影で暗躍している可能性に思い立ったわけ。そしてここ最近の出来事を結びつければ点と点は繋がり一筋の道が完成するわ」
「影で暗躍って悪いことしているみたいだねミカサ」
「まぁ~貴族の横暴な圧政解消の為徴収税に制限を設けたり、諜報暗部をフル稼働させての悪逆貴族の摘発が数えるだけでも指の本数が足りない程、だから目をつけられるんですよ。はぁ~もう少し控えるように言ったのに」
帝国の動きがここ数年目立って活発化しており危機感を覚えたお父様はストレチィア国を守るため近郊諸国との交渉のため国を留守にしがちでその間私は好きなように自国の改革をすることが出来た。
勿論お父様に許可を頂いたうえでだ。
でもどうしてあんなに気前良く了承してくれたんだろ。
いくら私のことが好きすぎるからとはいえ、十四歳の私に国政を任せるとは安易に考えても無理ゲー過ぎな気がしてならないのだけど。
多分ベレスは、国王が不在の間陣頭指揮を取る者の正体を探ったのだろう。そして私に行き着いたってあたりかしら。
「今そちらのメイドが肯定したような発言をしたってことは正解で良いのかしら」
「これ以上否定したところで信じそうにないから教えてあげる。貴女の想像通りこの戦争を引き起こす発端は私にあるも同義。けどどうして」
ベレスがしっかりと状況を分析する力があることを知れた。いや知っていたからこそ、この目で確かめてみたいという欲求が私にはあったのだ。
話の途中でズシンっと大地が揺れ私の会話が途切れた。
瞬間嫌な光景が脳裏に宿る。人生の岐路、三度目の世界で死を直感した時見た王城からのあの光景が。
惨劇と呼べる民の嘆きに包まれたあれが。なぜ今過る?
「何今の」
「王女様諜報暗部から連絡が、戦場に魔物が出現したとの報せが」
ミカサの声を聞いた瞬間、目の前のことなどお構いなしだ。身体が勝手に動く。
広間を出る直前後ろからミカサが私を引き止めようと発した言葉は無視。
王城の通路を疾走する私を仕えるメイドや文官が多数目撃しても知らんぷり。私は全速力で王城の庭に直行すれば風魔法を用いて天高く昇れば高き塀をサッと跳び越え、着地地点である冒険者ギルドを目視し滑空した。
「なんだったの今の?」
取り残されたベレスが唖然と立ち尽くせばミカサが詰め寄り手に持つナイフを奪い取る。
「これは必要ありませんから没収です」
「えっと確認、今の誰……」
「レテシア王女ですが」
「てか止めないで良かったの」
「ああなれば私どもには止めるのは無理なので諦めてます。それと先の質問に対し何故貴女様は、王女を誰と問うたのですかお聞きしても?」
「だって真っ先に走り出したのも驚きだけど、私が完全には眼で追いかけれなかった。彼女相当強いでしょ、あんなのがウチの王女なわけ。でもなら最初に出会った彼女の姿は見間違いだった」
一度だけ目撃し早々に王女に失望し、期待感を切り捨てた過去の自分を恥じる。
「先入観は人の瞳を曇らせるものですよ。今の王女と実際に相対してどうでしたか?」
「不思議な感覚に陥ったわ。あんな人だっけ」
「ベレス公爵令嬢は王女と面識が?」
「一度ね。それも端から見ただけ話してはいないわ。だけどあの時とさっきでは全くの別人に思えてならなかった」
「ですよね」
ベレスの発言に相槌を打つミカサはこの先のことを考え未来を想像する……。
自分は影に徹し支えることしか出来ない。だけど彼女なら。
もっと大きくなった王女の横に立つ
※※※
「な、なんだぁ一体?」
空を跳び目的地に無事到着した私は王都に外出制限が敷かれてるいてもお構い無く活気がある唯一の建物の戸を全開で入場する。
なによりも始めが肝心だものね。
突然の来訪者に冒険者ギルドに詰めていた数多くの冒険者が一斉に私に注目する。
奇しくも私がルーシャとしてここを初めて訪れた時と構図が同じだ。しかし私が誰だか皆弁えている。
走るのに夢中で無理矢理引きちぎったドレスのスカートの裾が乱れていようとこの服装、そしてなにより私の顔を誰もが知っている。
勿論悪い意味で広がった顔だが……。
「どうして王女様がこんな場にいやがんだ?」
強面筋肉マンことブッフとひょろ顔男子ニーブレースの兄弟冒険者が、あの時と同じ様に突っ掛かってくる。
