第十話 分岐する世界へ
王の間。ストリチィア王国歴代国王が座る席が用意された王国の最高位の人間が外来する者と謁見するための部屋。
そこに今代の王カイロリアスは初めて、娘と対峙するように向き合う。
こんな瞬間が訪れようとは臣下一同誰も予期せぬことであろうか、否今この場に集う三名を除けばの話であろう。
弱冠十五にして諜報暗部に招かれ五年以上国の為に尽くし一部隊の長に登り詰めたミカサ。
若輩ながらも彼の知恵は他を圧倒し二年にして国の重要政策の一つを指揮しているパーシャ。
そして過去国の中枢騎士団長の任に就いた歴戦の覇者ホーエンハイム。
異色とも呼べる三人がこうして集い、その先頭に立つ率いる一人の少女の構図。
よもやこんな日が来ようとは王は思いもしなかった。
「敢えて初めましてと言うべきかしらカイロリアス国王」
少女の一挙一動に至るまでどこを取ってしても、カイロリアスは知らない動きだ。本当にアレが私の娘なのかと疑念が生じるまでに違いが見受けられた。
もしやと思うきっかけはあった。
忘れもしない娘の二年前の誕生日から数日して開かれた会議の頃から違和感を覚えていた。その後実のところミカサから報告は上がっていたが、正直自分の目を疑う内容ばかりに非常に困惑した。
だが決して娘は私に悟られたくないらしく、静観し続けようやく今日面と向き合って言葉を交わす開口一番の台詞に度肝抜く。表情が崩れそうなのを堪え、娘のためにもここは国王として振る舞おう。
「そうだな。しかしこうして直接会い対すのは初だが、主の行動は把握しておるぞレテシア」
瞬間驚いたように彼女の後ろに控えるミカサを一目するあたりまだまだだなと思いつつも今は雑念を払い除けよう。
「そうでしたかでは何故私がここに来た目的ももうお分かりになっていますか?」
「大方先の報告にあった貴族の反乱についてだろうな」
もうじき貴族の反乱が起こることは諜報暗部からの情報により予期され国王も備えを怠らずにいたが、ここに来て帝国まで介入してこようとは気づけずにいた自分を悔やむ。
それは娘も同じだろう。
彼女の表情は報告を聞いた時の自分と瓜二つなのだから。
「単刀直入に申します。足りますか?」
「全く足りておらぬ」
何を言おうとしているのか手に取るように理解し、即座に娘の問いに国王は答えた。
※※※
やっぱり……。
貴族の反乱に備え、今王都には騎士団・魔法師団含め五千人。たとえ一部貴族が一万の軍勢を持って蜂起しても数日は耐えられる計算だ。
その間に国王側の近隣貴族の私兵が間に合えば勝てる見込みはあった。
しかし今は帝国の存在が話をややこしくしている。近隣諸侯は帝国の襲撃に備え兵を割かねばならずまとめな援軍を今は期待出来なくなったのだ。
こうなれば致し方ない。
最終的にどちらかしか選択出来ぬ時、国を守るのではなく、この国で暮らし生きる民こそ守るべき宝として選べ。
それが王家が諸侯に対しお父様が触れたお達し。勿論私だってそうする。
国とは民あってこそ。その民を見捨てるとは甚だしい限り。
「王都の兵五千の内二千を国境に派遣することを主らが到着する前に決めた」
「それはホーエンハイム卿を見込んでですよね?」
「無論だ率いてくれるかホーエンハイム」
元騎士団長の不祥事で空席となったポジションに当初、ホーエンハイム卿を再抜擢しようと国王自らが嘆願するも彼は断ってくれた。
理由を聞けば、武芸の指南役をまだ全う出来てないからだと告げられれば私も困り果て、もう一度戻るよう説得するも頑なに首を縦に振ってはくれなかった。
ホーエンハイム卿の復職叶わなかったとなれば当時後釜に座ったのは騎士団において実力はなくとも、隊の指揮能力が高い人物だ。しかし正直まだ騎士団長になるべき器に育ってない心許ない人材と言ってもいい。
「このホーエンハイム謹んでお受けします」
