悪女は何度でも生き返る~都合のよい未来を目指して~
GOA/Z
第零話 偽りと投げ棄てる未来の可能性
「レテシアっ!そこまでだ投降しろ」
今私は人生最大の崖っぷちに追い込まれている。
最大と言っても三度目だが。
この場所は産まれてから学園に通うまでの間長年過ごしてきた王城内部、そこから王族の離れである離宮へと続く橋の上に立っていた。
王城側の出入り口には共に学生時代を過ごした他国の第一王子を筆頭に私を恨む鋭い眼光で睨む付ける私の国民達。彼らは生活用品を武器に私に牙を向け殺そうと距離を詰めようとする。
離宮へと続く橋の上からは城下の景色が良く見える。本来であれば色鮮やかな光景が彩るのだろうが今は違う。燃え上がる黒煙立ちこめる都は悲惨で国民の手により放たれた炎が王城を燃やし、橋の下から昇る熱風が私の皮膚を乾燥させいや溢れる熱気が身を焦がすようにひりひりする。
「マークス……」
「どうしてあんなことをしたんだレティ。君があの時語った理想は偽りだったのか」
“マークス、私ね。何気ない日常のなかでこの国の人が笑って過ごせる世界を作りたいの、手伝ってくれる?”
彼と学んだ学園の庭。その場所で彼に語った私の理想。
そしていつか叶えたかった私の夢。
その為に私は今日まで日々努力をした。でもダメだったみたい。
今の彼らに何を言ったところで無理だろう。それに私だってどうしてこんな風になってしまったのか。
「忘れたわそんな昔のこと」
「マークス王子、あんな悪女に何を言っても無駄さ。さぁ早く殺しちまおうぜ」
友人の説得を終えるまで気持ちを堪えようとしたのか、手を止めていた国民が吐き捨て動こうとしたがそれは公正な男が許さない。
「駄目だ。彼女には公正な裁きを与える。だからレテシア、抵抗せずにこっちに来い」
友の手が伸び、私との距離が縮まる。
縋りつきたい。
胸の奥で衝動的に強い気持ちが湧く。
そして私は、あの手を握った先の未来。歩むを止めず向き合った後、辿り着くであろう未来の可能性をつい考えてしまう。
きっとそこに私はいない。
だけど私の国民は笑っているだろう。
「ダメね私。こんな世界がきっと善くなるはずはない」
「レテシア……?」
争いが起こり、多くの人が嘆き悲しんだ。そして尊い命が損なわれた。
それこそがここに至るまでに紡がれ今を生きる私が歩んだ道程。
「私にとってこの世界は偽り。皆が幸せになれる世界こそ私の夢のあるべき形なのよマークス」
「やめろバカ!」
ならば間違ってる。そう断言しよう。
お願い戻って!!!。
私は勢いそのまま跨ぐように通路の壁を飛び越え、業火舞う炎の渦の中へと身体が降っていく。意識が遠のいていく。
「落ちていきやがった……」
王女が転落する様子をただ呆然として眺めるだけだった国民の一人が呟けば、第一王子は彼を追い詰めるが如く迫る。
それはどんな感情からなのだろうか。怒り、哀れみ、悲壮感。
いやそんな語彙で言い表すことの出来ないもの。
「何故こうなった、僕は君となら叶えられると信じていたのに」
かつて少年は将来を少女と話し合った。しかしそれは虚構と化す。
少年は王子として大成を果たし対し少女は悪女として名を歴史に刻みその生涯を潰えることとなった。後年悪女の功績が見つめ直される機会があったかも知れないがそれは今語ることでは当然ない。
だってこれから世界は流転するのだから。
王女の決死の行動それは奇跡を信じ、
この世の理不尽に挑戦する王女の三度目の
※※※
この世界には、度々問題定義される一つの歴史書が存在する。
そこに書かれていた文書を抜粋しよう。
民を想いその行動は誰からも称賛され、愛された王女がいた。
そして王女の傍らには志を同じくした頼もしき他国の王子が側に居て一緒により善き未来を作ろうと奔走したかのように見えた。しかし王女は王子、そして国民を裏切り自分だけが利する形を影で構築しようと暗躍していたのだ。
その事実の露見をきっかけに国民感情が爆発、国は荒んだ。
他国の王子の介入もあり王女、「傾国の悪女」は討ち取られた。
歴史書で問題視されている箇所はまさしく最後の一文。
本当に王女は国民を裏切ったのか悪女なのか、ねじ曲げられた本当の真実があるのではと歴史を探求する者から見れば、疑わずには居られなかったのだ。
ただいくら探求したところで、真実に辿り着ける者は誰も居なかった。
そんな一つの未来の行く末があるのは事実であろう。
但し他にも無数の未来、可能性はあった。
とある世界では、王女は無知な少女に過ぎず貧困に喘ぐ民が居ることも知らずに暮らし結果断罪された未来がある。
とある世界では、王女は知恵を身につけ民の為貧困から立ち直らせようと動いた。
しかしこれまでの利得権益を維持したい一部貴族の者が一斉に蜂起。その戦を収めようと王女は行動し、その最中流れ矢に心臓を貫かれた王女は、命尽きる最期の一瞬まで国民を按じたまま亡くなった未来がある。
とある世界では、王女は国民を貧困から救い反発する貴族を抑えこみ、より善い未来を作ろうと最善を尽くし奮闘した。
しかし何の因果か、王女は自身も知らぬ間に「傾国の悪女」と呼ばれるまでに国民感情は高まり、国民が王族に対して一揆を起こし王女は自身の手で死を選んだ未来があった。
そして物語は、新たな世界、別の可能性を宿した一ページの幕を開ける。
これは死と隣り合わせの物語に身を投じ、戦うことを決断した一人の少女の新たな足跡を描く物語である。
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