初めて出会った時こそ苛つく対象の二人という認識しか無かったが、アスラさんの話だと見た目年端もいかない幼子だった私とベレスを按じ敢えて穿った態度で追い返そうとしたらしい。つまり根はいいヤツなのだ。
王族と貴族との諍いが発端とはいえ今は戦時中。付け加えればこの戦争の中心人物である私がここに来れば皆が警戒するのは必然。
「あ、あのぉ~王女様どうしてこちらに」
私の登場に驚いたブッフも開いた口が閉じず会話出来なさそうだと勇気を持って私と対話に臨んだのはアスラさんだった。
「
「王女様はご存知ないかも知れませんが冒険者ギルドは国際条約上貴族同士の諍いなど内政に関する争いは不干渉が原則なのです」
「それは承知の上で頼んでいます」
「たとえ王女様と謂えど成りませぬ」
一介のギルド職員ならば臆しそうになるのは当然だ。それでも彼女は私に真っ向から立ち向かってきた。
その勇気には尊敬の念を捧げよう。だけど私も黙って追い返される訳にはいかない。皆の命が懸かっているもの。
「お前さんは
「ちょカルミラさん冗談は止めて下さい」
「いいじゃないかい聞かさせてくれ」
「私から提示出来るのはお金です」
「お金か……それは誰のだい」
「勿論私のです」
「そのお前さんの金とやらは、この国の民から巻き上げた血税に依るものだろ」
「そ、それは」
「違うとほざけるのか王族。貴族と王族の諍いに国民を巻き込むな、勝手にお前らだけでやるんだな」
私の正体を知り得ても尚の言い回し。ここでのお金は私が冒険者ギルドで稼いだモノだとして知っていて酷い。
だけどここが肝心なのだろう。じゃなきゃカルミラさんはこんな事言うもんか。返答を間違えるわけにはいかず。
「何か皆さん勘違いしていませんか?」
「勘違いだと」
「はいだって、今王国軍が相対しているのは普通の賊ですよ」
「いやお言葉ですがそれは違います王女様。貴女方が戦っているのはグスタリウス率いる貴族連合です」
「えっ!?彼ら貴族なんですか」
「うんそれはそうでしょ」
思わず私に素のツッコミを決めてしまう格好にすぐに気づけばアワアワしている様子が面白い。
「だって彼ら守る対象の国民から暴利を尽くして爵位を剥奪された身なんだから、不当な行為じゃなく自業自得。今は国賊以外の何者でもないでしょ」
まぁ、性急に事を囃し立てた結果の今なんだけどそこはほら追求しない体でお願いしますよ。
すればアスラさんもどう答えるべきか迷う。
「成る程お前さんの言い分も一理あるな」
「あっ、ギルマス」
冒険者ギルドのトップ、フォンゲットギルドマスターがこの騒ぎを聞きつけ降臨正面に立ちアスラ、カルミラコンビと私の問答に加わる。
「初めましてギルドマスター」
「どうも王女様」
「それで今の件を踏まえた上でお返事をお聞きしたい。冒険者ギルドは動いてくれますか?」
「良いだろうと言いたいとこだが却下する」
「何故ですっ!」
「金だよ金。王女様はいくら出せる」
「それは参加される冒険者お一人に金貨二枚でどうですか」
「はぁ~聡いんだかそうでないのか……。カルミラも言ったが誰が金を出すんだ?」
「だから私がっ」
先刻のカルミラさんの言葉がふと過り、あちゃーと頭を抱え込む彼女の姿は紛れもなく私を心配してのものだ。
いっそ私の正体バラしてやろうか。いやダメだ。他にもやらなきゃならないことあるのにレテシアとルーシィが同一人物だと知られる訳にはいかない。
「しゃ~ねその大義名分私が引き受けてやるよ。アスラ、クエスト発注しろ」
「は、はい……」
カルミラの突拍子もない発言につい返事をするも本当に大丈夫なのかと視線はギルマスへと向かう。
「たくっ、ギリギリもいいとこだぞ。だけど仕方ねぇS級様直々の依頼だ。報酬は弾むだろう。参加する奴は名乗り出ろっ!」
ギルマスの宣言は建物内に居る全冒険者の耳に届くほど大きく、そして誰もが立ち上がり戦の準備を始め出す。
彼らの瞳はやる気に満ち溢れるほど輝かせ。
「ギルマス、懐なめんなよ。そうだなぁ~一人当たり受ければ金貨三枚だ」
「「「「「「しゃーー」」」」」」
一斉に拳を掲げ誰もがクエストを受注していく様は私にとって驚きしかなかった。
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