今反乱軍を鎮火させる為に必要なのは圧倒的なカリスマ性の持ち主。となれば今の王都にはホーエンハイム卿しかいない。
「ホーエンハイム卿率いる軍はこれで三千」
「お言葉ですが、国王。これで五千です」
「何を言うレテシア」
二万の兵による現在進行形の挙兵は予期せぬことではあっが、予測はしていた。
これから戦が起こるとならばやるべきことは一つだけ。戦力の補強。
私が用意した策の一つを今初めて提示する。
※※※
「戦に行かれるとは本当ですかじい様?」
「早いな、誰に聞いた」
「そんなこと今はどうでもいいではありませんか。しかもクシャトリヤ公爵家の私兵二千を近くの集落に待機させていたとは、いつから決まっていたことですか説明してください!」
戦争が起こる報は、王都にある公爵別邸で暮らすベレスのもとにも舞い込んだ。しかも国王軍の総大将に就くのがホーエンハイムだと知れば取り乱すのも無理はない。
「ベレスお嬢様、落ち着いて下さい」
「落ち着けるわけないでしょガントレット」
ガントレット私兵団長。クシャトリア公爵家が抱える私兵団を指揮する騎士で、長年公爵家に仕えてきた屈強な男だ。
「離してやれガントレット」
「しかし」
「もぉ~よい。ベレスとは二人でじっくりと話したいと思っておったとこだ。構わん」
ガントレットをその場に残しホーエンハイムは孫を伴い邸宅の庭へと移し二人肩を並べ座る。こうして二人共に語らうのはいつぶりだろうか。幼い頃より、貴族社会に適応出来ず公爵領から出ようともせずワシのもとで日々剣術に明け暮れた日を思い出す。
「久しいな。最近は長く共にいたのにこのような時間は皆無だったからな」
「そうねサーシャがいつもいたものね」
まだサーシャの正体がレテシア王女だと、孫はどうやら知らないらしい。いい加減仲も良いから言えばいいと何度口にしても王女は頑なに秘密にすると仰れば老人の出番は無しときた。
「隠居した身であるはずのじい様がどうして戦場に出るの?」
「それは軍を率いれる人材がワシしかおらぬからな。アストライアは帝国の動向を見張るため遠征軍の長に任じられ、今の騎士団長ではこの戦い荷が重すぎるとなればワシの出番しかなかろう」
「問題はそこよ!何故、ポリンヌが騎士団長に選出されたの。じい様の引退の時、トーファンになったはず、その彼は突然の退役。その後姿を眩ませたそうじゃない。しかも退役した理由が王女に嫌われたからとか。そんな王女の首差し出しちゃいなよ」
「何を言うかベレス。公爵家の人間がそんなこと口走るなっ」
思わず叱りつける。
自身が仕えるべき王家にその言い草なんと情けないことか。
「だってそうでしょ。今回の反乱だって王女の我が儘に反発した諸侯貴族が起こしたものだし、旗印はトーファンの息子ときた。因果応報王女の首一つで終わる戦争ならそれが国の為でしょ」
そうかこの子も自分なりに考えてはいるのだな。裏事情等知らなければ、貴族の反乱は王女に起因するものであり王女さえ居なくなれば丸く収まると思われてもしょうがない。
ベレスの考えは最適解だと誰もが思うことだろう。
「お主の目で今一度王女がどんな人なのか確かめろ」
もう何を言ったところで変わらない。
それが分かってしまえば何も言えなかった。
だから伝える。今言える精一杯の言葉を。
「じい様?」
願わくば見たかった。
王女が描くこの国の未来を。
しかしワシは見ることが出来ないのだろう。そんな予感があった。この戦いでおそらくワシは死ぬ。
死神の鎌はこく一刻と、ホーエンハイム=クシャトリアの背後に近づきつつあったことを戦の猛者であった彼は自然と感じ取っていたのかも知れない。
だがそれを運命だと知る者はこの世界において誰もいないことだろう。但し未来を知る一部の例外を除いて。
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